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プロローグ

世界は狂気に満ち溢れている。

学校の授業で生前の歴史を学んだ。

科学は進歩しても、人間の本質は変わらない。

幾度となく起こる戦争。巻き込まれる無関係な人々。

「昔に比べたら今は平和だよ。」

私の祖父が海外で起きたテロのニュースを見ながら言っていた。平和は比較するものではない。今も地球のどこかで、なんの罪もない人達が無慈悲に殺されている。日本は他国に比べたら平和なのかもしれない。私が生まれて26年、一度もテロなどは起きていない。

同じ地球上の国なのに何故、何故こんなにも国によって差が出てしまうのだろう。生まれてくる子供に罪はない。紛争などが起こる地域に生まれた子供、日本で生まれた子供、生まれる環境の選択権は誰一人として持っていない。なんて理不尽な世の中なのだろう。

「レイナちゃん。休憩行ってきて。」

今年で40歳になる上司が眠たそうに休憩から戻ってきた。私は県内で一番大きいショッピングモールのアパレルショップで働いている。

特に理由もなかった。別段オシャレが好きなわけでもなく、実家から近かったのが一番の理由であり、ショッピングモールの求人の中でも、このお店が給料が一番良かった。

休憩室でテレビを見ていると、オカルト番組が始まった。

「みなさんこんにちは。本日は私たち地球の永遠の謎、城の住人について、オカルト評論家の皆様にお越し頂いております!」

私たちが住む地球には一つだけ大きな謎があった。あらゆる説が評論家によって力説されてきたが、未だに何一つ解明されていなかった。

私はふと立ち上がり、窓から空を眺めた。

いつものように、とてつもなく大きなそれは、ハッキリと空に浮かんでいた。


「ですから先ほども申し上げたように、城の住人は今現在も世界のどこかで、私たち地上人の中に紛れているんです!人数は定かではありませんが、あの大きさから予想して、何万人の人々が住んでいると予想されます。」

テレビでは、城の住人が地上にたくさん住んでいる説を見慣れた評論家が唱えていた。

私が生まれる以前から、ヨーロッパ風の作りのそれは、空に浮かんでいた。

私たち人間の目視でのみ確認できる城は、謎しかなかった。未だに何一つ解明されていない。

今現在、地球上で唯一、この街からのみ城は確認できる。

この街で確認できるようになって3年が経つ。今では慣れてしまったが、これは世界的にすごいことだった。日本で確認できるのは歴史上初めてらしかった。

歴史の教科書にも度々記述されているが、記述されるのは、いつの時代の、どの場所で確認できるか。それだけだった。

城が現れた地域では、いつの日か突然城が消えるまでありとあらゆる調査が、国家規模で行われる。

今も上空ではヘリコプターが二基飛んでいる。どうせ何も収穫はないんだろう。

写真にも映らない。鏡にも映らない。ドローンを飛ばしても何も映らないので意味がない。ヘリコプターで近づいても意味がない。本当に謎だが、地上にいる人間のみしか城は確認できなかった。ヘリコプターに乗ったパイロットはインタビューで応えていた。

「確かにヘリに乗るまではあったんです。確実に。ただ、地上から離れると、城は私達の視界から消えていたんです。本当に分からないです。何も。」

パイロットは少し恐怖心もあったのか、怯えた様子でそう応えていた。本当に謎なのだ。

各国の名だたる首脳陣たちも、国家レベルで調査を行なっていた。結果は膨大な国家予算を消費するのみだ。無意味なのだ。

城が現れた地域の住人は、最初は皆恐怖する。

城の住人と評論家は唱えてはいるが、果たしてそれは人の形をしているのか?いきなり地上に降りてきて、地上世界を支配しないのか?

人々は皆過剰な妄想で恐怖する。

しかし時が経てば私と同じように大多数の人間は慣れてしまう。不思議なものだ。

休憩室にはいろんなショップスタッフが出入りする。

ちょうど松下さんも休憩室に入ってきた。

某靴屋さんで先月から彼は働き始めた。私より1つ歳上の26歳で、ショッピングモールで働く女性にとても人気があった。

クールビューティというのがこれほど似合う人はいないと思う。男性でありながら、女性的な美しさも兼ね備えていた。

「お疲れレイナちゃん。」

私が休憩室にいる時は必ず私の目の前の席に彼は座る。私が働くショップの先輩から教えてもらったが、

他の店の女性から妬まれているらしい。気にしない気にしない。

「また特番か。最近多いな〜。」

あくびをしながら彼は言った。

クールビューティと周りからは言われており、私も最初はそう思っていた。しかし彼は周りの女性が思っている印象的とだいぶ違う。意外とお喋りだし気さくだ。

「今日もお母さんの手作り弁当かー。羨ましいよほんと。見てよ俺のを。コンビニのパン3つよ3つ。」

「でもそのパン好きなんですよね?生クリームたっぷりの甘い感じが。」

「そうその通り!」

彼はニコッと笑顔でそう言う。このやりとりも何回もしていた。

彼が親しく話すスタッフは私だけらしい。これも先輩から聞いた。こんなに陽気なのに不思議なもんだ。

何百人といるスタッフの中で、今こうして彼と話しているのが、特に友好的な性格ではない私と言うのは不思議だ。

「レイナちゃんはどう思う?城の住人について。怖い?」

彼の視線はテレビから私へ変わっていた。本当に女性みたいな瞳をしている。吸い込まれると言った表現をしたくなるくらい綺麗だ。

「怖くはないです。怖くはないですけど、やっぱり気にはなります。歴史の教科書にもたくさん記述されているように、数百年も前からお城はあるわけですから。」

今も窓の外には変わらずそれはあった。

「彼らは。彼らはと言っても性別があるのかすら分からないですが。私たちが住む世界のことを見ているのか。見ていたら何を思っているのかなーとは考えたことはあります。」

彼らは少なくとも歴史の教科書には何百年も前から目撃情報が記述されていた。記述されていた。

ただ記述されていただけだった。何も干渉して来ないのだ。どんな戦争が地上で起きていようとも。何一つ干渉してこなかった。そもそも人間世界を知っているのかという疑問はあったが。

「そうだねー。謎だらけだもんね。」

カフェオレを飲みながら窓の外を彼も見ていた。

「じゃあさ。彼らが何を思っているのか。知ってどうする?」

視線が私の方に戻ってきた。気がつくと休憩室室には50名近いスタッフが昼食をとっていた。学校の食堂みたいだ。

「分かりません。分かりませんけど、ただ知りたいんです。どんな人達がどんな風にどんな生活をしているのかとか。私達をしっているのかとか。私の祖父が城について研究していたのもありますが。」

私の祖父は死ぬ直前まで、城についての研究を行っていた。一部の親族からは馬鹿にされていたとお父さんが前に言っていた。考古学者でもあった祖父は、様々な文献を調べに調べ尽くした。ただ、何一つ成果があげれなかったのだ。目視でしか確認ができないそれは。

彼は少し驚いた顔をしていた。

「レイナちゃんのお爺さんが城の研究者だったとは知らなかったよ。お爺さんの話詳しく聞きたいな。」

さらっと言ってしまったが、お爺ちゃんの話を人にするのは初めてだった。そもそも友達がいないので話す人もいないと言うのはあるが。

「また今度ね松下さん。休憩時間もう終わっちゃうから。」

昼休憩は30分の為あっという間に過ぎる。松下さんといる時は不思議と一瞬で30分が過ぎた。

「それは残念だ。またねレイナちゃん。」

出口から出て休憩室の中の松下さんを見ると、彼はお城をじっと眺めていた。

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