エピソード93:崩壊する夢
——光が弾けた。
無数の書物が紙片となって宙を舞う。
剥がれ落ちる未来、霧散する可能性。
選ばれなかった結末は、意味を失いながら消滅していく。
私は、ただ立ち尽くしていた。
足元の大地すら、不確かに揺らめいている。
「貴女は未来を捨てた」
静かに告げる“彼女”。
だが、責めるような響きはない。
金色の瞳がゆるやかに眇められ、私の選択を見届けている。
「では、貴女は何を創るの?」
その問いに、答えはなかった。
創る?
私が?
この世界は私が創った。
だが、いまここにあるのは、私が“知る”世界ではない。
私が記した物語は、すでに消え去った。
ここにあるのは——
何もない。
「……私には、何もないの?」
呟いた瞬間、視界が揺れた。
裂ける。
空間が、ひび割れていく。
私の意識の奥底へ、何かが流れ込んでくる。
記憶?
いや、違う。
これは——
「“礎”よ」
“彼女”がそっと微笑む。
「貴女が忘れた、最初の“始まり”」
それは、歪んでいた。
壊れていた。
——かつて、私はこの世界を創った。
けれど、私は“それ”を知らない。
忘れたのではない。
最初から、知らなかったのだ。
「……これが、私の、最初?」
崩れ落ちる書庫の奥底に、ただ一冊だけ、本が残っていた。
黒革の表紙。
金色の装飾。
何も記されていないページ。
だが、それは確かに——
「貴女が“創るべき世界”よ」
私は震える指で、その本に触れた。
瞬間、
——世界が砕けた。
目を開ける。
音がない。
光もない。
私は、虚無にいた。
存在も、時間も、概念すらもない空間。
ここに、私は何を生み出す?
何を、記す?
何を、描く?
私は、
——その指先で、最初の言葉を刻んだ。