表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/99

25

影たちが、ざわりと揺れた。


一斉にこちらへと向かってくる。

まるで何かを訴えるように——いや、問いかけるように。


「……っ!」


足がすくむ。

だが、逃げるわけにはいかない。


私は「知る」と言ったのだから。


「全部、受け止める。」


そう呟いた瞬間——


影たちの姿が、変わり始めた。


輪郭がはっきりし、ひとつ、またひとつと顔が見えてくる。


——知っている顔だった。


「大丈夫、すぐ戻るから。」


約束を交わした少女。


「これ、あげる!お守りにして!」


笑顔で小さなペンダントを渡してくれた少年。


「君がいるから、私は頑張れるんだよ。」


真っ直ぐに私を見つめていた人。


「……私が、忘れた人たち……?」


そうだ。


私はここに来る前に、誰かを、何かを捨ててしまった。


思い出すことすらできなかった、大切な記憶。


「でも、どうして……?」


彼らは、なぜこんな形で現れたのだろう?


「あなたが、選んだから。」


“私”が、静かに告げる。


「選んだ……?」


「そう。あなたは何かを捨てることで、今の自分を保ってきた。

思い出すことなく、前に進むために。

けれど今、あなたは違う道を選ぼうとしている。」


「私は……」


何もかも忘れたままなら、楽だったのかもしれない。

でも、私は——


「……この人たちと向き合わなくちゃいけない。」


影だった彼らは、どこか穏やかな表情を浮かべている。


「……ありがとう。」


そう言うと、彼らはふっと光の粒となって消えていった。


まるで、安らかに眠るように——。


そして、最後に残ったのは、ひとつの小さなペンダントだった。


私は、それをそっと拾い上げた。


「思い出したのなら、次に進みましょう。」


“私”が微笑む。


「この城の本当の意味を、知るために。」


私は、深く息を吸い込んだ。


「——行こう。」


握りしめたペンダントの温もりを感じながら、

私は“私”と共に、城の奥へと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ