1話 1回目の初日
やがて、目が覚める。見たこともない場所だ。それに、何故か、とても幸せな気分だ。
「あら、目が覚めたのね。クロウ」
目の前に、とても優しく微笑む女性がいる。この人が言う、クロウというのは俺のことだろう。
「うー、あー」
何か言おうとしたが、口の動かし方がよく分からない。体も上手く動かない。視線だけ動かすと、プニプニした赤ちゃんの腕がある。俺の意思で動くから、これは俺の腕だろう。
つまり、俺は赤ちゃんに生まれ変わった。
どうやら、本当に異世界転生してしまったようである。
「ウフフ、お腹が空いたのかしら。ちょっと待っててね」
確かに、腹が減った。何か食べたい。
…って、おい。ちょっと待て。赤ちゃんのご飯って、まさか…母乳!?マザーのミルク!?俺は、確かに赤ちゃんだが、心はシックスティーンだ。今さらそんなことをするなんて、絶対無理!恥ずかし過ぎるだろ!やめてくれ!
とか思っていたが、現実は非情である。
俺は一生懸命赤ちゃんを演じたのだった。
完
母親が退室した。
気を取り直して、状況を確認しよう。
まずは俺。名前は「クロウ」と呼ばれた。なかなかいい名前じゃないか。中二病的には。おそらく、生後数ヶ月ぐらい。
そして、俺にミルクをくれた、母親。金髪に、慈愛に満ちた紺色の瞳の美女である。名前は分からない。まあ、そのうち分かるだろう。
父親と兄弟はいるのだろうか。それも、そのうち分かるはず。
今いる場所は、広く清潔な感じの部屋のベッド。寝ごごちがいい。部屋に窓とドアは一つずつある。あとは、テーブルといくつかの椅子がある。
さっきの母親の言葉、普通に分かったが、日本語ではない。おそらく異世界言語。なぜ、俺に分かったんだ?
《 ステータス 》
名前 クロウ・ルナアーク
レベル 1
HP 2/2
MP 2/2
スキル
人生周回 Lv.1
異世界言語 Lv.5
ステータス閲覧 Lv1
うおっ、なんか出た!
俺の脳にRPGのステータスウィンドウのようなものが浮かび上がる。なるほど、レベル制ね。俺が神様からもらったスキル、名前やばくない?てか、ルナアークっていう姓だったんだ。
スキル、【異世界言語】。おそらくこれにより、母親の言葉を理解できたのだろう。
そして、【ステータス閲覧】は、自分の能力を確認するためのものだろう。
推測だが、この2つのスキルは、あの神様のサプライズだと思う。
さて、もう少し情報が欲しいところだが、自分で動けない。どうしよう、何しよう。暇すぎる。ゲームしたい。アニメ見たい。異世界に来たはいいが、早速もう元の世界が恋しい。
そうだ、テンプレ異世界モノだったら、魔法の練習して、MPの最大値を上げるんだっけ。よし、それをやろう。でも、魔法ってどうやって使うんだ?
「うぉおアー!」
ウォーターと言いたかった。赤ちゃん舌じゃ無理か。そもそも、呪文が分からないし、唱える必要があるのかも分からない。別のアプローチで行こう。
俺は右手を宙に突き出し、「魔法出ろ!」と念じた。だが、効果はないようだ。これも違うか。
この辺りで諦めるべきかもしれないが、なにせやることがない。次は瞑想で、魔力を感じる練習をしてみる。目をつぶって、深呼吸。呼吸をするたびに力が湧き出るイメージを続ける。何度も、何分も、何時間も続ける。
そしてしばらくした後。
俺は、ついにーー
寝た。