表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/99

8

スマホのアラームオンで起きる。

二度寝の誘惑に負けず、体を起こした。

外はまだ薄暗く、昨日の雨の影響か、空気が湿っている。家を出るとき、玄関のドアを閉める寸前に、ふとした違和感が胸をよぎった。


窓から見た城――それが、いつものように浮かんでいたことに妙な引っかかりを覚える。いや、そもそも「いつものように」という言葉が正しいのか。どんな天候でも、どんな世界の状況でも、あの城は変わらず空にあった。何の影響も受けずに。ただ、そこに。

仕事に向かう途中、ラジオからニュースが流れてきた。

「昨夜未明、〇〇市で不審者の目撃情報が相次いでいます。黒いフードを被り、言葉を発さずに人々をじっと見つめていたとのことです。市民の皆さんは注意してください。」


黒いフード? それを聞いた瞬間、昨日見た影のことが頭をよぎった。


「……まさかね。」


あの建物の前で見た人影。結局、あれは何だったんだろう。気のせい、そう思い込むことはできる。だが、昨日の感覚は確かに異様だった。普段なら何も感じない場所で、一瞬だけでもぞっとするような寒気を覚えたのは、ただの偶然なのだろうか。


ラジオを消し、考えるのをやめた。仕事がある。現実のほうがずっと忙しくて、頭を悩ませることも多い。


職場に着くと、朝の挨拶が飛び交っていた。


「おはようございます!」

「おはよう、今日はちょっと冷えるな。」


いつもと変わらない風景。変わらない日常。だが、その日の仕事中、妙な違和感があった。


接客をしている最中、ふと視線を感じたのだ。


視線の主を探しても、ただ普通に買い物をしている客たちがいるだけ。しかし、その中に、一瞬だけ黒いフードを被った人間がいた気がした。


「……気のせい?」


心臓が妙に速く鼓動する。


やがて仕事が終わり、いつものように帰路につく。


今日はどの道を通ろうか。昨日のことを思い出し、自然とあの建物がある道を避けたくなった。しかし、避けることで何かから逃げているような気もして、それが妙に気に入らなかった。


結局、私はいつもと同じ道を選んだ。


車を走らせながら、あの建物の前を通る。窓を開ける気にはなれなかった。昨日見た影はもういない。そう思いたかった。


建物の前を通過する、その瞬間――


目の端で、確かに動く影を捉えた。


そこには、黒いフードを被った人物が立っていた。昨日よりもはっきりと。間違いなく、そこにいた。


こちらを見ている。


心臓が跳ね上がる。


慌ててアクセルを踏み、その場を離れた。バックミラーを見ると、もうその姿はなかった。


「.....なに、あれ。」


嫌な汗が背中を伝う。


ただの通行人かもしれない。いや、それならどうして昨日と今日、同じ場所にいた? しかも、明らかにこちらを見ていた。


何かがおかしい。


城の住人は地球で生活している――


朝読んだ記事の見出しが、頭の中でこだまする。


まさかね。


……そう思いたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ