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心臓の鼓動が、耳の奥で響く。
「私は……」
頭がぐらりと揺れる。
まるで何かがこじ開けられるように、遠い記憶の欠片が流れ込んでくる。
赤い空。
崩れ落ちる大地。
響き渡る悲鳴——
—— そんなもの、知らないはずなのに。
「やっぱり……忘れてるんだね。」
黒い“私”が、ゆっくりと剣を下げた。
「何を……?」
「全部だよ。」
「全部って……そんなわけ……!」
足元がふらつく。息が詰まるような感覚。
「——君は、元々この世界の住人だった。」
「……え?」
「いや、もっと正確に言えば……かつて ここで戦っていた 人間だ。」
「嘘……」
「嘘じゃない。君は“戦士”だった。けれど、ある理由でこの世界から姿を消した。そして今……何も知らないまま、戻ってきた。」
「そんな……!」
頭を抱えた。理解できない。
でも——
心の奥で、 何かが肯定している。
「君の記憶は、意図的に封じられている。だから、覚えていないのも当然だ。」
黒い“私”は、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
「……どうしてそんなことを?」
「君を守るため、かもしれないし……あるいは 君自身が望んだ のかもしれない。」
「私が……?」
「けれど——」
黒い“私”が私の手を取り、じっと目を覗き込んだ。
「このままでは、また すべてを失うことになる。」
「……!」
「君が“目を覚ます”かどうか——それを決めるのは、君自身だよ。」
言葉の意味が、分からなかった。
でも、確かに感じた。
私は、何かを忘れている。
そして——
それを思い出さなければならない。