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鏡の中の「私」が、ゆっくりと口を開く。


——音はない。


けれど、確かに言葉が放たれたと感じた。


私の頭の奥に、直接響くような、奇妙な感覚。


「……私は、誰?」


問いかけるような、その言葉。


私の口からこぼれ落ちるのと、鏡の中の「私」が発するのが、同時だった。


「君は、私。」


「君は、誰?」


「——君は、“創られた存在”。」


「創られた……?」


喉の奥が、ひりついた。


何か、固いものを飲み込んだような感覚。


「どういう……こと?」


私は鏡に向かって、一歩踏み出した。


「まだ信じられない?」


「もう一人の私」が、静かに問いかける。


信じられない——


けれど、鏡に映る水槽の中の自分は、確かに私だった。


ぼんやりとした記憶の端が、じりじりと焼けるように疼く。


「思い出せる?」


「……わからない。」


「でも、何かがひっかかるでしょう?」


私は、ぎゅっと拳を握りしめる。


「……これが、本当に私の記憶なら……私は、何のために?」


「それを知るのが、君の役目よ。」


「役目……?」


「そう。君は“この世界に生まれるはずのなかった存在”。」


「だけど、今ここにいる。」


「君自身が、本当に存在する意味を求めるなら——」


鏡の中の「私」は、静かに手を伸ばした。


「——真実を、自分の目で確かめるの。」


次の瞬間——


鏡が砕け散った。



「——ッ!」


強烈な光が走り、私は思わず目を閉じた。


耳鳴りがする。


足元が揺れる。


まるで世界そのものが崩れ落ちるような感覚に、私は必死に踏ん張った。


そして——


目を開けると、そこは先ほどとはまったく違う景色だった。


冷たい石畳。


巨大なステンドグラスが輝く、大聖堂のような空間。


重厚な扉の前に、黒衣をまとった誰かが立っていた。


「……待っていたよ。」


低く響く声。


男——いや、違う。


その人物は、私とそっくりだった。


「また……私?」


「ようやく、ここまで来たね。」


彼は静かに微笑んだ。


「これで、“揃った”。」


「——揃った?」


「さあ、最後の選択をしよう。」


その言葉とともに、背後の扉がゆっくりと開かれる。


まるで、世界の秘密がその向こうにあるかのように——

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