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三つの扉を前に、私は立ち尽くしていた。
左の 鎖の扉。
中央の 剣の扉。
右の 蝶の扉。
それぞれに意味があるのだろうか?
私は静かに息を整えた。
「……この扉は、何?」
男は微笑を崩さぬまま、静かに言った。
「鎖は『過去』。」
「剣は『戦い』。」
「蝶は『運命』。」
「君が何を求めるかで、進む道が決まる。」
過去、戦い、運命——
どれを選んでも、簡単な道ではない気がする。
男の視線が、私を試すようにじっと注がれる。
私は喉を鳴らした。
「……もし、私は『ここから出る道』を探しているとしたら?」
男は、ふっと笑った。
「それなら、どの扉も“正解”であり、“間違い”だ。」
「……どういうこと?」
「それは、君自身が決めることさ。」
私は、もう一度三つの扉を見つめた。
どれを選んでも、戻れない。
だけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。
私は、ゆっくりと——
中央の剣の扉 に手を伸ばした。
——カチリ。
扉がわずかに開く。
暗闇の奥から、何かが蠢く気配がした。
「……ようこそ、戦場へ。」
不吉な声が響いた瞬間——
私は、扉の中へと引きずり込まれた。