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再び幕が上がる。
歓声が弾ける。
世界がひっくり返るような、熱狂の渦が広がる。
私は気づけば円形のステージに立っていた。
目の前には異形の観客たち。
仮面をつけた者、歯を剥き出しに笑う者、影のように揺れる者——みんなが手を叩き、足を鳴らし、声を重ねている。
「さあ!楽しい時間のはじまりだ!」
誰かが叫ぶ。
途端に、ステージの床がぎしりと軋んだ。
それは舞台ではなかった。
それは——巨大な盤面だった。
白と黒に区切られた正方形。
縦横無尽に走る金のライン。
ステージそのものが、まるで盤上のゲームのように光り輝いている。
「ゲームの始まりです!」
シャンデリアが落ちる。
空中で爆ぜる。
光の粒が散りばめられ、拍手が巻き起こる。
「ルールは簡単!」
道化のひとりが踊りながら言う。
「この盤の上で、最後まで生き残れば勝ち!」
「敗者には?」
私は無意識に問いかけた。
道化はにんまりと笑う。
ピエロの仮面を揺らしながら、くるりと一回転。
「さあねえ?」
と、その瞬間——
盤が、動いた。
正確には、沈んだ。
いや、歪んだ。
まるで空間そのものがねじれるように、床の一部が沈み、別の部分が隆起する。
重力が狂い、視界が揺れる。
そして、異変はそれだけではなかった。
「よく見て!」
観客席の誰かが叫んだ。
私は足元を見た。
盤の上——
そこに立っていたのは、私だけではなかった。
白い仮面の男。
紅いドレスの少女。
背中に翼を持つ者。
獣の頭を持つ者。
次々と現れる「駒」たち。
彼らはまるで、生きたチェスの駒のように、盤の上に配置されていく。
「さあ、あなたのターン!」
誰かの声が響く。
——私のターン?
意味がわからない。
しかし、頭の奥が疼く。
まるで、これは「知っている」感覚だ。
「ルールは簡単、動くのは貴方の意志次第!」
白い仮面の男が言う。
「でもね、動かないと負けちゃうよ?」
ドレスの少女が囁く。
「さあ、どの駒を動かす?」
観客席が一斉に身を乗り出した。
——私は、動かすのか?
それとも、動かされるのか?
歓声が高まる。
歯車が軋む音がする。
ステージが脈打つように震える。
そして——
「あなたは、どの駒?」
誰かの声が、耳元で囁いた。
舞台は、まだ終わらない。