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「いらっしゃいませ。」
「ありがとうございました。またお越しくださいませ!」
このお店で働き始めてから何度言っただろうか。
一日に何度も繰り返されるこの言葉たちは、ある種呪文のように感じる。
ファンタジーの世界の話ではあるけれど、魔法というものは詠唱して発動するのが一般的だ。
現実世界では、私たちが発する言葉も魔法のようなものだと最近感じる。
火や水など物理的に何かを生み出したりはしないけれど、相手の気持ちを変化させることができる。
言葉を発するのは簡単だが、それは小さくも大きくもある。私は現在日本語という魔法を1つ持っているということになる。通訳の人は大魔法使いだ。それは少し面白い。
「この商品また売れたのか。何が良いのかね~このイラスト。最近の若い子の趣味は分からないね~。」
店長がTシャツを不思議そうに見ながら言った。ある有名なデザイナーが手掛けたTシャツだった。売れている理由は私にも分からない。ただTシャツの真ん中には、空に浮かぶ城が描かれていた。あの城だった。
独特なタッチで描かれた城Tシャツは、今日本だけではなく世界中で売れているらしい。私も店長と同意見。何が良いのだろうこのTシャツ。
当然のように、城に関する商品は世界中で販売されている。ペンやスマホカバーなど、様々な商品に、様々な人が描いた城の関連商品は数えきれないほどだ。
「お疲れさまでした。」
今日も有名な詠唱呪文の一つを唱えて私は帰宅する。
ショッピングモールを出ると、外は真っ暗だった。寒さに手を震わせながらスタッフは車に乗り込んで帰宅する。
特に車に拘りがなかった私は軽自動車に乗っている。父親が選んだもので、軽自動車の中では比較的広いワンボックスタイプの車だ。窓も大きく1つの部屋のようにとても開放的なのは好きだ。
車の中は外と同じくらい冷えており、ハンドルも冷えた水のように冷たい。私は冬は好きだが寒いのは苦手だった。私の街は県内最大の大きさのショッピングモールはあるが、街としては栄えてはいない。田舎とはこういうものだと私は思った。私は車のエンジンを起動させ家に向かって車を走らせた。