27
鋭い風が頬を切るように吹き抜けた。
私は肩をすくめながら、ぼんやりと目の前の光景を眺める。
目の前にそびえ立つのは、不気味なほど静まり返った黒い城。その塔は雲を突き抜けるほど高く、夜空に飲み込まれそうなほど暗かった。
「……ここは?」
つぶやいてみるが、返事はない。
まるで夢の中に迷い込んだような感覚だった。
だが、風の匂いも、足元の冷たい石畳も、確かに“現実”のものだ。
私は慎重に周囲を見回した。城の門はわずかに開いている。誘われるように、一歩踏み出した。
そのとき——
「待って。」
背後から声がした。
——私の声だった。
振り向くと、そこには“私”がいた。
黒いコートを翻しながら、静かにこちらを見つめている。
「……また、あなた?」
「私のことは“影”と呼んでくれていい。」
影——つまり、私の“もう一人の私”が、ゆっくりと口を開いた。
「君は、これから何をするつもり?」
「……何をするって、この城の中に入るしかないでしょ?」
「そう。でも、選択肢はそれだけじゃない。」
影の瞳が揺れる。
「この世界には、道がいくつもある。君がどれを選ぶかで、すべてが決まる。」
「……どういう意味?」
影は答えず、ただ私を見つめた。
そして、かすかに微笑んだ。
「もうすぐ、すべてがわかるよ。」
その言葉とともに、影の姿がゆっくりと霧のように消えていった。
私は拳を握りしめ、決意を固める。
——もう迷わない。
私は門を押し開き、黒い城の中へと足を踏み入れた。