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世界が闇に飲み込まれた。


身体が沈んでいく感覚。


深く、深く。


まるで底の見えない海の中へ落ちていくようだった。


耳鳴りがする。心臓の鼓動がやけに大きく響く。


——ここは、どこ?


——私は、誰?


意識が混濁しそうになる。


だめ。


目を開けなきゃ。


その瞬間——


「——起きて」


誰かの声が聞こえた。


懐かしくて、優しくて、それなのに、胸が締めつけられるような声。


私は、反射的に目を開けた。


視界が白い光に包まれ、ゆっくりと焦点が合っていく。


——ここは?


私は、冷たい石畳の上に倒れていた。


周囲を見渡すと、そこはどこかの広間だった。


天井は高く、古びたシャンデリアが揺れている。


壁には、見たこともない言語が書かれた額縁。


黒いカーテンが揺れ、窓の外には相変わらずの暗闇が広がっていた。


「……目、覚ました?」


声に反応して、私はそちらを見た。


そこには——


黒いフードをかぶった少年が立っていた。


歳は私と同じくらい。


けれど、その瞳はまるで何百年も生きてきたような、深い色をしている。


「……誰?」


私はかすれた声で尋ねた。


少年は私を見下ろし、少しだけ微笑んだ。


「君のことを知っている者、かな。」


「……どういうこと?」


「ここは君の記憶の奥底——でも、それだけじゃない。君がずっと目を背けてきたものが集まる場所だ。」


「私が……目を背けてきたもの?」


「そう。そして、君は今、それと向き合う時が来た。」


少年が指を鳴らすと、空間が歪んだ。


次の瞬間、広間の壁が波打ち、まるで水面に映る映像のように変化していく。


映し出されたのは——


私自身だった。


泣いている、小さな私。


誰かの手を必死に掴もうとしている。


でも、その手は届かない。


そして、やがて——


小さな私は、その手を諦めるように、静かに目を伏せた。


「……これは?」


震える声で尋ねると、少年は静かに言った。


「君が“忘れたかった記憶”だよ。」


胸が苦しい。


目の奥がじんと熱くなる。


私は、何を……


「さあ、どうする?」


少年はそう問いかけた。


「このまま目を逸らす? それとも——思い出す?」


私は、唇を噛んだ。


そして——


手を、伸ばした。

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