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選べない。
選べない
選べない。
でも..,選ばなければ...
「……私を、壊す?」
その言葉を口にした瞬間、背筋に冷たい悪寒が走る。
「ふふ、そうだね。」
シラーチルは、ゆっくりとナイフを押し込む。
「君が壊れたら、世界はどうなるんだろう?超ハッピー?超ラッキー?いや...最高のアンラッキーエラーかな?どちらにしても、私は歓喜する。」
刃先が皮膚を破り、赤黒い液体が滲む。
痛みのはずなのに、それはまるで快楽のように脳を痺れさせた。
「ねえ、リトマス。君は何者?」
その言葉が、脳に突き刺さる。
私は——
「……私は、“私”だ。」
「ちがうって、シラーチルだよ?何を言ってるのさっきから。」
シラーチルが、口元を歪める。
「君はさ、本当に“君”なの?」
言葉が、頭の中でぐるぐると回る。
私はシラーチル。私はリトマス。私は私。
シラーチルは、ゆっくりとナイフを引いた。
「……まあ、壊れるのはまだ早いかもね。私の美しさを完全に理解してから壊れて。傲慢甚だしい。」
私の胸元から、黒い血がじわりと滲む。
滴るそれは、ゆっくりと床へと広がり、奇妙な模様を描く。
「ねえ、リトマス。知ってる?」
シラーチルが、血だまりを指先でなぞる。
「世界って、君がいなくなったら消えちゃうんだよ?」
「……何を言ってるの?」
「ううん、君が知らないだけ。
でも、君が“観測”をやめたら、何もかもなくなる。
だから、壊れたらダメなんだよ?」
「……。」
「でもね......あなたって最高!」
意識が朦朧としてきた。
シラーチルは高揚しており、興奮もしているようだ。
「愛しいシラーチル。愛しいリトマス。私に未来を。私に愛を。」
シラーチルが、私の頬にそっと触れる。
その指先は冷たく、ひどく優しくて——
「君は、リトマス試験紙だから。」
「……。」
——変化を示す者。
私は、何かを試されている?
シラーチルが、私の耳元で囁く。
「ずっと私と一緒にいよう?ずっと。」
その問いに、私は——
何も答えられなかった。