13
「……来て。」
“私”はそう言いながら、赤く光る扉に手をかけた。
ギィィ……という重々しい音を立てて、それはゆっくりと開いていく。
扉の向こうには、広大な大広間が広がっていた。
天井は異様なほど高く、壁には無数の燭台が並び、青白い炎を揺らめかせている。
——けれど、そこには誰の姿もなかった。
不気味なほど静まり返った空間に、私の足音だけが響く。
「ここは……?」
「記憶の間。」
“私”はそう言うと、中央に設置された鏡の前へと歩み寄った。
それは、人の背丈ほどもある大きな鏡だった。縁は黒く歪み、表面はまるで水面のように揺れている。
「見て。」
促されるまま、私は鏡を覗き込む。
すると——
「っ……!」
鏡の中に映っていたのは、幼い私だった。
けれど、それだけじゃない。
幼い“私”は、誰かに手を引かれていた。
顔は見えない。けれど、その手は確かに温かそうで、私をどこかへ導こうとしていた。
「……この人、誰?」
思わず呟くと、鏡の表面が激しく揺れた。
——そして、映像が切り替わる。
そこに映っていたのは、闇に包まれた街だった。
荒廃した建物、空を覆う黒い霧。
そして、その中心には——
「……!」
見覚えのある影が立っていた。
それは、さっきまで私をここへ連れてきた“私”だった。
けれど、鏡の中の“私”は、無数の黒い鎖に縛られ、苦しそうにもがいている。
「……どういうこと?」
私は混乱しながら、“私”を振り返る。
すると、“私”は微笑みながら静かに言った。
「君に選んでほしいんだ。」
「選ぶ……?」
「そう。私は、君の“可能性”だから。」
「……可能性?」
「君がどの道を選ぶのか。それによって、私は変わる。」
——この場所で、私は何かを決めなくてはいけない。
けれど、その“何か”が何なのか、まだ私には分からなかった。