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62 風去った後
リーモアの姿が消えても、風はまだ吹いていた。
草原は静かだった。だが、その静けさがかえってざわめきを生む。どこか遠くで、風が何かを囁いているような気がした。
——本当に、また会えるのだろうか?
彼の言葉は確信に満ちていた。まるで未来の出来事をすでに見通しているかのように。
何かを失いながら、何かを得る。
そのバランスの上に、立っている。
リーモアの言葉が頭の中で繰り返される。
視線を上げると、空はすっかり群青色へと変わっていた。夕陽の赤は消え、星々が瞬き始めている。
どこかで、夜の訪れを告げる鐘が鳴ったような気がした。
……いや、違う。
鐘ではない。これは、何か別の——
草原の端、どこまでも続くかのような地平線の向こうに、かすかな光が揺れていた。
それは呼びかけるように、ゆらりと手招きをする。
「行かなきゃ」
そう思った瞬間、足はもう動き出していた。
風が吹いた。
リーモアの残した言葉を乗せて、どこか遠くへと流れていった。