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生まれた時から好きでした  作者: ジングルベル
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光の姫様 その1

「やぁこんにちは赤ちゃん。はは、なんてこった。可愛らしい男の子だ」

「ほら、お母さんだぞ。そんで俺がお父さんだ」


 俺が生まれた時、新しいお父さんはそうやって色々言いながら、俺を抱き上げて笑っていた。

 ベッドの上では痩せた新しいお母さんが横たわっていた。


「あら、可愛い子、ああ。名前はどうするの?」


 息切れしてこの上なく疲れてるように見えるのに、その時のお母さんはとても幸せそうな顔をしていた。


「リューだ」


 お父さんは噛み締めるように言った。


「この子の名前は、リューだ」

「リュー、良い名前ね」

「当たり前だ。俺が三日三晩寝ないで考えたんだぞ。な、リュー」


 よく見るとお父さんの目元にはくまがあった。あまりの笑顔なものだからすぐには気付かなかったのだ。


 俺はというと、ここはどこなのか、なんでこんな簡単に抱かれてるのか全然わからなくて困惑していた。

 なんかすごく嫌な気分だった覚えがある。頭がはたらかなくてとりあえずわんわん泣いた。




「でもあんたは大人しい赤ちゃんだったの。泣きはするけど、普通の赤ちゃんみたいにただひたすら泣き喚くって感じじゃなかった」


 5歳の誕生日に、お母さんは俺にそう話した。


「きっと光の姫様と同じ日に生まれたからよ」

「何?光の姫様って」

「そう。今からその、光の姫様の話をしてあげる」


 その話のことはよく覚えていない。途中で寝てしまったからだ。

 そして次の日から、お父さんが「お前はこれから大人になっていくんだ」と言って、初めて農作業を本格的に手伝わせてくれた。




 そして明日、俺は10歳になる。




 まあ、なんかよくわかんないけど、レイルランドという国に転生したみたいだ。

 中学生の時に読んだことがある。その本の主人公は通り魔に腹を刺されていた。トラックに引かれた別の主人公の本もあった。

 俺はそういうのは無かったはずだけど、全く知らない世界で赤ちゃんからやり直すのはその本の内容と同じだ。その世界がゲームに出てきそうな中世っぽい世界らしいところも同じ。

 ちなみに前世……つまり元いた世界の記憶はずっと持ち続けている。忘れるどころか不自然なくらい鮮明に覚えている。

 今でも詳しく説明できる。あの莉原に告白しようとした時のことを。


「莉原に会いてぇな」


 別にここまで素直に成長してきた訳じゃない。何度、これは悪い夢か、早く覚めてくれ、とのたうち回ってきたことか。

 でも全然夢じゃないみたいだし、何もできずに普通に人生を送ってきてしまった。


「あの日から明日で10年経つのか……」

「なんだって?」

「うわっ」


 いつの間にかお母さんが隣にいた。


「あんた昔っから時々呪文みたいなことを言うのよね」


 ここに日本語はない。前世では英語の成績は散々だったもんで最初はここの言葉が覚えられるか心配だったが、気にすることは無かった。お母さんによると、俺は普通の子供より早くものが言えるようになったらしい。


「気にしないで」


 そう言ってお母さんの方に顔を向けると、お母さんは俺を見て何やら驚いている。


「どうしたのリュー、何かあった?」

「え?」

「どうして泣いてるの」


 頬を触ると指先が濡れた。

 どうも目がぼやけると思った。


「なんでもない」

「なんでもない訳ないでしょ」

「本当に何でもない、ほこりが目に入っただけ」

「本当?」

「うん」


 するとお母さんは、悲しそうな顔で俺を見つめてきた。


「どうしたの?本当に大丈夫だって」

「違うの」

「何?」

「なんでもないの」


 俺と同じこと言ってる。


 お母さんは時々俺を見て寂しそうな表情になることがある。

 何故だか俺にはさっぱりわからない。大体そういう時俺は何もしてないのに。

 俺を不審がるならわかる。日本語という名の呪文を時々唱えるし、ちょっと子供にしては賢すぎるかもしれない。17歳で考えると頭悪いけど。


 すると、「そんなことより」とお母さんは調子を切り替えた。


「明日は、光の姫様を見に行くのよ」

「……誰なんだっけそれ」

「あら?話してないっけ?」

「いや、話してくれはしたけど、そん時は俺たしか寝ちゃったから……」

「そう?ああ、そう、そうだった。やれやれ」


 光の姫様とは、レイルランドに伝わる預言の1つ、民衆を幸福に導く光を放つ姫のことだ。その姫が生きている限りレイルランドは繁栄するとされる。

 今から10年前の日食の日、レイルランド城の中庭に、赤ちゃんが布に包まれて眠っていた。その日生まれたての女の子だった。

 誰がどこから、どうして、どうやって赤ちゃんを城の中庭に置いたのか。そんな疑問は誰にも浮かばなかった。赤ちゃんが光を発していたからだ。

 時も場所も赤ちゃんの様子も全て預言に書かれていた通りだった。全員が、赤ちゃんを神の賜物だと信じた。


 お母さんの長い話を要約すると大体そんな感じになる。

「光の姫様」って、よく考えるとなんてシンプルな名前なんだろう。


 更にその姫様は城で王様以上に大切に扱われ、10歳とその先5歳毎の誕生日にしか人前に姿を見せないらしい。そしてその姿を見れた人は幸せになれるとのことだ。

 だから姫様が10歳になる明日は、国中の人々が姫様を見ようと城下町に集まる。

 お母さんは明日俺をそれに連れていこうということだ。


「面倒くさそうな顔するじゃない」


 バレた。


「えー、だってあんまり興味無いし……」

「でもあんた同じ日に生まれたのよ?光の姫様と。凄いことよ?」

「むしろ誕生日なんだから好きにさせてよ」


 するとお母さんはからかうような顔を俺の耳元に近付けた。


「光の姫様、噂によるとすごく可愛いらしいよ?見てみたくない?」

「えぇ?10歳になるまで姿見せないんじゃないの?」

「可愛さは隠そうとしても自然に滲み出ちゃうもんなのよ」

「意味わかんない。理由になってないじゃん」

「それにさ、まだあんた同年代の女の子に会ったこと無いでしょ?」


 惚れるってか?残念ながら俺は莉原一筋なんだぜお母さん。

 光の姫様であろうと俺の恋心は揺るがねえんだ。




 結論から言おう。しかし俺は光の姫様に惚れた。

次回は3月13日の夜8時半に投稿します。


前回の後書きには「夜」を入れ忘れてました。

でもどちらにしろ8時半には投稿できなかったので問題無い。

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