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黒い霧のような影が、じわじわと広がっていく。


ただの闇ではない。

それは、意志を持っている——まるで、私を見ているように。


「……っ!」


無意識に後ずさる。背後の空気が冷たく感じられた。


「怖い?」


隣にいる“私”が、静かに問いかける。


「……わからない。」


恐怖なのか、それとも別の感情なのか。胸の奥がざわつく。


影はゆっくりと形を変え始めた。


ぼんやりとした輪郭が、徐々に人の姿をとっていく。


「これは……」


気がつけば、目の前には無数の人影が立っていた。


黒い靄に包まれた彼らは、静かにこちらを見ている。


「あなたが忘れたもの。」


“私”はそう言った。


「……忘れたもの?」


「そう。あなたが捨ててしまった記憶、置き去りにした想い。

それらが、この城の中で形を成したもの。」


影のひとつが、ゆっくりと手を伸ばした。


私は動けない。


その手が、私の頬に触れる——その瞬間、


——記憶が流れ込んできた。


「お願い、置いていかないで!」

涙に濡れた声が響く。


「大丈夫、すぐ戻るから。」

私は笑って、手を振った。


けれど——


その約束は果たされることはなかった。


「……っ!」


息が詰まる。頭の中が混乱する。


「今のは……私の記憶?」


影たちは、また静かに佇んでいる。


彼らは——私が置き去りにした人たち?


「すべてを思い出したとき、あなたは選ばなくちゃいけない。」


“私”は、静かに言う。


「忘れたまま、何も知らなかったことにするのか——

それとも、全部受け入れて前に進むのか。」


「……私は……」


何も知らない方が楽かもしれない。

けれど、私はここに来た。


知るために。


「私は……全部、知りたい。」


その言葉を口にした瞬間——


影たちが、一斉に動き出した。

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