旅立ち...3
はじめまして、ifと申します。
人生初めての連載投稿です。
ある思いで書き始めた話ですが、面白いと思っていただければ幸いです。
仕事しながらなので、毎週土曜日に掲載します。(最初の一週間は、毎日掲載します)
よろしくお願いします。
「ごめんください」
「ん? ああ、いらっしゃい。 何か、ご入用ですか?」
日が翳ってきていたからか、秋拡が想像していた商人とは、身なりも恰幅も血色もよい人物だったが、目の前の人物はそれとは真逆だった。
実用的だが地味で着古した感じの衣服に、頬は扱けていてお世辞にも健康とは、ぱっと見は思えない容姿をしていた。
「・・・・・・」
「お客さん? 何か、ご入用ですか?」
「あっ、はい。 旅に必要な道具一式を失くしてしまったので、最低限の旅装を調えたいと思いまして・・・」
「ああ、そうですか・・・それは災難でしたな。 では、此方で見繕いましょうか?」
「ええっ! 是非、お願いします」
「それでは・・・」
男性はさっと内に入ったかと思うと、色々な物を手際よく集めてくれた。
・長い外套(夜に毛布代わりに)
・つば広の帽子(陽光から顔を守ったり、雨が首筋に入らないよう)
・手に持つ杖(川を歩いて渡る時や山中で身を支えや、襲い掛かる獣から身を守るため)
・長靴とかなり堅い靴
・携帯食料(パニスやカーセウス、ユーグラーンス・ファーグス等の木の実)
・卓上ナイフ
・火打ち石
・水筒
・肩掛け鞄
「まあ、こんなところで如何でしょうか?」
「隣村までは日が昇る前に出発すれば、日暮れまでにはたどり着ける距離ですし、最低限この程度の旅装があれば、旅を続けるのには問題無いかと・・・」
「ええ、はい。 では、これをいただきます。 で、お幾らでしょうか・・・」
「そうですね。 一式纏めてですので、銀貨3枚と大銅貨5枚と言いたい所ですが、銀貨3枚でいかがでしょうか?」
「はっ、はい。 それで結構です。 あっ、ありがとうございます」
「いえいえ、お困りのようですし此方も村内では、纏めて売れる機会も滅多にありませんので、こうして買っていただけるなら、ありがたいぐらいなんですよ」
「ははっ、そう言っていただけると、此方としても気兼ねなくいただけます」
他愛無い会話をしつつ、店主に銀貨3枚を支払う。
「ああっ、ご紹介が遅れましたな。 わたくしはこの村落で、商いをしております。 メルクスと申します」
「あっ、俺は、ジークフリートと言います」
メルクスさんと話をしてみると、どうも常時この村落で商売をしている訳ではなく、近隣の村落を回りながら商売をしているそうで、隣村といってもほぼ1日掛りでの移動と言う事は、徒歩で考えると大体20キロ前後はあるという事かな?
移動手段が限られていると、かなり過酷な移動の日々を過ごすことになると思う。 特に季節が変わって、寒い時期が近づくとか・・・
今はこれから暖かくなる時期なので、暫らくここで商売したら大きい町に移動して、仕入をしたらまた村々を回るそうだ。
「本当に、助かりました。 ありがとうございました」
「いえいえ、また何処かでお会いできたら、その時もご贔屓にお願いします」
簡単に挨拶を済ませると外を見ると、既に日は落ちかけていて闇の帳が、直ぐそこまで迫っているのだった。
ロザンは買う物を買ったのか既に居なく、買った荷物を抱えて宿屋に帰ると・・・
「ああ、遅かったね~。 ロザンが先に帰って来てたから、何をしてるのかと思ってたよ」
「さあさあ、その手に持った荷物を置いて、下で夕食を食べておくれな」
「はい。 では、直ぐに置いて、降りてくるようにします」
「ああ、待ってるよ」
部屋に荷物を置いて下に降りる。
いくつか有る机と椅子のひとつに座ると・・・
「はいよっ! 温かいうちに、食べとくれ」
机には、パニスやカーセウス、塩漬豚肉を焼いた物、ヴィヌム(?)と、野菜屑が入ったイュースが並ぶ。
「2人で1つの皿を共有してもらうんだけど、今日はお客も少ないからそのまま食べとくれ」
・・・?
周りを見ると住民だろうか、数人の男性が酒を飲んで談笑しているだけで、食事を取っている者は自分以外は居ないみたいだ。
にしても、2人で1つの皿を共有って、テーブルを挟んで向かい合った2人が、1つの皿に盛られた料理を仲良く食べる・・・・・・ん~、分らん。
作法なのか・・・な?
くだらない事を考えつつ、テーブルを見ると食器が無い・・・で、厚手のナプキン(?)が横にある。
これは、手掴みで食べて、汚れた手をナプキンで拭う、という事なんだろうか?
まあ、ジーはそうしていたから、違和感も抵抗も無いんだが、人族もそれなら一体どちらが獣なんだか・・・
さてお腹も空いたことだし、カーセウスを一欠けら口に放り込み、ヴィヌム(?)を口に含むとと、ヴィヌムは水で薄めて酒精を弱めた物で、その事に若干びっくりしてしまった。
その後は、パニスに、塩漬豚肉を焼いた物を挟んで齧り付きながら、野菜屑が入ったスープを啜っていった。
「ふぅ~・・・」
「余程、お腹が空いてたんだね」
女将が他の配膳を片付けながら、此方に声を掛けてくれた。
「それだけきれいに食べてくれたら、作った側も気持ちがいいもんさね」
「ええっ、おいしかったです。 ありがとうございます」
「なんだい、こっちはお代を貰ってるんだから、お礼を言われる程じゃないんだけどね」
「・・・いいえ。 本当に温かく、美味しい食事でした」
「そうかね。 旦那にも言っとくよ」
微笑しながら女将は、配膳を片付けに奥に入っていった。
その姿を見送りながら、本当に温かかった食事・・・つい最近まで、自分も家族と味わっていた。
・・・気持ちが暗くなりかけたので、その場を立ち部屋に戻ることにした。
一度部屋に戻った後、部屋に備え付けのケーレウスに、灯を点けてもらうため、再度下に降りていった。
女将に声をかけると、直ぐに火種を持って来てくれた。
部屋の中が、仄かな光源に照らされた。
女将にお礼を言いつつ、ベッド荷物を広げ腰掛けながら、今日購入した旅装の整理を行いつつ・・・
「さて、旅装も整えたし・・・」
足元に整理した荷物を置き、日が暮れたばかりで、夜は未だ長い・・・後回しにしていた事を、ゆっくりと考えることにしよう。
まず、”転生”に関してだ。
”ナニカ”が言ってたことを、全て信じる訳にはいかない。
・・・けど、ジーとしての、秋拡としての、経験や記憶・・・これは嘘とは思えない。
いや・・・思いたくはない。
ジーとして家族との暖かな思い出、秋拡としての人生・・・これらを嘘と断じてしまっては、それまでの・今の・これからの、過去・現在・未来を、なにより自分自身の存在を否定してしまう事になる。
全てではないが2人の経験や記憶は、今も少しずつ溶けて混ざりあい・・・ひとつになろうとしている。
あの焦げるような思いも含め、ジークフリートとして個を形成しようと・・・
すんなりとは受け入れ難いが・・・今、自分はここに・この場所に存在している。
息をし、食物を食べ、眠り・・・そう、生きているんだ。
転生し新たな世界で新たな生を得、そこで精一杯生きて生き抜くことにしよう。
今後どうなっていくか、それはその時にならなければ分らないし、その時々に最善と思える判断をしていこう。
次に、”契約”に関して・・・は、未だに何も分らないので、それは今後分った時に改めて考えよう。
問題は”権能”に関してだ。
今解ってるのは・・・
権能は、7つあること
装身具も同じ数を、身に付けていること
そう、確認を開始しようとすると、装身具が全て淡く光だした。
また、森の中での出来事が、意思に関係なく起こるのかと、一瞬身構えたが・・・頭に流れ混んで来たのものはそうでは無かった。
『我らが主よ。 堕ちた我らが主よ』
『我らが主よ。 魂を分かつ我らが主よ』
『我らが主よ。 叫びを聞きし我らが主よ』
何かが・・・複数の重なった声が響く・・・・・・
『我らは、大罪にして、大罪にあらず』
『我らは、闇にして、闇にあらず』
『我らは、傲慢にして、傲慢にあらず』
『我らは、嫉妬にして、嫉妬にあらず』
『我らは、憤怒にして、憤怒にあらず』
『我らは、強欲にして、強欲にあらず』
『我らは、怠惰にして、怠惰にあらず』
『我らは、暴食にして、暴食にあらず』
『我らは、色欲にして、色欲にあらず』
『我らは、抗いて・・・』
『我らは・・・・・・』
あの黒く荒れ狂う濁流ではなく、其々が自己を顕示するかのように、装身具の明滅と共に語りかけてきた。
・・・・・・・・・・・・
暫くの間、その声々に聞きいりながら、一瞬のことかそれなりに時が過ぎたのか、いつか声は聞こえなくなっていた。
それでも装身具は、淡く光を放ち続けていた。
「ふぅ~~」
一つ息を吐きならが、改めて意識の中で語りかけてみた。
『お前たち(?)で良いのか分からないが、お前たちの事を教えてくれないか?』
『我らは、力、力』
『我らは、強き力、強き力』
『我らは、弱き力、弱き力』
『我らは、儚き力、儚き力』
各々がひとつの声として、応えを返してくれる。
訴えかけてくるこの感じは、何なんだろうか・・・・・・
新たにまた声が響く・・・
『我らが主よ。 我らに求めよ』
『我らが主よ。 我らに命じろ』
『我らが主よ。 我らはそれに応えん』
『我らが主よ。 我らはそれに答えん』
『では、お前たちの、能力を説明してくれ』
『我は、傲慢』
『我は、光と影を操らん。 光・闇・幻の魔術、影を操る力を与えん』
『我は、嫉妬』
『我は、姿容を操らん。 人や獣・魔物に変える力を与えん』
『我は、憤怒』
『我は、身体を操らん。 風と水の魔術、己が身で戦う力を与えん』
『我は、怠惰』
『我は、心理を操らん。 その身に己・他者を思考を与えん』
『我は、強欲』
『我は、 在りし物を操らん。 炎と土の魔術、欲するものを得る力を与えん』
『我は、暴食』
『我は、空間を操らん。 全てを所有・落掌する力を与えん』
『我は、色欲』
「我は、感情を操らん。 他者の心を誘導する力を与えん』
なんか其々単体でも、結構ヤバイ感じのこと言ってるんだけど・・・
なんか考えることが、増えただけのような・・・ああっ・・・
意識を戻してみると、ケーレウスも消えかけていたので、それなりの時間が経過してしまっていたようだ。
一先ず聞く予定だったことは聞けたので、今日はここまでにして寝ることにしよう。
『うん、分った。 また呼ぶから、今日は戻って(?)くれ』
『承知した。 我らが主よ』
装身具の光は、徐々に弱くなっていった。
それを見届けてからベッドに、倒れるように横になり独りごちる。
「ふぅ~。 思ったよりも考えないといけない事が、多そうだな・・・」
「やっぱり、大きい町にでも移動して、情報をもっと集めないと整理も理解もできないな」
ベッドから体を起こして立ち上がり、ケーレウスの灯を消して、今夜は眠りに着くことにする。
明日は日が昇る前に此処を発って、隣村へ向けて移動をしなければならない。
大きい町が何処にあるのかも分らないし、町に行ったところで求める情報が手に入るか分らない。
情報の手に入る場所の手掛かりだけでも、早い段階で何とか手に入れなければならない。
夜の帳が深まる中、今はどうしようも無いことに、考えをめぐらしつつ眠りに落ちていった。
To be continued...