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生まれた時から好きでした  作者: ジングルベル
7/8

光の姫様 その6

「なぁ岡本、サッカー部って終わった後も遅くまで居残りしてる奴いる?」

「んー?」


 昼休み、俺はいつも通り野田正丸、岡本大我と弁当を食っていた。

 野田は俺と同じ野球部だが岡本はサッカー部に入っていて、俺はサッカー部のことはよく知らない。


「んーいねーな、居残りさせられる時はほぼ全員させられるし、野球部はどーなの?」


 パック牛乳から伸びるストローを噛んだまま、岡本はやる気の無さそうな声で答えた。


「こっち、俺が毎日残って片付けとかやってんだけどさ」

「え?パシられてんの?」

「コイツマジで1人で毎日毎日練習とかトンボがけとかしてるぞ、しかも自分からやらせてって頼んでる」


 野田が口を挟む。


「マジかよお前ドMかよ」

「やんなくてもいい事までやってるし。で、なんでそこまでして残ってんの?」


 野田に聞かれて言葉に詰まる。理由はあるといえばあるけど口に出して説明するのが難しい。


「……んー、ボランティア?」

「うわ出たよボランティア、めんどくせーワード」

「いや、っていうか、なんか働かされてると気持ち良いっていうか」

「ガチでドMじゃんお前」


 うーん……やっぱり伝わりにくい気がする。っつーかドMじゃねーし。

 でも本題はそこじゃない。


「でもさ昨日片付けしてた時さ、『この時間まで学校いるの俺だけじゃね?』って思ったんだよ」

「いっつも何時まで残ってんの?」

「着替えも含めたら6時……50分くらい?」


 岡本がストローから口を離してははっと笑う。


「すげぇな、熱心すぎだろ」

「あ、いやでも昨日はちょっと早めに帰ったから……6時40分くらいだったわ」


 すると野田が補足する。


「ちなみに野球部が解散するのは6時な。ちょい伸びたりするけど普通の奴はさっさと帰るからな」

「じゃあ40分でもすげぇじゃん」


 岡本はそう言いながらぐーっと背伸びして椅子にもたれかかった。


「……っはー、そういえばサッカー部も加賀美が時々残ってなんかやってたわ」


 加賀美か……そういえばあの人もサッカー部だったな。


「あーあのモテモテ男かぁ……」

「え?モテモテなの?」


 野田の言葉につい反射的に尋ねる。


「知らんの?アイツ女子からむっちゃ告られてるぞ」

「へーすげー」


 何やら棒読みっぽくなったけど、本気ですごいと思った。

 信頼が厚くてリーダーシップがあって運動神経抜群なのはわかってたが、女子人気も高いとは。本当に同じクラスの生徒か?


「俺と真逆だなー……」


 すると岡本と野田が同時に笑う。


「いや、お前そもそも女子と関わるようなこと全くしねぇじゃん」

「なになに?小坂も実は彼女欲しい人?」

「え?いやそりゃ欲しいけどさ。ちげーよ何でもできるなってことだよ」


 ふむ、とそれを聞いた岡本が急に真面目な顔して腕を組む。


「加賀美はなんでもできるっつーか、なんでも努力してるタイプなんじゃね?一緒に練習してる時、アイツが手ぇ抜いてるとこ見たことねえわ」


 野田も怠そうに言う。


「まーそこまで努力できるってのはやっぱすげぇことだけどな。俺には無理だわ、過労死する」

「一種の才能ではあるかもな、加賀美や小坂みたいな奴の」


 岡本が続けて俺の名前を急に出したのでビクッとしてしまった。


「は?なんで俺?」

「えっだって居残りしてんじゃん」

「多分お前が一番最後まで学校に残ってる生徒だろ?そういう話だったじゃん」


 野田も岡本も当然かのように答える。

 そういえばその話をしてたんだった。


「あっ、そうそう、そう思ったんだけどさ。俺の他にも残ってる人見たんだよ」

「ふーん、誰?」

「莉原さん」


 するとまた2人とも「あぁ……」みたいな顔をする。


「加賀美の女版か」


 俺は莉原さんのことはよく知らなかったが、その野田の短い言葉だけでなんとなくのイメージはついた。


「つまり信頼が厚くてリーダーシップがあって運動神経抜群で男子人気が高いんだな」


 真面目にそう言うと、岡本が変な目で見てきた。何?


「……やっぱ馬鹿だよなお前」

「おい馬鹿って言うな。どっか間違ってたか?ちゃんと『女子人気』も『男子人気』に言い換えたぞ」

「ほぼ間違ってないけど、言葉の雰囲気がなんていうか馬鹿」


 理不尽じゃね?


「よせ岡本、今更だぞ」


 そう言ってニヤニヤ笑う野田にも何か言い返そうとしたが特に思い浮かばないところで、岡本が続きを話し始めた。


「ていうか言い換える必要無いんだよなぁ」

「え?何が?」

「何がじゃねーよ女子人気の部分だよ」

「どういうこと?」

「莉原は男子からもモテるけど、それ以上に女子からモテモテなんだよ」


 言葉を頭の中で繰り返す。

 意味がよくわからない。


「なんで……?」

「見てりゃわかる」

「小坂ってそういうのに疎いよな」


 野田も意味がわかってんのか。でも見た目は普通の女の子だった気がするぞ?


「なんなんだろうな、別にすごくボーイッシュって訳じゃないんだけどわかるよな」

「友情や憧れが恋に変わっていくみたいな感じなんだろうな」


 2人だけでわかってる風に話してるのを見るとちょっと悔しい。


「お前ら莉原さんのこと好きなのかよ?」


 俺が尋ねると野田はいやいや、と手を振った。


「俺、ショートヘアよりロングヘアの方が断然好みだから。林凛ちゃんと付き合いてえ」

「話したことも無い女子をちゃん付けすんな」

「ピュア過ぎだぞ小坂。あのツンとした感じが良いのよ、わかる?」


 もうそれは何度も聞いたことがあるので無視して、「岡本は?」と聞く。


「うーん莉原はなぁ……顔も体も良いし可愛いと思うけど、恋愛感情の意味で好きにはならんだろうな。話したこと無いし、これからも特に話さないだろーし。違う世界って感じ」

「お前ら、なんか考え方が正反対だな」


「まあそんなもんよ」と岡本は俺の言葉に答えた。




 部活が終わってから、俺はいつも通り1人残って壁当てや片付けをしていた。

 でも、心の中ではまだやっぱ迷ってる。俺何がしたいんだろうって思っていた。

 だけど今更、自分がやりたいと言ってやりだしたことをいきなりやめる訳にはいかないし、そんなことしても悩みが晴れるとも思えなかった。


 加賀美や莉原さんに、どうして居残りなんかするのか聞いてみたい。

 あの2人も俺と同じでなんとなくやってるんだろうか。


 色んなことを考えてるとどうにも手が進まなくなって、結局昨日と同じように早く帰ることにした。


 そしたらまた、更衣室の扉が開く音が重なった。

次回は今日中に更新します。

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