15
世界が闇に飲み込まれた。
身体が沈んでいく感覚。
深く、深く。
まるで底の見えない海の中へ落ちていくようだった。
耳鳴りがする。心臓の鼓動がやけに大きく響く。
——ここは、どこ?
——私は、誰?
意識が混濁しそうになる。
だめ。
目を開けなきゃ。
その瞬間——
「——起きて」
誰かの声が聞こえた。
懐かしくて、優しくて、それなのに、胸が締めつけられるような声。
私は、反射的に目を開けた。
視界が白い光に包まれ、ゆっくりと焦点が合っていく。
——ここは?
私は、冷たい石畳の上に倒れていた。
周囲を見渡すと、そこはどこかの広間だった。
天井は高く、古びたシャンデリアが揺れている。
壁には、見たこともない言語が書かれた額縁。
黒いカーテンが揺れ、窓の外には相変わらずの暗闇が広がっていた。
「……目、覚ました?」
声に反応して、私はそちらを見た。
そこには——
黒いフードをかぶった少年が立っていた。
歳は私と同じくらい。
けれど、その瞳はまるで何百年も生きてきたような、深い色をしている。
「……誰?」
私はかすれた声で尋ねた。
少年は私を見下ろし、少しだけ微笑んだ。
「君のことを知っている者、かな。」
「……どういうこと?」
「ここは君の記憶の奥底——でも、それだけじゃない。君がずっと目を背けてきたものが集まる場所だ。」
「私が……目を背けてきたもの?」
「そう。そして、君は今、それと向き合う時が来た。」
少年が指を鳴らすと、空間が歪んだ。
次の瞬間、広間の壁が波打ち、まるで水面に映る映像のように変化していく。
映し出されたのは——
私自身だった。
泣いている、小さな私。
誰かの手を必死に掴もうとしている。
でも、その手は届かない。
そして、やがて——
小さな私は、その手を諦めるように、静かに目を伏せた。
「……これは?」
震える声で尋ねると、少年は静かに言った。
「君が“忘れたかった記憶”だよ。」
胸が苦しい。
目の奥がじんと熱くなる。
私は、何を……
「さあ、どうする?」
少年はそう問いかけた。
「このまま目を逸らす? それとも——思い出す?」
私は、唇を噛んだ。
そして——
手を、伸ばした。