表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/62

始まり...閑話

はじめまして、ifと申します。

人生初めての連載投稿です。

ある思いで書き始めた話ですが、面白いと思っていただければ幸いです。

仕事しながらなので、毎週土曜日に掲載します。(最初の一週間は、毎日掲載します)

よろしくお願いします。

人里からは少し離れた山間の中に、人族が魔物と呼ぶ者たちの集落があった。

 

人族は彼等の事を、コボルトと呼んで忌み嫌っていた。


何故、忌み嫌うのかそれは、ドワーフやノーム等の妖精達と違い、容姿が小柄で痩せた体つきと、先が尖った長い耳と高い鼻、大きな目を持っている事で、その姿がゴブリンに似て醜悪と捉えられいる事と、神々に妖精として創造されながらも、魔に魅了され堕ちたからだとされている。


実際の彼等は狩猟と小規模な農耕、後は金属を集めては簡易な鍛冶で、必要な物を自給自足を行って生活を営んでいる。


非常に温厚な性格の者達であるが時に、最弱の魔物として害虫のように・・・・・・

 

 

チチチチッ、チチッ・・・

 

カーン・・・カーン・・・・・・

 

 

今日も変わらず長閑な朝のひと時、小鳥の囀りや集落の外れから、鍛冶の音が微かに響いてくる。

 

いつもと変わらない、一日の始まりだ・・・

 

集落の中ほどの一角に、自分の家族たちは住んでいる。

 

「ジー、オキ、ル・・・」

「クゥ~~、ウンンッ」

「ジー、オキ、ル・・・」

「・・・・・・」

「ジー! オキ、ルッ!!」

「ウォッフッ!! クゥ、ウサイ! ミミ、コワレ、ル」

「フフンッ! ジー、オキ、ナイワル! クゥ、ワルナイ」

「グゥゥゥッ・・・」

 

妹の「クゥ」が、いつも通りに起こしにきた。

母さんが行けと言ったんだろうが、もうじき成人を迎えるのに、まだまだ、子どもっぽさが抜け切らない。

はつらつとした性格は、共に暮らす家族のみならず、集落の中でもかわいがられている。

と思いながら、藁を敷いた寝床から渋々起き出していく。

 

「ウッンット、ウゥゥゥッン!」

 

軽く伸びをしつつ、固まった身体をほぐしていく。

まだ日は昇っていないだろうが、これから狩猟へ出るためにも、直ぐに動けるように身体を温めていく。

今日は1人で、森の奥まった箇所へ行く予定だ。

 

家屋は地面に穴を掘ったところに、木と藁で葺いた簡易な住居で、中心には地竈がある構造だ。

その中心で、母さんが火を熾して、朝食の準備をしていた。

父さんはその横で鍬の手入れをして、農作業に行く準備をしていた。

自分の家族は、父さんの「フー」と母さんの「リィ」、妹の「クゥ」と自分「ジー」の4人だ。

 

「ジー、オキ、タ。ジュン、ビハ?」

 

母さんが聞いてきた。

 

「ウン、ダイジョ。スグイケ、モンナイ」

「ソゥ、ナイイ」

 

母さんは、薄く笑っていた。

これも、いつも通りだ。

父さんは・・・一瞥して、また作業に戻っていた。

これも、いつも通り。

 

「ジー、チャンスル。イッツ、ソウ」

「クゥ、サイ!」

「クゥ、サクナイ!ジー、サイ!」

 

しっかりしてきたのか、最近クゥは口煩くて堪らない・・・

こういう時は、さっさと出るに限る。

身支度を急ぎ整え、母さんに声を掛けて弁当を貰い、父さんに挨拶をして出て行く。

 

「トサ、カサ、テクル。キタイ、スル」

「ジー、ムリナイ。チャン、カエル」

「・・・ジー、ブジ、ニ」

「ウン、テクル」

「ジー、クゥモ、ツイイク!ジー、マツ・・・」

 

クゥが何か言っているが、付いてこられても邪魔なだけだ。

家を出た瞬間に、誰かにぶつかってしまった。

 

「ギャウッ!ィチチッ」

 

勢いよく出たために、鼻を打ったばかりか、勢いで尻餅をついてしまった・・・

涙目になりながら、誰とぶつかったのか見ると、隣人の「ニィ」「ンヌゥ」の2人だった。

普段から冗談を言い合う、気のいい仲間達である。

で、ぶつかったのは「ニィ」で、「ンヌゥ」は隣で笑っている。

 

「ニィ、ゴメ」

「ンッ、ジー。ジョブ」

「ギャッギャ、ジーザマ」

「ウサ、ンヌゥ」

 

彼らもこれから、出掛けるところのようだ。

冬前の期間は何人かで組むが、それ以外は基本的に1人で行く。

 

「ニィ、ンヌゥ、キツケ。ムリナイ」

「ン、ジーモ」

「ギャ、マセロ!」

 

そう言って彼らと別れ、日が昇りきる前の薄暗い森の中に分け入り、駆け足程度で進み続け射し込む日差しが、高くなる頃に目的地の崖上にたどり着く。

そこに変えの弓弦や鏃等の材料を隠した場所があり、狩の際は匂いが邪魔になるので、母さんの弁当も一旦そこに置いておく。

日もそこそこ昇り、明るくなった森を見下ろしつつ、狩のポイントへ移動を開始する。

 

今日は兎を狙う予定だが、運が良ければ雉辺りも、獲れればいいと思いつつ、森の中を移動していく。

 

・・・・・・

 

さあて、ある程度開けた場所に着き、風下側の茂みに屈みながら、気配を殺して獲物が来るのを待つ・・・

視線の先には、タラクサクム(タンポポ)ステラリア(ハコベ)クラーワ(シロツメクサ)等、餌になる野草があり、糞があることも事前に確認している。

此処で待っていれば、獲物からやってくるはずだ。

 

そうして暫らく待っていると、茶色い毛並みの(レプス)が耳を左右に振り、警戒しながら目の前の空間へ入り込んできた。

鼻をひくひくさせているが、こちらは風下なので匂いでばれる事は無いが、食事を始めて油断するまでじっと待つ・・・

 


一時すると安心したのか、中ほどまで入ってきて食事を始めた。

逸る気持ちを抑えつつ、もう少し・・・もう少し・・・・・・

徐々に弓弦を引き絞り、鏃の先端を向け・・・頭を下げた瞬間っ!

 

「っ!」

 

引き絞った弦を、目掛けて解き放った。

狙いは外れることなく、矢は胴体に深く突き刺さり、無事に仕留める事が出来た。

 

「フゥ・・・」

 

ゆっくりと息を吐き出して緊張感を解きつつ、獲物を回収し見つけておいた沢へと移動する。

森の中で血抜きをすると、他の獣がよってくるので、沢に着いてから解体するのだ。

 

沢の辺に着いたら刃を出し、血抜き、皮剥ぎ、内臓処理をして、最後は蔦で縛って水に沈める。

これで肉が冷えてくれるので、帰るまでに鮮度が落ちることは無い。

 

さあ、次のポイントに移動して、更なる獲物を狙うとしよう!

 

・・・・・・

 

それから日が頂点に来る昼過ぎ頃まで狩を続けたが、もう一羽の兎のみしか仕留める事が出来なかった。

途中、雉の鳴き声も聴こえたが、見つけることは出来なかった。

 

最初の一羽と同じように処理をし、一旦崖上の場所に戻り弁当を食べて一休みしよう。

まあ、初日として二羽仕留めた事で、出来は上場だったと思っておこう・・・

 

「モグモグ、ウンウマ。カサ、アリト」

 

母さんが作ってくれた弁当は、芋を蒸かしたものを潰し、薄く延ばして焼いたものに、肉や野菜を挟んで味付けしたもので、緊張とで疲れた身体には丁度いい塩加減と、食べ応えで非常に満足だった。

 

食べ終えて水筒の水を飲み、人心地付いたところで帰り支度をする。

ちょっと早い気もするが、眼下に広がる景色を眺めながら、ちょっとした達成感をかみ締め、帰った時の「クゥ」の顔が楽しみと思いつつ、夕暮れになる前に帰路につ着く。

 

さっと準備を終え、先程の沢まで戻って獲物を回収する。

 

「ニィ、ンヌゥ、ドカナ?」

 

仲間の成果も気にしつつ、その時は浮かれ気分で、足取りも軽やかだった。


そうして道程の中程に差し掛かった時・・・!?

風に乗って、焦げ臭い匂いが流れてきた。

回りに気を付けながら、山火事でも起こったかと思い、確認しようと比較的近くの高台に向け移動した。

  

高台に着く頃には、焦げ臭い匂いは一段と強くなり、ようやく遠くまで見通せた時に・・・・・・っ!!

集落の方角から、もうもうと煙が立ち上っていた。

 

火事? いや・・・あの燃えかたは、そんな感じじゃ無いっ!

 

「ィィ・・・アァ・・・ャアァ・・・・・・」

 

微かに、叫び声が聞こえる。

 

ドサッ!

 

獲物を棄て、全力で駆け出した。


嫌な予感に気持ちが揺さぶられて・・・

 

 

「ハァハァ、ハァハァハァハァ」

 

 

「ック、ハァハァ・・・」

 

 

森を駆け抜け、ようやく集落が見えてきた。

近くにつれ匂いも、叫び声も、より濃くはっきりしてきた。

 

森を抜けた瞬間眼前に・・・平和だった集落、朝挨拶した隣人や、冗談を交わした友人。

そして、家族だったナニカ・・・・・・?

 

「ニィ? ン、ヌゥ・・・?」

「ト、サ? カ、サ?・・・」

 

声が掠れ、呆然と立ち竦む・・・

助け起こそうと一歩近よりかけたが、叫び声と共に何が動く気配に、反射的に近くの茂みに伏せた。

 

近づく何かを確認しようと、息を殺し注意深く見据えていると・・・・・・人族!?

ナゼ人族が集落に?

 

 

「ギャァァァッ! ニッ、ニゲッ!」

「ヒィーッ! ドコッ!ニゲ・・・ギィイイイイッ」

 

 

ナンだコレは・・・何故? 集落全体が、家が、仲間が燃え、倒れ死・・・殺されている!?

ナンなんだ? 何が起こっているんだ?

 

混乱し逸る気持ちを抑えつつ、狩の時と同じように息を殺しつつ待った。

 

集落の中に、男(?)と女(?)の人族・・・いやっ! 他にも複数居る!?

奴等は回りを警戒しつつも、徐々に一箇所に集まり何か話している。

 

「アハハハハッ、弱いな~~コイツら~~? こんなのが、本当に脅威なのか~~?」

「そうです。放置すれば、何れ人里を襲います。 魔物と言う存在は、そういう物なのです」

「ふ~~ん。そっか、分かった。俺達はコイツ等を討伐しつつ、力を付けていけばいい!?」

「!っと、っぶないな~。よっと」

 

『グギィイイイイイイ・・・・・・』

 

「弱いくせに、不意打ちとかって・・・どうなの?」

「相手は魔物。狡賢く、狡猾ですので、最弱とはいえども・・・」

「あっ、ごめんごめん。ちょ~っと油断しちゃったよ。気をつけるね」

「にしても、護衛の騎士2人と、魔術師の君だけでも、十分討伐できるんじゃね?」

「はい。討伐は可能ですが、そもそも経験を積んでいただく事が目的で・・・」

「ああっ! そういえば、そんな事言ってたな~。ははっ」

 

くっ、仲間が簡単に殺された・・・殺したってのに、何故愉しげなんだ!?

いったい、俺達が何をしたと言うんだ?

憤りは強いが、奴等は危険だ。

他に生き残っている仲間を見つけて、ココから離れる事を優先しよう。

後のことを考えるのは、それからで良いはずだ・・・っ!

 

奴等の近くの物陰に、何かが蹲っているのが見える。

・・・!! いっ、妹だ。妹が生きてる!

妹が居る場所は死角になって、話に夢中の奴等には、まだ気付かれていない。

 

・・・大丈夫だ。

狩猟の時と同じように、気配を殺して廻りこめば、妹を助けられるっ!

 

奴等に見つかる訳にはいかない・・・燃え盛る炎や火の粉に炙られ、煙に咳き込みそうになりながら、人族からは目を離さず、風下から慎重に近づいて行った。

なんとかクゥの元にたどり着く、そう思った瞬間・・・・・・っ!!

 

物陰からもう1人の人族が現れ、ちょうど鉢合わせをしてしまった。

此方を認識した瞬間、躊躇することなく、手に持った剣を振り下ろしてきた。

 

ダッ! ゴロゴロゴロッ・・・

 

咄嗟に相手の右側に転がる事で何とか避けれたが・・・

 

「シィッ! 何だ、子犬が一匹か・・・」

「グゥゥゥゥッ・・・」

 

鼓動が早鐘のように鳴り・・・

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・」


呼吸も荒く汗も吹き出てきた・・・急がないといけないのにっ!

焦りが滲む中、人族は近づいてくる。

 

「あれ? そんな所に、もう一匹いたんだ~? 見落としていたのか~」


!!


「いえ! 気配を殺して、何かを探していたようですが・・・」

「そうなの? ふ~ん・・・で、お前なにしようとしたの~」

 

見つかってしまった・・・いや、目の前の人族に見つかった時点で詰んでいた。

どうする、どうすればいい・・・考えろ、考えるんだ・・・

くっ、このままでは集落の仲間のように・・・殺られるっ!?

 

 

「ジー・・・」

 

 

その時、自分の姿を見つけたクゥが、か細い声で呼びかけてきた。

クゥッ! 

 

「おや? そこにも居たのか~」

 

・・・見つかってしまった。

人族はクゥの隠れていた場所にゆっくり近づき、掴み揚げるとその勢いのまま此方に放り投げた。

 

「ほら、よっと!」

「ギャウッ!」

 

強かに地面に叩きつけられ、滑りながら近づいたクゥを、妹を、直ぐに駆け寄り抱きしめた。

 

「クゥ、ダイジョ? モウ、アシン。 ジー、カエタヨ」

「ッウゥゥ、ジィィィィー・・・トサガァァァ、カサガァァァ、アァァァァッ・・・・・・・・・」

 

縋り泣くクゥ・・・

 

「・・・ねえ? 魔物にも家族愛ってあるの?」

「そのような、我ら人と同一に考えられては・・・」

「あっそっ、まあ如何でもいいや。 で、コレどうすんの? 討伐すんの?」

 

人族が何か話している間に・・・如何にか、この場から逃れる方法は・・・

 

「さってと、じゃあさっさと終えて、帰るとしますかねぇ~」

「ッ! マテッ! ネガ、タス、オネ」

 

咄嗟に声が出た・・・殺される前にせめて、妹だけでも助けたいと・・・

 

「んん? えっと? 魔物って、言葉通じちゃったりするの?」

「ええっ、全てでは有りませんが一部の魔物は、低位でも多少の言葉のやり取りは可能です。」

「が、所詮は獣の類と同様で、意味あるものとは・・・」

「いいじゃん! ほら、何か言ってみろよ」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・タス、オネ」

「ジー、ナニ、シ、ナイ。ワル、ナイ・・・」

「クゥ、チサ。ワル、ナイ・・・」

「・・・ッ、ネガ、タス」

 

縋り付く妹を抱き寄せ、煙にやられたのか、いつの間にか涙に濡れながら・・・助けて欲しいと願った。

一縷の望みに縋って・・・・・・じっと、相手を見据えながら、一言、一言。

 

「・・・ふ~ん。 ねえ、コレほっといたら、どうなるの?」

「いずれ数を増やし、人族に必ず害を成します。ですので・・・」

「いや! いい!」

 

若い人族が、人族の女(?)を制して、此方を見て話をしている。

 

「・・・なんか気が削がれちゃった。 弱っちそうだし、ほっといても死ぬんじゃね?」

「しかし・・・」

「いいよっ! 粗方討伐したんだし、目的は達成出来てるでしょ? 帰ろうよ~」

「そう・・・おっしゃるのでしたら・・・」

 

助かる! そう思った、そう思いかけた、その時!!

ドスッ・・・・・・唐突な衝撃が!?

 

「グギィィィィィッ!」

 

抱き寄せ、抱きしめていたクゥの口から、叫び声がその場に響いた・・・・・・

視線を下げるとクゥの背中に剣が刺さり、自分の腹部にもその切先が刺さっていた。

事態が飲み込めないまま、呆然とその先を見やると、もう1人の人族が・・・何故?

 

「ふんっ! この妖精堕ちの、穢らわしい魔の物めがっ」


足蹴にされた勢いで、剣が引き抜かれ・・・


グシュッ!


「グゥッ・・・」


流れ出る血で濡れた腕の中で、クゥから力が抜けていくのが分った。

ただ自分には、どうすることも出来ず・・・ただただ、お互いを見詰め合うことしか出来なかった。

いつもと変わらない平和な、いつも通りの日々だったはずで・・・

そして、妹を抱きしめたまま、その場に崩れ落ちて・・・

 

トサッ・・・・・・

 

「おい! なにしてんだよ! ほっとけって言っただろ!」

「いえ! 魔物はただの一匹と言えど、残しておけば・・・」

「でも! こんなっ・・・」

「後にっ! 災いになります」

「・・・・・・分った、分ったよ!」

「では、外を見張っていた者と合流し、帰還するといたしましょうか」

「・・・・・・ちっ!」

 

自分たちを放置して、人族が離れていくのを虚ろに眺めながら・・・

 

「クゥ、タクナイ。 ジョブ、ジー、イル・・・」

「ジー・・・、クゥ、ワル、ナイヨ?」

「ウン、テル。 クゥ、ワル、ナイ」

「クゥ、バタヨ?」

「ウン、バタ。エラ」

「トサ、カサ、・・・・・・」

「クゥ、ヤスミ・・・メンナ」

「ジー・・・」

 

腕の中の温もりが消え去っていくのを、薄れ行く意識のなかで感じながら・・・そして意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチッ、パチパチッ・・・バキッ、ゴゥッ・・・

メキメキッ・・・ドンッ・・・

バキッ・・・パチッ、パチッ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎が爆ぜる音・・・何かが倒壊する音に、薄っすらと意識が覚醒した。

僅かに身体を動かし、周りの様子を確認し・・・どうやら、まだ生きているようだった。

あの人族達は・・・あのまま去ったようだ。

 

視線を下げると腕の中には、まだ温もりを持ったままの、眠っているように動かない妹がいた・・・

 

あぁぁぁっ!! 守ってやれなかった!!

 

自分がもっと早く帰ってきていればっ! 自分があの時クゥを連れていっていればっ!!

 

こんな事には! こんな事にはぁぁっ!!

 


あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

もう動かない妹を抱きしめ慟哭の叫びを上げ、未だ燃え盛る集落から・・・森へ出た。


歩き出すと刺された傷が痛んだが、急所は外れていたからか、仲間を、家族を、妹を、突然失ったせいか、今は気にならなかった・・・

 

マトリカリアが咲き乱れる近くの丘にたどり着き、クゥをそっとその白い花の中へ横たえ、そのままその場で火が落ち着くのを虚ろに眺めていた。

そうして、日が昇る頃には燃えるものも無くなり、煙の立ち込める中へと戻っていった。

 

昨日まで小さいながらも平和に立ち並んでいた家屋は、そのほとんどが炭屑になるほどに燃やし尽くされ、いずれは雨が降り、風が吹き去り、この場に小さな魔物が住んでいた痕跡を、きれいさっぱりに運び消し去ってしまうだろう。


そんな中からの埋もれた、仲間を掘り出していった。


コボルトの体は小さく脆い。炎に炙られ死体は、まともに拾うことができないものも少なくなかったが、それでも骨一本、装身具等々、焼け残った一つ一つを見逃さず、丹念に集め集落から少し離れた場所に、さっき見つけたトサの鍬を使い、穴を掘っていく。

仲間の欠片を埋めては、また穴を掘っり、埋めては、また掘った。

ただ土を盛っただけの、碑も何も無い簡素な・・・


そして、心持深く掘った穴の中、この腕の中で死んでいった最愛の家族を横たえた。


「クゥ、メン、ナ」


優しく土をかけながら語り掛け・・・仲間達にも別れを告げる。

 

「メンナ、トサ」

「メンナ、カサ」

「メンナ、ミナ」

「ウゥゥゥッ・・・・・・」

 

全てを終えて、簡素な弔いの後、とにかく此処を離れるべく、ゆっくりと森へと歩いた。


毛皮を紐で縛っただけの、簡素な服はほとんど焼け、解体用の刃物一振りを残して、何もかも失った。


腹に受けた傷跡はひどい・・・が、生きている。


ゆっくり歩き出していた足は、その歩みを早め駆け出していた。


この悲しみから、この光景から、あの死の恐怖から・・・・・・・あの、人族達から逃げる為に。

 

To be continued...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ