始まり...閑話
はじめまして、ifと申します。
人生初めての連載投稿です。
ある思いで書き始めた話ですが、面白いと思っていただければ幸いです。
仕事しながらなので、毎週土曜日に掲載します。(最初の一週間は、毎日掲載します)
よろしくお願いします。
人里からは少し離れた山間の中に、人族が魔物と呼ぶ者たちの集落があった。
人族は彼等の事を、コボルトと呼んで忌み嫌っていた。
何故、忌み嫌うのかそれは、ドワーフやノーム等の妖精達と違い、容姿が小柄で痩せた体つきと、先が尖った長い耳と高い鼻、大きな目を持っている事で、その姿がゴブリンに似て醜悪と捉えられいる事と、神々に妖精として創造されながらも、魔に魅了され堕ちたからだとされている。
実際の彼等は狩猟と小規模な農耕、後は金属を集めては簡易な鍛冶で、必要な物を自給自足を行って生活を営んでいる。
非常に温厚な性格の者達であるが時に、最弱の魔物として害虫のように・・・・・・
チチチチッ、チチッ・・・
カーン・・・カーン・・・・・・
今日も変わらず長閑な朝のひと時、小鳥の囀りや集落の外れから、鍛冶の音が微かに響いてくる。
いつもと変わらない、一日の始まりだ・・・
集落の中ほどの一角に、自分の家族たちは住んでいる。
「ジー、オキ、ル・・・」
「クゥ~~、ウンンッ」
「ジー、オキ、ル・・・」
「・・・・・・」
「ジー! オキ、ルッ!!」
「ウォッフッ!! クゥ、ウサイ! ミミ、コワレ、ル」
「フフンッ! ジー、オキ、ナイワル! クゥ、ワルナイ」
「グゥゥゥッ・・・」
妹の「クゥ」が、いつも通りに起こしにきた。
母さんが行けと言ったんだろうが、もうじき成人を迎えるのに、まだまだ、子どもっぽさが抜け切らない。
はつらつとした性格は、共に暮らす家族のみならず、集落の中でもかわいがられている。
と思いながら、藁を敷いた寝床から渋々起き出していく。
「ウッンット、ウゥゥゥッン!」
軽く伸びをしつつ、固まった身体をほぐしていく。
まだ日は昇っていないだろうが、これから狩猟へ出るためにも、直ぐに動けるように身体を温めていく。
今日は1人で、森の奥まった箇所へ行く予定だ。
家屋は地面に穴を掘ったところに、木と藁で葺いた簡易な住居で、中心には地竈がある構造だ。
その中心で、母さんが火を熾して、朝食の準備をしていた。
父さんはその横で鍬の手入れをして、農作業に行く準備をしていた。
自分の家族は、父さんの「フー」と母さんの「リィ」、妹の「クゥ」と自分「ジー」の4人だ。
「ジー、オキ、タ。ジュン、ビハ?」
母さんが聞いてきた。
「ウン、ダイジョ。スグイケ、モンナイ」
「ソゥ、ナイイ」
母さんは、薄く笑っていた。
これも、いつも通りだ。
父さんは・・・一瞥して、また作業に戻っていた。
これも、いつも通り。
「ジー、チャンスル。イッツ、ソウ」
「クゥ、サイ!」
「クゥ、サクナイ!ジー、サイ!」
しっかりしてきたのか、最近クゥは口煩くて堪らない・・・
こういう時は、さっさと出るに限る。
身支度を急ぎ整え、母さんに声を掛けて弁当を貰い、父さんに挨拶をして出て行く。
「トサ、カサ、テクル。キタイ、スル」
「ジー、ムリナイ。チャン、カエル」
「・・・ジー、ブジ、ニ」
「ウン、テクル」
「ジー、クゥモ、ツイイク!ジー、マツ・・・」
クゥが何か言っているが、付いてこられても邪魔なだけだ。
家を出た瞬間に、誰かにぶつかってしまった。
「ギャウッ!ィチチッ」
勢いよく出たために、鼻を打ったばかりか、勢いで尻餅をついてしまった・・・
涙目になりながら、誰とぶつかったのか見ると、隣人の「ニィ」「ンヌゥ」の2人だった。
普段から冗談を言い合う、気のいい仲間達である。
で、ぶつかったのは「ニィ」で、「ンヌゥ」は隣で笑っている。
「ニィ、ゴメ」
「ンッ、ジー。ジョブ」
「ギャッギャ、ジーザマ」
「ウサ、ンヌゥ」
彼らもこれから、出掛けるところのようだ。
冬前の期間は何人かで組むが、それ以外は基本的に1人で行く。
「ニィ、ンヌゥ、キツケ。ムリナイ」
「ン、ジーモ」
「ギャ、マセロ!」
そう言って彼らと別れ、日が昇りきる前の薄暗い森の中に分け入り、駆け足程度で進み続け射し込む日差しが、高くなる頃に目的地の崖上にたどり着く。
そこに変えの弓弦や鏃等の材料を隠した場所があり、狩の際は匂いが邪魔になるので、母さんの弁当も一旦そこに置いておく。
日もそこそこ昇り、明るくなった森を見下ろしつつ、狩のポイントへ移動を開始する。
今日は兎を狙う予定だが、運が良ければ雉辺りも、獲れればいいと思いつつ、森の中を移動していく。
・・・・・・
さあて、ある程度開けた場所に着き、風下側の茂みに屈みながら、気配を殺して獲物が来るのを待つ・・・
視線の先には、タラクサクム、ステラリア、クラーワ等、餌になる野草があり、糞があることも事前に確認している。
此処で待っていれば、獲物からやってくるはずだ。
そうして暫らく待っていると、茶色い毛並みの兎が耳を左右に振り、警戒しながら目の前の空間へ入り込んできた。
鼻をひくひくさせているが、こちらは風下なので匂いでばれる事は無いが、食事を始めて油断するまでじっと待つ・・・
一時すると安心したのか、中ほどまで入ってきて食事を始めた。
逸る気持ちを抑えつつ、もう少し・・・もう少し・・・・・・
徐々に弓弦を引き絞り、鏃の先端を向け・・・頭を下げた瞬間っ!
「っ!」
引き絞った弦を、目掛けて解き放った。
狙いは外れることなく、矢は胴体に深く突き刺さり、無事に仕留める事が出来た。
「フゥ・・・」
ゆっくりと息を吐き出して緊張感を解きつつ、獲物を回収し見つけておいた沢へと移動する。
森の中で血抜きをすると、他の獣がよってくるので、沢に着いてから解体するのだ。
沢の辺に着いたら刃を出し、血抜き、皮剥ぎ、内臓処理をして、最後は蔦で縛って水に沈める。
これで肉が冷えてくれるので、帰るまでに鮮度が落ちることは無い。
さあ、次のポイントに移動して、更なる獲物を狙うとしよう!
・・・・・・
それから日が頂点に来る昼過ぎ頃まで狩を続けたが、もう一羽の兎のみしか仕留める事が出来なかった。
途中、雉の鳴き声も聴こえたが、見つけることは出来なかった。
最初の一羽と同じように処理をし、一旦崖上の場所に戻り弁当を食べて一休みしよう。
まあ、初日として二羽仕留めた事で、出来は上場だったと思っておこう・・・
「モグモグ、ウンウマ。カサ、アリト」
母さんが作ってくれた弁当は、芋を蒸かしたものを潰し、薄く延ばして焼いたものに、肉や野菜を挟んで味付けしたもので、緊張とで疲れた身体には丁度いい塩加減と、食べ応えで非常に満足だった。
食べ終えて水筒の水を飲み、人心地付いたところで帰り支度をする。
ちょっと早い気もするが、眼下に広がる景色を眺めながら、ちょっとした達成感をかみ締め、帰った時の「クゥ」の顔が楽しみと思いつつ、夕暮れになる前に帰路につ着く。
さっと準備を終え、先程の沢まで戻って獲物を回収する。
「ニィ、ンヌゥ、ドカナ?」
仲間の成果も気にしつつ、その時は浮かれ気分で、足取りも軽やかだった。
そうして道程の中程に差し掛かった時・・・!?
風に乗って、焦げ臭い匂いが流れてきた。
回りに気を付けながら、山火事でも起こったかと思い、確認しようと比較的近くの高台に向け移動した。
高台に着く頃には、焦げ臭い匂いは一段と強くなり、ようやく遠くまで見通せた時に・・・・・・っ!!
集落の方角から、もうもうと煙が立ち上っていた。
火事? いや・・・あの燃えかたは、そんな感じじゃ無いっ!
「ィィ・・・アァ・・・ャアァ・・・・・・」
微かに、叫び声が聞こえる。
ドサッ!
獲物を棄て、全力で駆け出した。
嫌な予感に気持ちが揺さぶられて・・・
「ハァハァ、ハァハァハァハァ」
「ック、ハァハァ・・・」
森を駆け抜け、ようやく集落が見えてきた。
近くにつれ匂いも、叫び声も、より濃くはっきりしてきた。
森を抜けた瞬間眼前に・・・平和だった集落、朝挨拶した隣人や、冗談を交わした友人。
そして、家族だったナニカ・・・・・・?
「ニィ? ン、ヌゥ・・・?」
「ト、サ? カ、サ?・・・」
声が掠れ、呆然と立ち竦む・・・
助け起こそうと一歩近よりかけたが、叫び声と共に何が動く気配に、反射的に近くの茂みに伏せた。
近づく何かを確認しようと、息を殺し注意深く見据えていると・・・・・・人族!?
ナゼ人族が集落に?
「ギャァァァッ! ニッ、ニゲッ!」
「ヒィーッ! ドコッ!ニゲ・・・ギィイイイイッ」
ナンだコレは・・・何故? 集落全体が、家が、仲間が燃え、倒れ死・・・殺されている!?
ナンなんだ? 何が起こっているんだ?
混乱し逸る気持ちを抑えつつ、狩の時と同じように息を殺しつつ待った。
集落の中に、男(?)と女(?)の人族・・・いやっ! 他にも複数居る!?
奴等は回りを警戒しつつも、徐々に一箇所に集まり何か話している。
「アハハハハッ、弱いな~~コイツら~~? こんなのが、本当に脅威なのか~~?」
「そうです。放置すれば、何れ人里を襲います。 魔物と言う存在は、そういう物なのです」
「ふ~~ん。そっか、分かった。俺達はコイツ等を討伐しつつ、力を付けていけばいい!?」
「!っと、っぶないな~。よっと」
『グギィイイイイイイ・・・・・・』
「弱いくせに、不意打ちとかって・・・どうなの?」
「相手は魔物。狡賢く、狡猾ですので、最弱とはいえども・・・」
「あっ、ごめんごめん。ちょ~っと油断しちゃったよ。気をつけるね」
「にしても、護衛の騎士2人と、魔術師の君だけでも、十分討伐できるんじゃね?」
「はい。討伐は可能ですが、そもそも経験を積んでいただく事が目的で・・・」
「ああっ! そういえば、そんな事言ってたな~。ははっ」
くっ、仲間が簡単に殺された・・・殺したってのに、何故愉しげなんだ!?
いったい、俺達が何をしたと言うんだ?
憤りは強いが、奴等は危険だ。
他に生き残っている仲間を見つけて、ココから離れる事を優先しよう。
後のことを考えるのは、それからで良いはずだ・・・っ!
奴等の近くの物陰に、何かが蹲っているのが見える。
・・・!! いっ、妹だ。妹が生きてる!
妹が居る場所は死角になって、話に夢中の奴等には、まだ気付かれていない。
・・・大丈夫だ。
狩猟の時と同じように、気配を殺して廻りこめば、妹を助けられるっ!
奴等に見つかる訳にはいかない・・・燃え盛る炎や火の粉に炙られ、煙に咳き込みそうになりながら、人族からは目を離さず、風下から慎重に近づいて行った。
なんとかクゥの元にたどり着く、そう思った瞬間・・・・・・っ!!
物陰からもう1人の人族が現れ、ちょうど鉢合わせをしてしまった。
此方を認識した瞬間、躊躇することなく、手に持った剣を振り下ろしてきた。
ダッ! ゴロゴロゴロッ・・・
咄嗟に相手の右側に転がる事で何とか避けれたが・・・
「シィッ! 何だ、子犬が一匹か・・・」
「グゥゥゥゥッ・・・」
鼓動が早鐘のように鳴り・・・
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・」
呼吸も荒く汗も吹き出てきた・・・急がないといけないのにっ!
焦りが滲む中、人族は近づいてくる。
「あれ? そんな所に、もう一匹いたんだ~? 見落としていたのか~」
!!
「いえ! 気配を殺して、何かを探していたようですが・・・」
「そうなの? ふ~ん・・・で、お前なにしようとしたの~」
見つかってしまった・・・いや、目の前の人族に見つかった時点で詰んでいた。
どうする、どうすればいい・・・考えろ、考えるんだ・・・
くっ、このままでは集落の仲間のように・・・殺られるっ!?
「ジー・・・」
その時、自分の姿を見つけたクゥが、か細い声で呼びかけてきた。
クゥッ!
「おや? そこにも居たのか~」
・・・見つかってしまった。
人族はクゥの隠れていた場所にゆっくり近づき、掴み揚げるとその勢いのまま此方に放り投げた。
「ほら、よっと!」
「ギャウッ!」
強かに地面に叩きつけられ、滑りながら近づいたクゥを、妹を、直ぐに駆け寄り抱きしめた。
「クゥ、ダイジョ? モウ、アシン。 ジー、カエタヨ」
「ッウゥゥ、ジィィィィー・・・トサガァァァ、カサガァァァ、アァァァァッ・・・・・・・・・」
縋り泣くクゥ・・・
「・・・ねえ? 魔物にも家族愛ってあるの?」
「そのような、我ら人と同一に考えられては・・・」
「あっそっ、まあ如何でもいいや。 で、コレどうすんの? 討伐すんの?」
人族が何か話している間に・・・如何にか、この場から逃れる方法は・・・
「さってと、じゃあさっさと終えて、帰るとしますかねぇ~」
「ッ! マテッ! ネガ、タス、オネ」
咄嗟に声が出た・・・殺される前にせめて、妹だけでも助けたいと・・・
「んん? えっと? 魔物って、言葉通じちゃったりするの?」
「ええっ、全てでは有りませんが一部の魔物は、低位でも多少の言葉のやり取りは可能です。」
「が、所詮は獣の類と同様で、意味あるものとは・・・」
「いいじゃん! ほら、何か言ってみろよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・タス、オネ」
「ジー、ナニ、シ、ナイ。ワル、ナイ・・・」
「クゥ、チサ。ワル、ナイ・・・」
「・・・ッ、ネガ、タス」
縋り付く妹を抱き寄せ、煙にやられたのか、いつの間にか涙に濡れながら・・・助けて欲しいと願った。
一縷の望みに縋って・・・・・・じっと、相手を見据えながら、一言、一言。
「・・・ふ~ん。 ねえ、コレほっといたら、どうなるの?」
「いずれ数を増やし、人族に必ず害を成します。ですので・・・」
「いや! いい!」
若い人族が、人族の女(?)を制して、此方を見て話をしている。
「・・・なんか気が削がれちゃった。 弱っちそうだし、ほっといても死ぬんじゃね?」
「しかし・・・」
「いいよっ! 粗方討伐したんだし、目的は達成出来てるでしょ? 帰ろうよ~」
「そう・・・おっしゃるのでしたら・・・」
助かる! そう思った、そう思いかけた、その時!!
ドスッ・・・・・・唐突な衝撃が!?
「グギィィィィィッ!」
抱き寄せ、抱きしめていたクゥの口から、叫び声がその場に響いた・・・・・・
視線を下げるとクゥの背中に剣が刺さり、自分の腹部にもその切先が刺さっていた。
事態が飲み込めないまま、呆然とその先を見やると、もう1人の人族が・・・何故?
「ふんっ! この妖精堕ちの、穢らわしい魔の物めがっ」
足蹴にされた勢いで、剣が引き抜かれ・・・
グシュッ!
「グゥッ・・・」
流れ出る血で濡れた腕の中で、クゥから力が抜けていくのが分った。
ただ自分には、どうすることも出来ず・・・ただただ、お互いを見詰め合うことしか出来なかった。
いつもと変わらない平和な、いつも通りの日々だったはずで・・・
そして、妹を抱きしめたまま、その場に崩れ落ちて・・・
トサッ・・・・・・
「おい! なにしてんだよ! ほっとけって言っただろ!」
「いえ! 魔物はただの一匹と言えど、残しておけば・・・」
「でも! こんなっ・・・」
「後にっ! 災いになります」
「・・・・・・分った、分ったよ!」
「では、外を見張っていた者と合流し、帰還するといたしましょうか」
「・・・・・・ちっ!」
自分たちを放置して、人族が離れていくのを虚ろに眺めながら・・・
「クゥ、タクナイ。 ジョブ、ジー、イル・・・」
「ジー・・・、クゥ、ワル、ナイヨ?」
「ウン、テル。 クゥ、ワル、ナイ」
「クゥ、バタヨ?」
「ウン、バタ。エラ」
「トサ、カサ、・・・・・・」
「クゥ、ヤスミ・・・メンナ」
「ジー・・・」
腕の中の温もりが消え去っていくのを、薄れ行く意識のなかで感じながら・・・そして意識を失った。
パチッ、パチパチッ・・・バキッ、ゴゥッ・・・
メキメキッ・・・ドンッ・・・
バキッ・・・パチッ、パチッ・・・
炎が爆ぜる音・・・何かが倒壊する音に、薄っすらと意識が覚醒した。
僅かに身体を動かし、周りの様子を確認し・・・どうやら、まだ生きているようだった。
あの人族達は・・・あのまま去ったようだ。
視線を下げると腕の中には、まだ温もりを持ったままの、眠っているように動かない妹がいた・・・
あぁぁぁっ!! 守ってやれなかった!!
自分がもっと早く帰ってきていればっ! 自分があの時クゥを連れていっていればっ!!
こんな事には! こんな事にはぁぁっ!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・・・・・・・・・・
もう動かない妹を抱きしめ慟哭の叫びを上げ、未だ燃え盛る集落から・・・森へ出た。
歩き出すと刺された傷が痛んだが、急所は外れていたからか、仲間を、家族を、妹を、突然失ったせいか、今は気にならなかった・・・
マトリカリアが咲き乱れる近くの丘にたどり着き、クゥをそっとその白い花の中へ横たえ、そのままその場で火が落ち着くのを虚ろに眺めていた。
そうして、日が昇る頃には燃えるものも無くなり、煙の立ち込める中へと戻っていった。
昨日まで小さいながらも平和に立ち並んでいた家屋は、そのほとんどが炭屑になるほどに燃やし尽くされ、いずれは雨が降り、風が吹き去り、この場に小さな魔物が住んでいた痕跡を、きれいさっぱりに運び消し去ってしまうだろう。
そんな中からの埋もれた、仲間を掘り出していった。
コボルトの体は小さく脆い。炎に炙られ死体は、まともに拾うことができないものも少なくなかったが、それでも骨一本、装身具等々、焼け残った一つ一つを見逃さず、丹念に集め集落から少し離れた場所に、さっき見つけたトサの鍬を使い、穴を掘っていく。
仲間の欠片を埋めては、また穴を掘っり、埋めては、また掘った。
ただ土を盛っただけの、碑も何も無い簡素な・・・
そして、心持深く掘った穴の中、この腕の中で死んでいった最愛の家族を横たえた。
「クゥ、メン、ナ」
優しく土をかけながら語り掛け・・・仲間達にも別れを告げる。
「メンナ、トサ」
「メンナ、カサ」
「メンナ、ミナ」
「ウゥゥゥッ・・・・・・」
全てを終えて、簡素な弔いの後、とにかく此処を離れるべく、ゆっくりと森へと歩いた。
毛皮を紐で縛っただけの、簡素な服はほとんど焼け、解体用の刃物一振りを残して、何もかも失った。
腹に受けた傷跡はひどい・・・が、生きている。
ゆっくり歩き出していた足は、その歩みを早め駆け出していた。
この悲しみから、この光景から、あの死の恐怖から・・・・・・・あの、人族達から逃げる為に。
To be continued...