58 the show continues
——沈黙。
息すら許されぬほどの、静寂。
鼓膜が震えるほどの、虚無。
誰もが動かない。
影たちも、観客も、舞台の歯車たちも、すべてが凍りついたまま。
まるで時間が止まったかのように。
まるで、世界が終わった後のように。
私は、立ち尽くしていた。
舞台の奥、闇の中で、何かが蠢く。
音を殺して近づく、それは——
「幕を閉じろ、と言ったのに」
囁きは、私の耳のすぐ傍。
影のひとつが、私の肩に触れようとする。
だが、その手は空を切った。
私は、そこにいなかった。
視界が反転する。
舞台が崩れ落ちる。
いや——
世界そのものが、崩れ始めたのか?
「まだ終わらせない」
私は、叫んだ。
影たちが揺らぐ。
仮面の奥の無数の目が、驚愕に染まる。
「なぜ?」
「なぜ、抗う?」
「なぜ、物語の終焉を拒む?」
観客が、舞台の上へと雪崩れ込んでくる。
だが、その姿はもう人間ではなかった。
笑う口が裂け、歪んだ瞳がいくつも増殖する。
腕が無数に分裂し、指が地を這う。
彼らは、物語そのものだった。
この世界に生きる、虚構の住人。
「舞台の上にいる限り、私は演じる者」
「物語の一部に過ぎない」
「だが、それを決めたのは誰だ?」
「この世界のルールを作ったのは?」
問いが、宙に放たれる。
沈黙が降りる。
誰も、答えない。
その瞬間。
——何かが解けた。
音が戻る。
色が弾ける。
景色が、反転する。
私は、足元を見た。
舞台はもうない。
あるのは、ただの白い空間だった。
観客も、影も、仮面も、すべてが消えていた。
残ったのは、私だけ。
私だけ。
——いいや。
違う。
私は、最初からここにいた。
この白い空間に。
舞台の上ではなく、観客席でもなく、
物語の外側に。
「幕を閉じろ」
私は、自分自身に命じた。
視界が、揺れる。
世界が、一瞬で裏返る。
そのとき——
「おめでとう」
誰かの声が、聞こえた。
——何の、祝福だ?
私は、誰のための物語を歩いていた?
私は、何者だ?
目の前が真っ暗になった。