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68 決断の代償
亀裂は、音を立てて広がっていく。
まるで、世界の皮膚が裂けるように。
光と闇が入り混じり、重なり、分裂しながら、次第に形を変えていく。
足元が揺れる。視界が歪む。
世界が、応えている。
私の「選択」に。
「……私は」
声が、どこか遠くから聞こえた。
私の声なのに、まるで別の誰かのようだった。
「私は……この世界を——」
「変えるのか?」
リーモアの問いが、静かに響く。
彼は微笑んでいるようにも、哀しんでいるようにも見えた。
「それとも——」
影がざわめく。
私を取り囲む無数の記憶。
過去と現在と未来が、ひとつに折り重なる。
私は、人間たちを見てきた。
ただの観察者として。
ただの創造主として。
彼らは、愚かだった。
争い、憎しみ、裏切り、傷つけ合うことをやめない。
彼らは、美しかった。
愛し、支え合い、希望を紡ぎ続けることを諦めなかった。
——私は、何を選ぶ?
「……」
足元に広がる亀裂から、光があふれ出す。
その光の向こうに——
ひとつの影が、立っていた。
「久しぶり」
——その声を、私は知っている。
「……シラーチル」
その瞬間、世界が崩れた。