表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/99

70

裂け目は、ゆっくりと広がり続けていた。

光と影が絡み合い、ねじれ、千切れ、また繋がる。

まるで世界が呼吸をしているかのように、柔らかく、しかし確実に変化を続けていた。



シラーチルが微かに笑った。

その笑みは、どこか懐かしさを帯びているようで、しかしながら、底知れぬ何かを孕んでいた。


「お前は、気づいてしまったのだな」


「……何に?」


シラーチルは言葉を返さない。

ただ、ゆっくりと手を伸ばし、私の額に触れようとした。


その瞬間——


世界が、弾けた。


時間が巻き戻る。

瞬間、瞬間の記憶が鮮烈に蘇る。


——城の最上階で、私はすべてを見ていた。

冷たい玉座に腰掛け、無数の命の営みを眺めていた。


人は、なぜ争うのか?

人は、なぜ愛するのか?

人は、なぜ涙を流すのか?


答えを得るために、私は記憶を消し、人間として生きることを選んだ。

そして、今——


私は、その答えを手にしているのか?


「創造主」


シラーチルの声が、私の名を呼ぶ。

それは、ずっと昔に呼ばれていた響きだった。


「お前は、何を選ぶ?」


その問いの意味が、深く心を抉る。

選ばなければならない。

創造主として、ただ見届けるだけの存在に戻るのか。

それとも——



ふと、リーモアが口を開く。


「君はずっと、何かを知りたがっていたよね」


風が吹く。

彼の長い髪が、光の中で揺れる。


「人間の気持ちを知るために、ここに来たんだ」


リーモアの言葉は、柔らかくも確信に満ちていた。


「でも、知ってしまったら、もう元には戻れない」



私は、知ってしまったのだ。

人間とは、何かを傷つけ、何かを失いながらも、それでも前に進もうとする存在なのだと。

愚かしくも、愛おしく、そして何よりも——


「……私は」


足元の亀裂が、限界まで広がっていく。

この世界が、変わるかもしれない。


私が何を選ぶかによって、すべてが変わるかもしれない。


「お前は、どうする?」


シラーチルが再び問うた。


私は、目を閉じる。

そして——


私は、この手に、何を掴む?



世界が、最期の形を見せ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ