79
闇と光の境界が、限界まで溶け合っていた。
亀裂が走る。
世界が崩壊する。
しかし、それは終焉ではなかった。
私は息を吸う。
目の前に広がるのは、灰の降り積もった広大な空間。
遠くで、鐘の音が聞こえた。
だが、それは祝福ではなく、鎮魂の響き。
この世界は——死につつある。
「お前は、もう”創造主”ではない」
影が告げる。
その声は穏やかだった。
挑発でも脅迫でもなく、ただの”事実”として。
私は唇を噛む。
「……それでも」
「それでも?」
影が微笑む。
「お前は何になりたい?」
シラーチルが私の隣に立つ。
「……“決めなくてもいい”」
彼女の言葉は、妙に澄んでいた。
影は小さく首を傾げる。
「またその理屈か」
「そうよ」
シラーチルは、まっすぐ影を見つめる。
「“定義”が必要なのは、世界のほう。
でも、それを決めるのは私たちじゃない」
私は彼女を見つめる。
「……なら、私たちは?」
「変わり続ければいい」
影が笑う。
「“不確定”であることを選ぶのか?」
「選ぶんじゃない」
シラーチルは静かに首を振る。
「最初から、そうだっただけ」
その瞬間——
“世界”が弾けた。
音もなく、境界が砕ける。
空間が歪み、ねじれ、形を持たないものへと変貌していく。
私たちは、“無”の中に立っていた。
リーモアが低く呟く。
「……世界が、“再構築”を始める」
影が、私を見つめた。
「“創造主”は終わる。
だが、お前は”創造”を捨てたわけじゃない」
私は目を閉じる。
“創造”とは何か?
私は、何を生み出し、何を壊し、何を選んできたのか。
答えは、どこにもない。
でも——
私は、手を伸ばした。
その指先に、“何か”が触れる。
光。
闇。
全てを内包する”無”が、私の手のひらの上で脈動して。