25
影たちが、ざわりと揺れた。
一斉にこちらへと向かってくる。
まるで何かを訴えるように——いや、問いかけるように。
「……っ!」
足がすくむ。
だが、逃げるわけにはいかない。
私は「知る」と言ったのだから。
「全部、受け止める。」
そう呟いた瞬間——
影たちの姿が、変わり始めた。
輪郭がはっきりし、ひとつ、またひとつと顔が見えてくる。
——知っている顔だった。
「大丈夫、すぐ戻るから。」
約束を交わした少女。
「これ、あげる!お守りにして!」
笑顔で小さなペンダントを渡してくれた少年。
「君がいるから、私は頑張れるんだよ。」
真っ直ぐに私を見つめていた人。
「……私が、忘れた人たち……?」
そうだ。
私はここに来る前に、誰かを、何かを捨ててしまった。
思い出すことすらできなかった、大切な記憶。
「でも、どうして……?」
彼らは、なぜこんな形で現れたのだろう?
「あなたが、選んだから。」
“私”が、静かに告げる。
「選んだ……?」
「そう。あなたは何かを捨てることで、今の自分を保ってきた。
思い出すことなく、前に進むために。
けれど今、あなたは違う道を選ぼうとしている。」
「私は……」
何もかも忘れたままなら、楽だったのかもしれない。
でも、私は——
「……この人たちと向き合わなくちゃいけない。」
影だった彼らは、どこか穏やかな表情を浮かべている。
「……ありがとう。」
そう言うと、彼らはふっと光の粒となって消えていった。
まるで、安らかに眠るように——。
そして、最後に残ったのは、ひとつの小さなペンダントだった。
私は、それをそっと拾い上げた。
「思い出したのなら、次に進みましょう。」
“私”が微笑む。
「この城の本当の意味を、知るために。」
私は、深く息を吸い込んだ。
「——行こう。」
握りしめたペンダントの温もりを感じながら、
私は“私”と共に、城の奥へと歩き出した。