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「私が……思い出さなきゃいけない?」
黒い“私”は静かに頷く。
「そう。君の記憶の中に、この世界を救う鍵がある。」
「救う……? 私が?」
信じられない。でも、黒い“私”の目は真剣だった。まるで、 私の選択次第で世界の運命が決まる とでも言いたげに。
「待って、私はただの——」
「“ただの”じゃない。君は元々、この世界で戦っていた“戦士”だったんだから。」
またその話だ。
私が戦士? この世界を救う?
何を言われても、実感が湧かない。
けれど——
心の奥で何かがざわめいている。
(本当に……そうなの?)
「……証拠は?」
思わずそう尋ねていた。
「証拠?」
「私が戦士だったなんて、信じられない。記憶がないんだから当然でしょ? だから、何か証拠を見せてよ。」
黒い“私”はしばらく黙っていたが、やがてフッと小さく笑った。
「証拠なら……君の中にあるよ。」
「私の中?」
「試してみればいい。」
そう言って、黒い“私”は剣をこちらに向けた。
「……え?」
「私を倒してみなよ。」
「なっ……!?」
突然の言葉に、息を飲む。
「ちょ、ちょっと待って、何を言って——」
「戦えば分かる。君の中に眠る力が。」
黒い“私”が一歩踏み出す。
その瞬間、 空気が張り詰めた。
「……本気、なの?」
「もちろん。」
黒い“私”は静かに剣を構える。
冗談じゃない。
私は戦士なんかじゃない。戦えるはずが——
「……!」
気づけば、私の手の中にも剣が握られていた。
「な……どうして……?」
「ほら、やっぱり。」
黒い“私”が少しだけ微笑む。
「君は、もう持っているんだよ。“戦士”だった証を。」
私は、震える手を見つめた。
本当に……私は……?
「さあ、思い出して。」
黒い“私”が剣を振り上げる。
「君が、この世界で 何をしていたのか を!」
—— 次の瞬間、世界が光に包まれた。