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「やっほー!またまたのえみんだよ!カウントダウンの始まりだぁ!さん!にぃ!いち!ろっくんろーる!ってちょーっと気が早かったかもー!というわけで到着まであと3分だよお兄ちゃん!つぎはー、しんはこだてー、しんはこだてー、完全無欠の終点でーす!ホームに降りたら中央のおっきな看板の案内に従ってね!長旅ほんとにおつかれさま!もうすぐ会えるね、お兄ちゃん!王国国有鉄道からのお知らせでした!」


 最後の車内放送があったあと、列車は駅に入る手前で一度停止した。窓の外は相変わらず廃墟だらけだったが、前方には駅の付属施設らしい小規模なビル群が見える。汽笛が鳴ると、重たげな車体は再び動き出し、ゆっくりとホームに入っていった。


二人は降車の準備を始めた。移民となると荷物も多くなる。


「あらゆるものを奪われた僕らの、これが最後の財産というわけだね」


 巨大なジュラルミンのスーツケースに手を置いて、ベンセイドが皮肉な笑みを浮かべた。列車のドアはもうとっくに開いていて、荷物室を出てゆくせわしげな人の波に二人も加わる。


 ホームはかなり広かった。ベンセイドの後に続いて列車を降りたハルオは、気温が少し上がっているのを感じる。そして誰もが抱いているであろう期待を口にした。


「もしかしたらドール、いるんじゃないですかね」


 同じ意図かどうかはわからないが、あたりを見回している人間は多い。しかし、いるのは男性駅員ばかりで、ドールがいるらしき様子もうかがえない。


「いないね」


 ベンセイドはあきらめたように首を振って右前方にできていた人だかりの方を指さす。きっとあれがのえみんが車内放送で言っていた「中央のおっきな看板」なのだろうということはすぐわかった。かなり大きな表示が高く掲げられていて、二人のいる場所からでも見出しの文字が読める。


「お持ちの国民電話端末(フェアリーフォン)の色をお確かめください」


 一番目立つ位置にそう書いてあった。スマホを取り出している新国民が多いのはそういうことらしかった。


 だが、問題はその次の文章だった。案内文の表示に近づいたハルオは、意味を理解すると同時に落胆させられることになる。


「緑色の端末の方→左手の入国ゲートへお進みください。


 赤色の端末の方→右手の階段から国内線5番ホームへ移動し、網走行き特急『あかね』にお乗り換えください」


 ハルオの手には緑の国民電話端末(フェアリーフォン)が握られていた。そしてベンセイドのものは間違いなく赤だった。


「残念ですね。一緒に王国の旅ができるかと思ったのに」


ベンセイドはまだ看板を見ている。


「連絡先を交換しませんか?スマホもすぐに使えるようになるだろうし」


 ベンセイドがハルオの言葉に返答をするまでにはいくらか間があった。


「ああ、そうだね」


「名前を知ってれば問題ないですかね。それとも電話番号とか……」


「王国民ネットで本名を検索してくれて大丈夫だよ。ちゃんとまた連絡を取れると思う」


 周囲の人混みが動き出している。みな入国ゲートの方に向かっているらしい。ゲートの付近では駅員が何人か作業をしている様子だ。騒がしくなってきたホームに案内放送が響く。


「間もなく入国ゲートが開放されます。緑の国民電話端末(フェアリーフォン)をお持ちの方は4列でゲートの前にお並びください。繰り返します……」


 ベンセイドが右手を差し出してきていた。


「お別れだね。本日二度目の握手だ」


 差し出されたその手は、一回目の時より冷たくなっているようにハルオには感じられた。


「君がうらやましいよ。たらい回しにされることがあるとは聞いていたけど、僕はこれからまた網走まで座りっぱなしなのか?確かとんでもなく遠いはずだろ」


「地獄ですね」


「新品の尻が必要だよ」


 ハルオは笑いながら、また少女について語り合う日を楽しみにしていると言った。


 階段を登って5番ホームへ向かう人数は、入国ゲートに並んでいる人数よりはるかに少ないようだった。そのせいかはわからないが、ハルオの方を振り返って手を振るベンセイドはどこか不安げに見えた。


「これより入国ゲートを開放します。電源を入れた国民電話端末(フェアリーフォン)をお手元にご用意の上、ゆっくりと前方にお進みください」 


 列がゆっくり動き出していた。国民電話端末(フェアリーフォン)には「入国モード」という表示が出ている。


 親指を画面に置いて、内蔵カメラの方を見ながらゲートを通過しろと駅員が大声を上げている。同じ内容のガイダンスがスマホでも再生されていた。


 入国は拍子抜けするくらい簡単だった。ゲートを抜けた瞬間に画面が切り替わる。


「ようこそ!飛行する少女人形の王国へ!」


 新国民の群れは、後続に追い立てられるように散っていった。皆、何の感慨もないような顔をしている。そしてハルオもまぎれもなく彼らの一員なのだった。

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