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光が跳ねる。
音が弾ける。
歪み、絡まり、ねじれ、そして加速する。
唐突に、世界は祭りだった。
空を駆ける紙吹雪、宙を舞う歓声、意味のない笑い声。巨大な歯車が軋みながら回り、仮面の道化たちが踊る。ピエロの顔が幾重にも重なり、ひとつの巨大な仮面劇場を形作っていた。
仮面の奥で、無数の目が爛々と光る。
「さあ、開演だ!」
誰かが叫んだ瞬間、舞台の幕が落ちた。
——喜劇と悲劇の、境界線が曖昧になる時間の始まりだ。
私は、いつの間にか舞台の上にいた。
それが”舞台”なのかどうか、本当はわからない。けれど、ここに立った瞬間、あらゆるものが芝居じみて見えた。
紙吹雪のひとつひとつが、誰かの囁きのように耳元をかすめる。
足元の床が、まるで生き物のように鼓動を打っている。
遠くで響く笑い声は、何かを楽しんでいるのか、それとも嘲っているのか。
「演じろ」
そう囁かれた気がした。
演じろ。演じろ。演じろ。
役を忘れるな。台詞を間違えるな。
ここでは、間違った者から”消えて”いく。
観客席に目を向けた。
そこには、無数の”顔”が並んでいた。
いや、それは”顔”と呼べるのか?
目だけが浮かび、口だけが笑い、鼻だけが宙に漂う。
まるで、見えない何かが”顔”のパーツだけを集めて作った、出来損ないの人形たち。
——彼らは私を”観測”している。
私の一挙手一投足を、見逃さずに。
私が舞台の上で”何者”なのかを、確かめるように。
「……私は」
口を開く。
だが、その瞬間、世界が”ぐにゃり”と歪んだ。
脚が沈む。いや、舞台が溶けていく。
床に張り付いた影がじわりと広がり、私の足を飲み込もうとしている。
「役割を果たせなければ、君は”不要”だ」
誰かがそう告げた。
観客席の”顔”たちが、一斉にこちらを向く。
次の瞬間——
拍手が鳴り響いた。
音が重なり、増幅し、天井を突き破るほどの衝撃となる。
それは喝采か? それとも、弔いの鐘か?
「さあ、演じるんだ!」
誰かが叫ぶ。
舞台が、崩れ始める。
笑い声が、空間を裂く。
世界が、加速する。
そして、私は——
幕が下りる、その瞬間を見た。