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城の奥へと続く石畳の廊下は、驚くほど静かだった。


壁にかかる燭台の炎は揺らめき、私たちの影を長く伸ばしている。


「ねぇ……この城って、一体……?」


私が問いかけると、“私”は歩みを止めずに答えた。


「ここは境界。あなたが過去と向き合い、未来を選ぶための場所。」


「……境界?」


「そう。」


言葉の意味を考えようとするが、頭の中に霧がかかったようで、はっきりと理解できない。


ただ、ひとつだけ確信していることがある。


——この場所は、私にとって避けては通れないものなのだ。


足を踏み出すたびに、心が少しずつざわめいていく。


それは不安とも恐れとも違う、妙な感覚だった。


何かを思い出しかけている。

何か、大切なことを。


「進んで。」


“私”が促す。


私は深く息を吸い、前へ進んだ。


——その瞬間、視界が歪んだ。



光と闇が交錯する世界に、私は立っていた。


見渡す限り、白と黒の光が渦を巻いている。


そして、その中央に——


「……誰?」


ひとりの少女が立っていた。


私よりも少し幼い、あどけなさの残る顔。


「……君は?」


少女はじっと私を見つめ、微かに首を傾げた。


「わたし?」


その声を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような感覚が走る。


知っている。


この子を、私は知っている。


だけど、思い出せない。


「……あなたは、わたし?」


少女が、問いかける。


「……どういう意味?」


「あなたがここに来た理由を、思い出せばわかるよ。」


少女はそう言って、そっと手を差し出してきた。


「……受け取って。」


私は、躊躇いながらも、その小さな手のひらの上を見る。


そこには——


小さな鍵があった。


「これは……?」


「あなたが閉ざした扉を開く鍵。」


少女が微笑む。


「さぁ、思い出して。あなたが“忘れたもの”を。」


鍵を握ると、視界が一気に光に包まれた。


**


私は、思い出せるのだろうか。


——この鍵が開く扉の向こうにあるものを。**

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