慟哭...1
はじめまして、ifと申します。
人生初めての連載投稿です。
ある思いで書き始めた話ですが、面白いと思っていただければ幸いです。
仕事しながらなので、毎週土曜日に掲載します。(最初の一週間は、毎日掲載します)
よろしくお願いします。
「ンンッ」
目蓋越しに判る明かりに、意識が徐々に引き戻されて、僅かに目を開けてみた。
穴の入り口からは、陽の光が射し込んでいた。
・・・・・・
その陽射しを、ただぼんやりと眺め・・・深く息を吸いこんで吐いた。
スゥ~、フゥ~~
何度か繰り返し、だいぶハッキリとしてきた意識・・・
穴から出て現在地の確認をまずしようと、身体を動かした瞬間に違和感が有った。
なんだ? なんで、痛みも、疲労も感じないんだ?
昨日は確かに耐え難い程に有ったものが、一晩で癒えた? そんな馬鹿な事が有るわけが・・・
そんな事を感じ、考えつつも、先ずは穴から出ることにした。
「ッ・・・」
眩しさに目を射すような痛みを感じたが、手を翳して陽射しを遮りつつ歩き出すと、直に慣れ辺りを見渡し沢の縁まで行き、穴へと振り向くと・・・
すでに何を模したものかは判らなくなっているが、穴の両脇に彫刻があり清らかな雰囲気を感じれた。
昨日は暗くて気付かなかったが、その彫刻を見て此処は以前に狩で遠出した際、訪れた沢だったと思い出した。
その時は草の丈が今よりも高く、彫刻のみで穴には気付いていなかった。
眺め暫し立ち尽くしたが、改めて沢に近づき水辺に屈み、身体の状態を確認するために、まずは傷口を洗っていった。
そっと手を浸した後、少しずつかけ流しながら、軽く手の平で擦っていく。
パシャッ、パシャ・・・
ゴシゴシ、パシャパシャッ・・・
洗い進めていくと・・・・・・っ!?
おかしい・・・血で固まったヶ所に、切り傷が一切無い?
洗ったヶ所以外で、腹部も触って確認すると・・・傷口が塞がっている?
一体何が・・・
その時、昨晩と同じように身体の一部が、僅かに闇紫色に光を放ち始めた。
っ!!
そのうち二つの痣が更に光を放ち、情報が流れ込んで・・・
『強欲』
『暴食』
情報が流れ込む中、頭の中に慾望、渇望が、絶叫のように響きわたる・・・・・・
『ウバエ、ウバエ、ウバエッ、うばえ、うばえ、うばえっ、奪え、奪え、奪えっ! クラエ、クラエ、クラエッ、くらえ、くらえ、くらえっ、喰らえ、喰らえ、喰らえっ! ウバエ、ウバエ、ウバエッ、うばえ、うばえ、うばえっ、財寳、財寳、財寳っ! クラエ、クラエ、クラエッ、くらえ、くらえ、くらえっ、搾取、搾取、搾取っ! ウバエ、ウバエ、ウバエッ、うばえ、うばえ、うばえっ、能力、能力、能力っ! クラエ、クラエ、クラエッ、くらえ、くらえ、くらえっ、吸収、吸収、吸収っ!・・・・・・・・・・・・』
突然の出来事に、気が狂いそうになる中・・・・・・
ピクッ!
自分の意思とは関係無しに、足が、手が、身体が勝手に動きだした!?
自分では考えられない跳躍をし、対岸に着地したかと思うと、その場から全力で走り出し、森に飛び込んでいった。
飛び込んだ先には、灰色狼の群れが迫っていた。 数は6匹・・・
狩の際にも遭遇したことがあり、事を構えなければ危険に陥ることは無い相手だ。
今見えている群れ自体は6匹と小規模で、水を飲むためか森から沢に向かっていたようで、先程の場所からは非常に近くに居たようだ。
ふと目線を上げ先に向けるとその後方には、人族4人が群れを包囲するように広がりつつ迫っていた。
身なりはバラバラだが、男(?)3 女(?)1 と思われる一団が、先程の灰色狼を、獲物として狩を行おうとしているようだ。
っ!
また痣が光り、頭の中に情報が流れ込んでくる・・・・・・
『強欲』
『奪え、財寳、能力・・・・・・全てを、強奪-------------------------------------------------------っ!』
灰色狼 : 野生の狼を一回り大きくした体躯、リーダーを中心に集団で狩をしつつ群れを形成している。 攻撃手段はその鋭利な牙と爪、集団で襲ってくる点のみ。一匹一匹の脅威はそれ程高くない。
人族 : 戦士(男) 中肉中背の締った体に、長剣と小盾、間接部等の急所を覆う防具に、胴鎧と肩周り・腰周りのパーツで構成された板金鎧を装備。
人族 : 狩人(男) 長身でやせ気味の細身に、短弓の弦に矢をを番えつつ、小剣に皮の軽鎧と、非常に動きを重視しした装備。
人族 : 戦士(男) がっしりとした肉体の中背に、冑を被り、鎖帷子を着込み、指先まで覆う篭手と、先に棘の付いた片手用の戦槌を装備。
人族 : 魔術師(女) 低身長で小柄な体つきに、動きやすい外套を纏い、緑と蒼の宝石が先端に付いた杖を装備。
戦士の2人が前衛として前に、狩人が中段、魔術師が後方に位置した陣形をとっている。
知らない情報が何故分かるんだ?!
だめだ、ダメだ、駄目だ! 駄目だぁっ!!
武器も何も持っていない今の状態で・・・いや、そもそも自分の身体能力では勝てる相手じゃ無いっ!
ガサガサガサッ・・・ザザァッ
内心の思いとは裏腹に、目の前に飛び出してきた此方に、警戒も露わに灰色狼が唸り声を上げる。
「グルゥゥゥ・・・」
まずい、マズい、不味いっ!
思考だけはハッキリしているのに、自分の意思ではどうすることも出来ない身体・・・
焦りは募り、『自分はこんな所で、何も出来ないまま死ぬのか?』 そう思った。その時・・・・・・また痣が光りを放った。
『暴食』
『喰らえ、搾取、吸収・・・・・・全てを、捕食------------------------------------------------------っ!』
ゆっくりと右手が動き、何も無い目の前の空間を薙いだ。
そう腕は空を切っただけだった・・・ただ、それだけだったのに・・・っ!!
ブシュ-----ッ! ボトボトボトッ・・・・・・
目の前の灰色狼が、巨大な何かに齧られたかの様に、その半身が消えて無くなり、血飛沫と臓物をを撒き散らしながら、ゆっくりと倒れ伏していった。
・・・?
誰も、誰も、何も分らないまま、一瞬辺りが静寂に包まれた。
そしてまた手が動き、左右の手が交互に振られる。
右、左、右、左・・・・・・
その都度灰色狼の身体が消え、血と臓物を撒き散らしながら倒れていく・・・
ようやく事態の異常性に気付き、リーダーと思われる灰色狼が、逃げようとするも時既に遅く、最後の振り下ろしと共に他の仲間と同じ末路を辿った。
・・・・・・ポタッ、ポタッ、ポタッ
丈の低い草木からは飛び散った血が滴り落ち、灰色狼居た辺りは、血と内臓の内容物がぶちまけられ、むせかえるような血と汚物の臭いが混じり合い空間に満ちていた。
つい先程までの状況は、たった一瞬の出来事で、一変させられてしまっていた。
表面上はどうなっているか分らないが、内心は起こっていることに激しく動揺している中、気付けば人族がお互い確認できる距離まで近づき集まっていた。
ガサガサガサッ・・・パキッ
「おいおい・・・これは何が一体、どうなってやがるんだよ?」
「おい、リーダー。俺達の目がおかしくなった訳じゃないよな? 突然コボルとが現れたと思ったら、手を振り下ろしただけだったぞ? それだけで目の前で血を撒き散らしながら、灰色狼が消えていっちまってたよな? なっ?」
「うむ、わしにもそう見えたが、何かの見間違いか、幻惑の類を使う魔物が近くに居るのやも・・・」
「そんな魔物、居るわけ無いじゃない! この森は比較的弱い魔物だけで、危険度の高い魔物は出ないのよ!」
「リーダー・・・」
「・・・それじゃあ、目の前のこいつが、全てやったって事、なのか?」
こちらを見ながら人族が話をしているが、それにはお構いなくまた身体は勝手に動き出していた。
「っ! 全員、戦闘態勢をとれっ!!」
人族が其々に手持ちの武器を構え、警戒態勢を取っていたが顔は青ざめ、大量の汗と共に呼吸も乱れていた。
ハァ~・・・ハァ~・・・ハァ~・・・
「おっ、おい! それ以上、ちっ、近づくな! これ、これはっ警告だ!!」
「う、撃つぞ! 撃つぞっ! リーダー! 撃っていいよな!!」
「ぐぬぅぅぅっ」
「世界の根源たる真名よ、命の息吹たる風よ! 鋭き刃となりて、相手を・・・」
「いいか皆っ! こいつからは、ヤバイ感じしかしない。 一撃叩き込んだら、全力でこの場を離脱する。 いいなっ!!」
「・・・あいよ」
「うむ」
「・・・」
そうだ、そうだっ! はやく、早くっ!! 人族なのに・・・逃げてくれと思ってる自分がいる。
だが、その思いとは反対に、無常な一振りが力無く下ろされた。
ヒュン・・・
「あひゃっ! あぁぁぁぁぁぁっ・・・」
「あっ、あぁ・・・俺の腕が、あぁっ、俺の内臓が・・・あぁぁぁっ、ゴポッ」
最初に犠牲になったのは狩人の人族、左半身を食いち千切られ、その状態を目を見開いて見やり、断面から零れ落ちた血と臓物を、残った右腕で掻き集めながら血反吐を吐き転がった。
「ぐぁおぉぉぉぉっ! この化け物がぁぁぁっ!!」
ブシュ-----ッ! タッタッタッタ・・・ドサッ
次に犠牲になったのは、戦槌を振り上げ、此方に向かって来ていた戦士の人族、上半身を食い千切られた下半身が、血と臓物を溢しながら数歩歩を進めた後に倒れこんだ。
「ぅっひぃぃぃぃっ!! いっ、いやあぁぁぁぁぁぁぁっ」
女の人族が叫び声を上げながら背を見せ、森の奥へと来た方向へ全力で駆け出していった。
その光景を呆然と眺めながら、ふと視線を転じると残った戦士が、此方に向けて剣を振り下ろそうとしていた。
「こ、このっ、化け物がーーーーーーーっ!」
が、その剣が振り下ろされることは無かった。
その剣が根元から、掴んでいた手とともに、消え去っていたのだから・・・
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ! 剣が、手が、俺のぉぉぉぉっ」
「がぁっ・・・・・・」
その叫び声は長く続く事は無く、膝から下を残して体は消え去っていた。
そして・・・
「ひぃっ、なっ、何なのよ! あれはっ!!」
「はぁっ、はぁはぁっ。 とっ、とに、とにかく、こ、この、場所から、はな、離れないと・・・」
「あっ、あんな、ばっ、化け物がいる、いるなんて」
「ギ、ギルドに、ほっ、報告を・・・ぎゃあぁっ」
「なっ、なん、なの?!」
早く逃げないといけないのに、急に痛みが走ったと思ったら、足に力が入らなくなって・・・!?
「ぅひぃぃぃぃっ、あ、あたしの、あたしの、足が! 無いぃぃぃぃぃぃっ」
「あぁぁっ、何でぇ? 如何してなの?」
「簡単な討伐の依頼だったはずよぉ? それが、如何してこんな・・・」
「ひぃぃぃぃっ・・・!」
目の前に残った人族がいた・・・逃げる背に一瞬で追いつき、足元に向けて手が薙がれた。
結果、腰から下が齧り取られ、血を流しながら転がり、逃げようと必死に喘いでいるが此方を向き。
「あっ、あんた一体、何なのよっ!」
「あっ、あたし、あたしたちに、何の恨みがあるってのよぉっ!」
「まっ、魔物のあんたたちは、おと、おとなしく、狩られるもんでしょぉっ!」
喚く人族に向けて、また手が振り上げられ・・・
「いっ、嫌っ! 嫌よっ!! しっ、死ぬのは! いやぁぁぁぁぁぁっ」
そして、振り下ろされた。
カフッ・・・ヒューッ・・・ヒューッ・・・ゴボッ、コポコポコポッ・・・
人族は首の左側から右の脇腹にかけて、肉と共に骨も削られ血を噴出しながら倒れた。
「アアッ、アアアッ、アアァァァァァ・・・・・・・・・・・・」
その血を浴びながらただ、自分はその場に立ち尽くし続け、声にならない声を上げた。
そして・・・あの声が響いた。
To be continued...