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生まれた時から好きでした  作者: ジングルベル
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光の姫様 その4

 仲良くなろうと約束した直後にも関わらず、3度目の沈黙が俺と神谷……ユーゴの間に流れていた。

 なんでって、ただ話すことが無い。

 なかなか祝典も始まらないし退屈だ。改めて周りを見渡してみた。

 でも俺たちの周りにいるのは背が高い大人ばかりで、その外側はよく見えなかった。


「り、リュー?」


 ユーゴが元気なさげな声で話しかけてきた。


「ん?」

「転生が起こったのって、リューが莉原に告白しようとした時だよな」

「うん」

「それって何か理由あると思うか?ただの偶然か?」

「えー?……わかんねぇ」


 告白しようとしたから転生したってことか?それだったら嫌だな。マジでただの嫌がらせじゃんか。

 ていうか、そもそも転生自体が嫌がらせだ。ゲームできないし野球できないし。

 ……でもユーゴは転生できたのがちょっと嬉しそうだったな。さっき熱心に話してたもんな。


「莉原に会いてぇな……って何度目だよこれ」


 今度はユーゴの返事はなかなか来なかった。しばらくして


「そんなに……好きなんだな」


 というボソボソとした声が返ってきた。

 そういえばユーゴは俺が莉原のことを好きだってことはいつから知ってたんだろう。加賀美が「皆知ってる」って言ってたからユーゴも前から知ってたのかな。


「ユーゴは、俺が莉原のこと好きっていつから知ってた?」

「え……?……前からなんとなくわかってたけど」

「マジかー」

「……でも告白するほど好きだとは知らなかった」


 そうだ、野田の野郎前日にクラスにメッセージ送ったって言ってやがったな。あれで好きってこと知らない人にも完全に知られ渡ったってことじゃん、許せん。


「そういや野田から送られてきたメッセージ何て書かれてた?」

「え?」

「ほら俺が告白する前の日にさ、野田がクラス全員に送ったやつ。俺が加賀美とこっそり莉原のこと話してたらアイツ割り込んできてさ。アイツ絶対人の秘密にちょっかいかけるじゃん?」

「お、おぅ。そうなんだ?」

「加賀美がカッコいいこと言ってさーそんで俺勢いで『明日告白する』なんて野田の前で言っちゃってさ。マジ失敗だよな」

「……あぁ」

「野田の奴その日の夜に、明日俺が莉原に告るってことクラスの莉原以外全員に広めたんだよ。ユーゴも見ただろ?」

「……」

「なんて書いてあった?」


 ユーゴは何故か俯いていた。

 何も言わないので、どうした?と聞こうと口を開いたが、その先にユーゴが呟いた。


「ごめん……それ、俺知らん」

「……え、なんで?」

「来てないんだよ、そんなメッセージ」


 来てない?

 おかしいな、野田のことだから全員に送ったと思ったんだけどな。アイツが手加減するとは思えねぇし。


「見逃したんじゃね?まぁそっちの方が俺としては好都合なんだけど」


 だけどまたユーゴの返事は無かった。

 仕方ねぇな、直接野田を見つけ出して聞くか。アイツも転生してるってことだからな。

 ……アイツこっちの世界の生活も楽しんでそうだな。こういう世界好きそうだし。


「野田とか加賀美とか岡本に会いてぇな……」

「ウグッ」


 ユーゴがいきなり変な声を出してしゃがみこんだ。


「大丈夫か!?」

「……心配してくれるのか、ありがとうよ。大丈夫じゃないけど大丈夫だ」


 ユーゴは歪んだ笑顔と共に親指を立てた。さっぱり訳がわからない。


「ど、どういうこと?」

「なんでもないってことだよ」

「どう見てもなんでもなくないじゃんか」

「いいんだ」


 俺に手のひらを向けながらユーゴはゆっくり立ち上がった。そして何事も無かったかのように「そういえば」と話し始めた。


「会いたいってリューは言ったけど、転生したクラス全員が同じ身分に生まれたとは限らない」


 そう話すユーゴの顔はまたさっきのように真面目になっていた。


「もし野田とか加賀美とかが貴族の身分に生まれていたら、偶然出会っても気軽に話しかけちゃ駄目だ」

「なんで?」

「無礼者として吊るしあげられる」

「……なんで?」

「そういう世界なんだよ。この国は地位が違う相手とは気軽に関わっちゃいけないんだ。そして俺たち農民はこの国では地位が低い」

「俺、今普通にユーゴと話しちゃってるけど」

「ここにいるのは全員田舎から来た農民だ。城下町の端っこまでしか入れない」

「ここ端っこなの?」

「そうだ。ここより城に近いところにはもっと裕福な役人達が住む場所があって、更に先には貴族の場所、そして最後に王の城がある」


 俺は軽く2回頷いた。

 今の説明を全部覚えられた訳じゃないけど、なんとなく雰囲気はわかった。


「城下町ってすげぇデケェんだな」

「そこかよ!」


 ユーゴがズッコケる。


「あっいや、つまり1番偉いのは王様ってことだよな」

「う、うん……そうだね。当たり前だね」

「……ん?でも光の姫様は王様より偉いとか聞いたけど」


 またスッとユーゴの顔が真面目に戻った。なんか面白いな。


「そう。光の姫様は王よりも上の存在。そして俺たちが転生した理由に、その光の姫様が大きく関わっているはずなんだ。俺が発見したある本には、この国で31人の赤子が同時に生まれる、と予言されていた。2年1組が30人だから、それと光の姫様合わせて丁度31人だ。これって、俺たちと姫様が集まれば何かが起こるってことなんじゃないか?」

「へー」

「…………」


 その時、周りの大人達が急にざわざわと騒がしくなった。

 見ると皆が空を見上げて笑ったり驚いたりしている。俺とユーゴも顔を上げると、空には金色の大きな模様が浮かんでいた。

 俺が何だあれ!と叫ぶと、ユーゴが横で「魔法陣」という言葉を呟いた。

 魔法陣?聞いたことある気がするぞ。そうだ、映画で大きな魔法を使う時に地面に丸い模様を描いていた。


「じゃあこの世界、魔法があるのか!?」


 魔法があるとすればクラス転生の知らせ程じゃないけど一大事だ。一気にテンションが上がる。


「あ、あぁ……そういえば言ってなかったな。あるよ。でも普通の人には使えないからこうやって見れるのも珍しいんだ。俺も初めて見た」

「誰なら使えるんだ?」


 しかしユーゴは俺の方に目を向けずずっと空を真剣に見つめている。


「ごめん、話すと長いから後にしてくれないか。姫様が出てくる」

「おっ?ユーゴは姫様気になんの?美人らしいぞ?」

「お前やっぱ俺の話全く聞いてなかっただろ」


 物凄い勢いでこっちを向いて睨んできた。

 ユーゴっていきなり恐い口調になるんだね。とは思っても言わない。


「俺たちが転生した理由にあの姫様は絶対関わってるんだよ!美人かどうか気になるとかそういうんじゃない!違う!断じて違う!!」

「じょ、冗談だよ。ごめんごめん」


 するとユーゴもハッとした顔をして「ご、ごめん」と言った。


「あんなにヒートアップしてたら聞けるもんも聞けないよな……」


 ユーゴはヒートアップって言葉好きだな。カッコいいもんな、俺も使お。


「俺もヒートアップしてたよ」

「え?」

「え?」


 4度目の沈黙が流れた。


『今より、光の姫様が御顕現なされます』


 沈黙を破るように空から大きな声が響いた。


「あっ出てくるってさ」


 なんか俺がやらかした気がするのでとりあえず助かった。魔法陣を指す。

 ……指したは良いけど、


「どこに出てくんの?姫様」

「多分あの魔法陣がディスプレイみたいになって映るんじゃないか」


 ユーゴの言った通り、魔法陣の中の模様がテレビみたいに乱れて、どこかの景色のようなものが映った。

 すげぇ、と声が漏れる。こんな魔法があるのか。

 そこには俺たちと同じくらいの女の子……だが顔は布で隠されていて見えない、が、想像したこともないくらい豪華な椅子に座っていた。あれが光の姫様か。

 周りには女の人が何人も立て膝で構えている。

 すると女の人の内の1人が立ち上がって姫様の後ろに周り、そっと姫様の顔にかかった布をずらして顔を見せた。


 その瞬間、地震みたいな歓声が広場に響き渡った。皆が笑いながら光の姫様万歳、レイルランド万歳、と叫び始めた。

 その中で笑っていなかったのは俺とユーゴだけかもしれない。


 俺とユーゴの顔は驚きのあまり引きつっていた。


「り、リュー?」と横でユーゴが言ったのが聞こえた。

 でも俺は答えなかったし、ユーゴもそれ以上続けなかった。続けられなかったのかもしれない。


 10歳の顔なんて見たことない。あんなに化粧してるとこも勿論見たことない。だけどわかった。

 毎日見てきたからか、ただの直感かはわからない。だけど間違いない。


 あれは莉原だ。

 莉原 理沙(りはら りさ)だ。




 だから今思えば、姫様に惚れたって言ったけどそれはちょっと違う。

 俺はずっと前から既に惚れていたんだ、光の姫様に。

次回は4/4(土)の夜8時半に投稿できるかもしれません。

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