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扉を開く。
その瞬間、世界が軋む音を立てて動き出した。
風が巻き上がり、私の髪を乱す。
扉の向こうには、光と影が複雑に絡み合う空間が広がっていた。
遠くに、鐘の音が聞こえる。
それは、まるで何かの終焉を告げるようで——同時に、新たな始まりを祝福する音にも思えた。
私は、一歩を踏み出す。
「ここは……?」
扉を越えた先は、広大な場所だった。
どこまでも続く廃墟の街並み。
崩れた建物の間を、青白い光が漂っている。
空は黒い雲に覆われ、ぼんやりとした光がわずかに地面を照らしていた。
「……ここは、あなた心の中の世界。」
シラーチルが、静かに言う。
「私の?」
「そう」
私は、息を呑んだ。
この場所は——
私の記憶の断片でできている?
そう思った瞬間、足元で何かがざわめいた。
影だ。
それは、私の歩く道を囲むように広がり、蠢いている。
まるで、私を導くように。
リーモアが、廃墟の奥を指差した。
「向こうに”答え”がある」
私は、そちらを見やる。
遠くに、一つの建物が見えた。
——城。
いや、かつて私が座っていた、“創造主の玉座”だ。
だが、それは朽ち果て、崩れかけていた。
玉座の前に、誰かが立っている。
「……誰?」
リーモアは答えなかった。
ただ、ゆっくりと歩き出す。
影が、私の足を絡め取る。
何かが囁いていた。
——戻れ。
——お前の居場所はここではない。
——お前は、選ぶべきではなかった。
私は、それを振り払う。
私は、もう”創造主”ではない。
それでも、前に進むと決めた。
城の玉座の前に立つ人物が、ゆっくりと振り返る。
「——ようやく来たか」
その声に、私は息を呑んだ。
彼は——
私自身だった。
「お前は、何者だ?」
私が問う。
私自身が、私に問いかける。
「私は、お前の”可能性”だ」
私の影が微笑む。
「お前が捨てたもの、選ばなかったもの……それが私だ」
私は、足元の影を見る。
この道を歩く限り、影は消えない。
私は——
「お前は、どこへ行く?」
影が、私に問う。
私は、答えを出さなければならない。
この先に待つのは、“新しい世界”か、“過去の残滓”か。
私は、拳を握る。
そして——
「私は……」
遠くで、鐘の音が鳴った。
この世界の行く末は、まだ...