光の姫様 その2
その日の起床はいつもより早かった。
今日はこっちの世界での俺の10歳の誕生日であると同時に、光の姫様の10歳の誕生日で、俺とお母さんは城下町で行われるお姫様の祝いの式典を見に行く。
俺が住んでるところは国の端っこにある田舎の小さな農村なので、馬車を使って長い道を走らなければいけない。だからまだ日が昇る前に家を出た。
ちなみにお父さんの方はいつも通り畑仕事だ。お姫様を見たがる、どこか子供っぽいところがあるお母さんとは違って、お父さんは「そんなことより仕事だ」ときっぱり言い切っていた。
俺はというと、前日まではめんどくさがっていたが、実は馬車に乗るのも村から遠く離れるのも初めてで、それに気付いた時から式典に行くのが楽しみになってきていた。
素朴な村を飛び出して、本やゲームのようなファンタジーの世界を目にできるかもしれない。
正直に言うと、この世界の今までの人生はすごくつまらなかった。良い親に育ててもらえたと思うし、畑仕事のおかげで鍛えられたけど、毎日同じことの繰り返し。村には同世代の子供はいなくて、優しいおじさんおばさんばかり。
別に前世は毎日が楽しかった訳じゃないけど、野球があってゲームがあって友達がいて、莉原がいた。
でも村から出ても、こんな世界で1人で生活していけるとは思えないし、まだそんな行動ができるほど成長もしてない。だから今は親を真似たり手伝ったりして素直に生きることにしていた。
そうやって考えるとますます今日は特別な日なんだ。
馬が鳴いて、荷台がゴトンゴトンと前に進み始めた。
俺は隣に座るお母さんに話しかけた。
「お母さん」
「何?」
「楽しみだね」
「光の姫様が?」
「いやそうじゃなくて」
「美人さんだそうよ、どんな人かしら」
お母さん、10歳の子供に何期待してんの。
まだなんか言ってるお母さんは無視することにして、俺は馬車から見える景色を楽しむことにした。
城下町に着いてからまず思ったことは、馬車って想像以上に揺れるんだなってことだ。
早起きで眠いのに寝られないし揺れが地味に気持ち悪いしで、景色を楽しむどころじゃなかった。
「どうかしたの?疲れてるみたい」
お母さんはピンピンしてる。多分ずっと姫様のこと考えてたから揺れが気にならなかったんだな。
「うん……ちょっと休んで良い?」
「本当に疲れたの?良いけど私見たいお店があるのよ、行っても良い?」
「良いよ。俺ここに座ってる」
「じゃああそこのお店にいるから、気分良くなったら来て」
そう言ってお母さんは小走りに去っていった。
俺は近くの壁にもたれかかって座った。
そばには俺と同じで酔ったのか、俯いて座ってる男の子がいた。でも男の子と言っても俺も10歳だから同じくらいか。同年代の人初めて見たな。
しかし男の子は俺に気付くと、目を見開いて口をパクパクさせた。
俺もビックリした。俺に何かを懸命に伝えようとしてる?
「だ、大丈夫?どうした?」
「こ、小坂……」
「ああ、何?」
ん?
今「小坂」って言った?
「小坂隆……だよな」
次に口をパクパクさせたのは俺だった。
日本語……しかも俺の本名……?
すると男の子は勢いよく立ち上がって叫んだ。
「やっぱり!!これはクラス転生だ!!」
色々と呆気に取られてものが言えなかった。しかし男の子の方が勝手に説明を始める。
「小坂!俺神谷だよ!神谷 悠吾!やっぱ2年1組全員がこの世界に転生したんだ!!」
……どゆこと?
2-1組 名簿
担任:緒方 慎也
男子
市瀬 泉
伊本 優仁
江口 了
岡本 大我
加賀美 翔斗
神谷 悠悟
北島 零
小坂 隆
新渡戸 真剛
野田 正丸
早川 太一
村崎 賢人
森山 誠郎
社 十流
吉澤 蓮
女子
飯塚 志穂
尾畑 珠寧子
上条 瑠花
佐藤 万璃愛
高橋 ことり
竹内 芽衣
寺丘 律香
中城 美桜
西園 亜実
林 凛
松戸 茉陽
三河 恵利菜
源 萌音
横井 詩穏
莉原 理紗
次回は3/21(土)の夜8時半に投稿します