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冷たい風が吹き抜ける。


目の前には、先ほどと変わらない黒い城。


けれど、私はもうこの場所を”知らない”とは思えなかった。


「……思い出した?」


隣に立つ彼女——もう一人の”私”が、静かに問いかける。


完全に、ではない。でも、確かに断片的な記憶が蘇っている。


「ここは……」


私は城を見上げながら、かすれた声で呟く。


「私が、戻るべき場所?」


「違うよ。」


彼女は首を振る。


「これは、“あなたが捨てた場所”。」


心臓が、ずしりと重くなる。


「捨てた……?」


「ううん、正確には”忘れた”、かな。」


彼女はゆっくりと歩を進める。私は、その背中を追いながら戸惑う。


「でも、どうして私は——」


「それを知るために、ここに戻ってきたんでしょう?」


彼女は立ち止まり、私を振り返る。


「“覚えてしまえば、元には戻れない”。」


その言葉に、私は息をのんだ。


「……どういう、こと?」


「これ以上進めば、あなたはもう”普通の自分”ではいられなくなる。」


彼女の瞳が、深い影を帯びる。


「それでも、進む?」


“普通の自分”。


その言葉が、胸の奥に刺さる。


私は……ただの日常に戻ることもできるの?


けれど——


「私は……知りたい。」


私は拳を握る。


「この場所が何なのか、私が何者なのか……全部、知りたい。」


彼女はしばらく私を見つめ、そして小さく微笑んだ。


「——なら、ついてきて。」


そう言って、城の大扉に手をかける。


重々しい音を立てて扉が開いた瞬間、


奥から、暗闇が溢れ出した。


そしてその中から——


無数の影が、ゆっくりと姿を現した。

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