表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/99

45

「ずっと私と一緒にいよう?ずっと。」


その言葉は、深い井戸の底に落ちる石のように、私の意識の奥へと沈んでいった。


シラーチルの指先が、私の頬を撫でる。

ゆっくりと、慈しむように。


だが、その手は冷たい。


まるで血液の循環を拒んだ人形のように——死の香りすら纏っているかのように。


「シラーチル……あなたは、何?」


私の問いに、シラーチルはくすくすと笑う。


「私?……私って、何かなぁ?」


「……。」


「ねえ、リトマス。君は、自分の肉を口にしたことってある?」


「……は?」


思考が追いつかない。

問いの意味が理解できない。


「ないよねぇ。普通の人は。 でも、リトマスはどうかな?」


シラーチルの指が、私の唇をなぞる。


「試してみる?」


その言葉とともに、彼女はナイフを持ち上げた。


「……冗談でしょ?」


「冗談?」


シラーチルは、小首をかしげる。

目の奥に純粋な狂気の輝きを宿しながら。


「リトマスは、私の大切な大切な標本だからね。」


ナイフの刃先が、私の腕に触れる。

ぞくりとする感覚が走る。


——冷たい刃が、皮膚を撫でる感覚。

——赤黒い液体がじわりと滲む予感。


「ほら、見て。綺麗な色。」


シラーチルは、傷口から滴る血を指先で掬い、恍惚とした表情で舌に乗せた。


「……ッ!!」


私の鼓動が、嫌悪とも恐怖ともつかぬ感情で跳ね上がる。


シラーチルは、まるで上質なワインを味わうかのように、ゆっくりと血の味を楽しむ。


「やっぱり、君の“赤”は特別だね。」


「……やめて。」


「ん?やめるの?」


「……。」


「じゃあ、君が代わりに味わってみる?」


シラーチルは、指先に残る血を私の唇に押し当てる。


「舌を出して。」


「……。」


「リトマス、自分の味を知らないなんて、もったいないよ?」


——狂気が、私を飲み込もうとしている。


逃げられない。

逃げたくない?

私の中の“何か”が疼いている。


シラーチルは、うっとりとした目で私を見つめながら、もう一度囁いた。


「ねえ、リトマス。

“美味しい”って、どういうことだと思う?」


私は、どう答えればいい?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ