28
城の中は、まるで時間が止まったかのように静かだった。
広々とした石造りの廊下。壁には古びた燭台が等間隔に並んでいるが、火は灯されていない。天井の高いアーチが影を落とし、奥へと続く闇はどこまでも深く、不気味だった。
私は慎重に足を踏み出す。
コツン、コツン——
靴音が響くたびに、空間が少しずつ歪んでいくような錯覚を覚える。
「……ここ、本当に現実なの?」
自分の声すら、壁に吸い込まれていくように感じる。
だが、それを確かめる術はない。
とにかく、前に進むしかない。
私はゆっくりと奥へ進んだ。
——そのとき。
背後で、静かに扉が閉じる音がした。
振り向いた瞬間——
「ようこそ、お客人。」
耳元で、男の声が囁いた。
私は反射的に後ずさる。
「……誰!?」
そこにいたのは、一人の青年だった。
漆黒の外套をまとい、淡い銀髪をなびかせた男。
鋭い金色の瞳が、私を値踏みするように見つめていた。
「君を待っていたよ。」
「……私を?」
「そう。」
男は静かに微笑んだ。
「さあ、選んでくれ。」
「……選ぶ?」
私が聞き返した瞬間、空間が揺れた。
次の瞬間、目の前には——
三つの扉 が現れていた。
それぞれ異なる紋章が刻まれている。
左の扉には 鎖、中央の扉には 剣、右の扉には 蝶。
「どの道を進むかは、君の自由だ。」
男は静かに告げる。
「ただし、一度選んだら、戻ることはできない。」
冷たい空気が、頬を撫でる。
私は息をのんだ。
選択肢は三つ。
どれを選ぶかで、何かが決まる。
——私は、どの扉を開くべきなの?