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橋を渡るたびに、足元の白い石が静かに光を帯びる。まるで、この道そのものが生きているかのように、淡く、脈動するような輝きだった。
向こう側はまだ見えない。けれど、不思議と不安はなかった。
湖面には星空が映り込み、まるで別の世界に足を踏み入れているような感覚。風が静かに吹き抜け、どこからか微かな囁きが聞こえた。
「おかえり」
一瞬、足が止まる。
「……今、何か聞こえた?」
振り返ると、湖は静寂のまま。波紋ひとつ立たず、まるで時が止まったかのようだった。
気のせいかもしれない。
いや、そんなはずはない。
確かに聞こえた——懐かしく、暖かく、それでいてどこか遠い響き。
それが何なのか、まだ分からなかった。
橋を渡り終えた瞬間、世界が一変した。
光が弾け、目の前に広がるのは、見渡す限りの純白の空間。
どこまでも続く光の回廊。まるで雲の上を歩いているかのような、重力すら感じさせない空間だった。
「……ここは?」
誰に問いかけるでもなく呟くと、遠くで足音が響いた。
——誰かが、こちらに近づいてくる。
「やあ、随分?と久しぶりだね」
その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわめいた。
白い回廊の向こうから現れたのは、淡い銀の髪を持つ青年。
彼の瞳は湖の水面のように穏やかで、それでいて奥深く、全てを知っているかのような色をしていた。
「……リーモア?」
「そう、僕だよ」
リーモアは微笑んで、静かに手を差し伸べる。
「さあ、ここからが本当の旅だ」
心臓が、跳ねた。
これは——終わりなのか?それとも——始まりなのか?
次の瞬間、世界が眩い光に包まれた。