26
城の奥へと続く石畳の廊下は、驚くほど静かだった。
壁にかかる燭台の炎は揺らめき、私たちの影を長く伸ばしている。
「ねぇ……この城って、一体……?」
私が問いかけると、“私”は歩みを止めずに答えた。
「ここは境界。あなたが過去と向き合い、未来を選ぶための場所。」
「……境界?」
「そう。」
言葉の意味を考えようとするが、頭の中に霧がかかったようで、はっきりと理解できない。
ただ、ひとつだけ確信していることがある。
——この場所は、私にとって避けては通れないものなのだ。
足を踏み出すたびに、心が少しずつざわめいていく。
それは不安とも恐れとも違う、妙な感覚だった。
何かを思い出しかけている。
何か、大切なことを。
「進んで。」
“私”が促す。
私は深く息を吸い、前へ進んだ。
——その瞬間、視界が歪んだ。
光と闇が交錯する世界に、私は立っていた。
見渡す限り、白と黒の光が渦を巻いている。
そして、その中央に——
「……誰?」
ひとりの少女が立っていた。
私よりも少し幼い、あどけなさの残る顔。
「……君は?」
少女はじっと私を見つめ、微かに首を傾げた。
「わたし?」
その声を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような感覚が走る。
知っている。
この子を、私は知っている。
だけど、思い出せない。
「……あなたは、わたし?」
少女が、問いかける。
「……どういう意味?」
「あなたがここに来た理由を、思い出せばわかるよ。」
少女はそう言って、そっと手を差し出してきた。
「……受け取って。」
私は、躊躇いながらも、その小さな手のひらの上を見る。
そこには——
小さな鍵があった。
「これは……?」
「あなたが閉ざした扉を開く鍵。」
少女が微笑む。
「さぁ、思い出して。あなたが“忘れたもの”を。」
鍵を握ると、視界が一気に光に包まれた。
**
私は、思い出せるのだろうか。
——この鍵が開く扉の向こうにあるものを。**