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出勤途中、私は無意識に車のルートを変えていた。目的地は決まっていない。ただ、昨夜通ったあの通り――西洋風のマンションのある道を通りたくなった。


「……やっぱり、何か違う」


マンションの前に車を停め、ぼんやりと建物を眺める。昼間だというのに、やはり窓には明かりがない。そして、昨夜と同じ場所に、誰かが立っていた。


フードを被った青年。


ニュース記事に載っていた人物と、同じだ。


私は思わずドアを開けて、彼のほうへと歩き出していた。


「……あんた、何者?」


問いかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。雨粒が頬を伝い、濡れた黒髪が額に張り付いている。


「……君は?」


意外だった。彼の声は、驚くほど穏やかで優しかった。警戒するような様子もなく、ただ静かに私を見つめている。


「私? ただの、ここの住人だけど」


「……そうか」


彼はふっと微笑んだ。その瞬間、私は奇妙な感覚に襲われた。


――この人を、どこかで見たことがある。


けれど、その記憶は霧のように曖昧で、手を伸ばしても掴めない。


「君も、城を見ているんだね」


「え?」


彼の言葉に、私は息をのんだ。


「君たちの世界では、“あれ”をどう呼んでいる?」


「……城、だけど」


「そうか。僕らの言葉では、“家”って言うんだ」


静かな雨音の中で、彼は淡々と告げた。その瞬間、私の中で何かが弾けた。


――“僕ら”?


「……まさか、あんた……」


彼はもう一度、優しく微笑んだ。


「ようこそ、“家族”の世界へ」


その言葉とともに、視界がぐらりと歪んだ。雨の音が遠のき、気がつくと私は暗闇の中に立っていた。

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