表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/99

56

仮面が笑う。

私が笑う。

私ではない何かが、私の顔で笑う。


——いいえ、違う。


仮面が私を笑っているのだ。


舞台の上、照明がぐるぐると回る。

光の筋が交差し、影が躍る。

観客は陶酔し、歓声が割れんばかりに飛び交う。

誰も彼もが、目を輝かせている。


彼らが見ているのは、何?

仮面か、私か、それとも——


「さあ、開演の時間だ!」


影が、合図を打つ。


カツン。


足元に一歩。

音が響く。

舞台の床が波紋のように揺れ、私の輪郭を溶かす。


誰かが笑う。

誰かが泣く。

誰かが踊る。


私ではない誰かたちが、私を指している。


「主役登場!」


「期待してるよ!」


「最高の幕引きを!」


誰の声とも知れぬ声が、舞台の四方八方から降り注ぐ。

私は一歩、舞台の中央へと進む。


足が震えている。

それは恐怖か? それとも興奮か?

自分でも分からない。



「次の演目は?」


仮面が囁く。

仮面をかぶったままの私が、視線を上げる。


「演じるのは?」


影が問いかける。


「あなたの物語だよ」



——私の物語?


喉がひりつく。

体温が急速に奪われていく。

指先が震え、鼓動が狂いそうになる。


私の物語は、どこにある?


私は、何者?


誰かの作った筋書きをなぞるだけの駒なのか。

それとも——



舞台が歪む。

いや、世界そのものが舞台だ。

観客席が延々と続いている。

舞台の端は見えない。

天井も、床も、壁もない。


終わりのない劇場。

無限の歓声。

果てのない喝采。


「最高の演目を期待しているよ」


観客が囃し立てる。

拍手が波のように押し寄せる。


私は仮面を掴んだ。

外れない。


指が皮膚に沈む。

仮面と私が一体になっている。


笑う唇が歪む。

顔が、私の意思と関係なく、作られた表情を浮かべている。


まるで操り人形。


まるで、役を与えられた存在。


私は……




「さあ、幕を閉じよう」


影が囁く。

指揮棒が振られる。


世界が回る。

照明が落ちる。


観客たちが、一斉に立ち上がる。


「カーテンコール!」


「カーテンコール!」


「カーテンコール!」


無数の声が重なり合う。


私の足が動く。

頭が勝手に下がる。


——おかしい。


これは、誰の演目?


誰が、脚本を書いた?


観客の目が光る。

舞台が収束する。


世界が、一つの物語として閉じられようとしている。


——私の意思とは関係なく。


鐘が、鳴り響く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ