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少年は静かに微笑んだ。


「……そう。」


まるでその答えを待っていたかのように、彼は手を伸ばす。


「じゃあ、ついてきて。」


彼が歩き出すと、広間の奥にあった扉が音もなく開いた。


そこに広がっていたのは、真っ白な廊下だった。


壁も床も天井も、すべてが白く、どこまでも続いているように見える。


私は一歩足を踏み入れた。


すると、背後の扉がふっと消えた。


まるで、最初からそこには何もなかったかのように。


「……後戻りはできない、ってこと?」


「そうだね。でも、君はもう進むって決めたんでしょう?」


「……うん。」


私は自分の胸の内を確かめるように、ぎゅっと手を握った。


真実を知りたい。


自分が何を忘れてしまったのか、本当の「私」が何なのか。


答えが怖くても、もう目を背けたくはなかった。


少年は私を見つめたまま、ゆっくりと歩き出す。


私も、その背中を追った。




どれくらい歩いたのだろう。


白い廊下は果てしなく続いているように見えたが、ふいに空気が変わった。


前方に、黒い扉が現れたのだ。


白い世界の中にぽつんと浮かぶような、その異質な扉。


「……この先に、答えがあるの?」


「あるよ。」


少年は扉の前で立ち止まり、私を振り返る。


「ただし——君がどこまで受け止められるかは、君次第だ。」


「……私は、知ると決めた。」


私は息を整え、扉に手をかける。


冷たい金属の感触。


私は一気に扉を押し開いた。



——そこは、鏡の間だった。


無数の鏡が壁一面に並び、床にも天井にも映し出されている。


まるで、どこを向いても自分がいるような錯覚に陥る。


「ここは……?」


「君自身の記憶が映る場所だよ。」


少年がそっと手を上げる。


すると、一つの鏡がゆらめき、映像が浮かび上がった。


——そこに映っていたのは、幼い私だった。


白い部屋の片隅に座り、寂しそうに膝を抱えている。


そして、その横には——


「……お母さん?」


映像の中で、私は女性の手を握っていた。


ぼんやりとした記憶の中で、彼女の顔がゆっくりと浮かび上がる。


私の記憶の中にいた、優しい目をした人——


「私……この人を知ってる。」


「うん。でも、思い出せないこともあるだろう?」


私は鏡に手を伸ばした。


指が触れた瞬間——


映像が砕け散った。


鏡の破片が宙に舞う。


同時に、強烈な頭痛が襲った。


「……っ!」


膝をつく私を、少年はじっと見つめていた。


「思い出して。君が本当に『何者』なのか。」


私は歯を食いしばり、崩れ落ちた鏡の破片を見つめた。


そして、その中に——


「……嘘。」


私が、もう一人。


黒いコートをまとい、静かに私を見つめるもう一人の「私」がいた。


「ようやく、ここまで来たね。」


彼女はそう言って、静かに微笑んだ。

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