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——喝采が鳴り響く。
雷鳴のような拍手、狂ったような口笛、歓喜に満ちた嬌声。
それらが重なり合い、渦巻き、天井の見えない劇場にこだまする。
私はひたすらに逃げる。
「いいねぇ!素晴らしい!最高の一手だったよ!」
仮面の男が手を叩く。
彼の瞳は夜のように深く、まるでこの狂気の舞台そのものを愛しているかのようだった。
そして、その傍ら——
影が、私を見ていた。
「私の番?」
音が止まる。
観客たちが静まり返る。
舞台の空気が、急激に冷えていく。
影が微笑む。
「それじゃあ——少し、楽しいことをしましょう?」
言葉と共に、影が指を鳴らす。
——世界が、反転した。
◇
地面が歪み、劇場の形がぐにゃりと変わる。
舞台と客席が入れ替わり、壁が天井となり、光が闇にのみ込まれる。
誰もが歓声を上げる。
まるで、自分たちがこのカオスの一部であることを誇るように。
私は立っている。
盤の中央に。
影もまた、そこに立っていた。
「ねえ、知ってる?」
影が囁く。
「ゲームってね、必ず勝者と敗者がいるの。」
「……そうね。」
「でも、それが二者だけだとは限らないのよ。」
影がくるりと回る。
その仕草はあまりに軽やかで、まるで羽根のように儚かった。
「私たちが“駒”ならば、誰が“プレイヤー”なの?」
ぞくり、と背筋が凍る。
影が私をじっと見つめる。
「あなたは、誰?」
その問いが、私の脳に杭を打ち込む。
ピエロたちが笑う。
道化たちが踊る。
狂気の舞台は、なおも続く。
鐘の音が鳴る。
次のターンが始まる。
——それは誰の手番?
私は?
影は?
観客たちは?
このゲームの、本当の“プレイヤー”は?