第五章――二人のマリア(前編)
私の名前はマリアと言います。
この前プライマリ・スクール(小学校)に入学しました。スクールではまだお友達は全然いなくて少しつまんないです。
私のダディーは海外にお仕事に行くことが多くてあんまり家にいません。マミーは家でいつも一緒だけど少し寂しいです。
ある日、いつもの様にスクールから帰るとマミーが届いた荷物を開けていました。小さなカード・ボードの中から出したのは小さなPCでした。
「おかえり、マリア。今日からこれでスティーブとも会えるわよ?」
そうダディの名を言ってパッケージを開けていくのをワクワクして見ていました。
テーブルの上でマミーが私の前に小さなPCを置きます。
「これはマリアのPCだからね。大事に使うのよ」
そう言ってマミーが取り出したのは、ファンタジーなイラストがプリントされたケース。モンスターやよろい姿の男の人、魔法つかいの女の人が描かれています。
ケースをテーブルの上に置きながら、マミーは言いました。
「懐かしいわね、本当に久しぶり。昔、スティーブとはゲームで知り合ったのよ」
だけど私は目の前にある物に夢中で、マミーの言葉なんて聞いていません。目の前で開かれた、動いていないPCのキーを人差し指でそっと触ります。黒いプラスチックの上に白い文字がプリントされています。かしゃん、こしょんと言う音が鳴って、私はニンマリしました。
そうしているとマミーがやってきて、私に説明を始めます。
「いい? ここがスイッチ。これを押すと電源が入るから」
私がスイッチを押してもいいか聞くと、マミーはにっこりと笑って頷きました。私は初めてのマイPCの電源スイッチを押して見ます。ふぃーん、と言う音が聞こえて、画面に私の名前のついたマークが現れます。
「それを押して、パスワードを入れるのよ?」
マミーの言う通りに操作して、デスクトップ画面が現れました。スクールの授業でやっている時と同じ様にすいすいと画面で矢印マークが動きます。
「それじゃあ、実際にゲームを始めてみましょうか」
そう言ってさっき一緒に出したパッケージを開きました。中にはちっちゃなUSBデバイスが入っていました。取り出してPCにつけると、途端に綺麗な風景や怖いモンスターのムービーが流れ始めます。
すごいすごい!
そうして見ていると、次に|Registration画面が現れました。私はマミーに教えてもらいながら、がんばって空欄を埋めていきます。
そうしてやっと、マイキャラクターの画面です。
マミーに手伝ってもらいながら、私は『もう一人の私』をデザインし始めました。
*
草原を走り回ったり、小屋の中を調べたり。そうやって動かし方の練習が終わります。そして扉を開いて外に出ると――そこにはとっても綺麗な街が広がっていました。
石畳の広場の周囲には花壇があって、綺麗なお花が沢山咲いているのが見えます。人が歩いたり、お話しているのも見えました。
すごい……私は今、家の中。自分のお部屋にいるのに、まるで目だけが外を歩いているみたいです。それにグランマのマギーが暮らしているイリノイ州のガリーナみたい。
だけど、あのすてきな街よりはもうちょっと古い感じかなあ? それでも歩いているだけでワクワクしてきます。
昔みた絵本の童話に出てくるような世界が本当にあるなんて素敵。この世界の中で歩き回るのは、もう一人の私。
本当の私と同じ名前の『Maria』です。
「ああ、マリア。最初の広場から離れない様に、ちょっと待っててね?」
マミーの声が聞こえてきますが、私はそれどころじゃありません。上の空でお返事すると再び画面の中。広場を歩いて見て回りはじめました。
花壇の脇を抜けると、広場の中央には噴水があります。そしてその向こう側――ベンチのそばに、私と同じ位の女の子が見えました。
しゃがんで……何かしてるのかな? 服ももう一人の私ととても似ていて、ちょっぴり色が違うくらい? もしかしたら、私みたいに遊んでる子かも?
私はその子を見ながら、噴水のまわりをぐるっと回っていきました。しゃがんで一体何をしているんでしょうか? 気になります。
近付いてみると……なんと、子猫と遊んでいるじゃありませんか。
あー、可愛いなー。私も子猫、触ってみたいなー。
そんな事を考えながら、気がつくと画面の中でもう一人の私は、その子のすぐ傍に立っていました。
よく見ると女の子は凄く綺麗な蜂蜜みたいな金髪で、私より年下に見えます。肩くらいのソバージュで、ふわふわもこもこ、さらさらしてるみたい。
私は薄い赤毛、ロングストレートで腰くらいまでの長い髪。どちらも似ているエプロンドレスですけど、ちょっぴり色とか違うみたい。両手に銀色の手袋と、左手では小さなトレイが緑色に光ってキラキラしています。
近付いた私の影に気付いたのか、女の子の顔が私の方向に向きました。
あっ、ごあいさつ! ごあいさつしなくちゃ!
スクールではまだ、PCで文字の書き方は習っていません。習うのは二年生からだそうです。私はゆっくり間違えない様に、時間をかけてごあいさつを入力します。
H......E......L,L......O、っと。
文字を書いている最中、画面の中の私の上に吹き出しがちかちかします。
この可愛い白い子猫って、この子が飼っているのかなあ? そんな私の言葉に、女の子は短いけれど、応えてくれました。
「Yes, She is my friend.」
(うん、私のおともだちよ)
そんな言葉の後に『Maria smiled at you.』の黄色いメッセージが流れます。それと同時にしゃがんだまま、私に向かって女の子が笑顔になりました。
わあ、こんな事も出来るんだ!!
……あれ? でも……『Mariaがあなたに笑い掛けました』って?
すると女の子が立ち上がって、私に言いました。
「Hi Maria. My name is also Maria. It the same name.」
(こんにちは、マリア。私もマリアって言うの。おんなじお名前ね)
本当にびっくりです。この子も私と同じ名前で、マリアちゃんと言うそうです。なんだか嬉しくなってきました。
*
……私も、子猫に……触ってみたいなあ……。
蜂蜜色の髪をした女の子が撫でるのを見て、そう思いました。
本当の私は、猫が好きでも近付く事が出来ません。近づいただけで手足や顔が痒くなったり腫れたりしてしまいます。だからうちでは猫を飼いたくても飼えません。
私は赤い髪の毛で、あまり身体が丈夫じゃありません。その所為で、一緒にいたくてもいられないのです。
おひさまに当たってもダメです。気を抜くと、すぐにそばかすが出来てしまいます。ほかにも表に出る時だって、どんなに暑くったって長袖じゃないとお肌が真っ赤に腫れてしまいます。いつも凄く気を使っているのです。
だから前に『それでも飼いたい』と言った時、マミーにすごく怒られました。
いつか大丈夫になるかも知れないから、ってその時マミーは言いました。でも……『いつか』っていつ?
そうきくと、マミーは私の事をぎゅってしました。だから私はもう、わがままは言わない事にしました。
そんな事をお話しすると、蜂蜜色のマリアちゃんはしゃがみました。
「Charles Perrault」
彼女がそう言うと、白い子猫がみゃあと鳴いていっしょに座りました。もしかすると、それがこの子猫ちゃんのお名前なのかも知れません。
「Please sit down and press the up key, select the Stroking.」
(座ってから上キーを押してね。それから『撫でる』を選ぶの)
ええと……しゃがんで、上のキーを押して『撫でる』を選ぶ?
言われた通り子猫の前でしゃがんで、上矢印のキーを押すと選択肢が出てきます。その中に『Stroke < Charles Perrault >』と言うのがありました。
選んでみると……凄い!!
画面の中でもう一人の私が、白い子猫を撫でています。
感動です。撫でていると子猫がお腹を向けて寝転がって、そこを更に撫でます。子猫がとても気持ちよさそうに、みぁう、と鳴きました。
それから私達は色々とお話をしました。
蜂蜜のマリアちゃんも言葉を喋るのはそれ程早くなかったし。それでも私よりは早いんですけれど私が話すのを待っていてくれて、とても楽しくお話しました。
私がひまわりで有名なカンザスのブートヒルミュージアムの近くに住んでいる事とか。グランマのマギーがイリノイ州のガリーナに住んでいて、ここと同じ位素敵な場所だとか。そんな色々な事を、沢山お話しました。
私が喋っているばかりで、蜂蜜ちゃんは静かに聞いている事が殆どだったけれど、とても楽しい時間です。中でも特に素敵だったのは、蜂蜜ちゃんの提案でした。
「Well......Make Friends of Kittens?」
(えっと……子猫のお友達、作ってみる?)
……子猫の友達を……作る!? 私が??
そう言われるまで、私は考えてもいませんでした。だってうちじゃあ飼えないと思っていたし、これからも無理だと思っていたから。
だけど考えてみれば、ゲームの中なら……ここでなら飼っても大丈夫な筈です。ゲームの中でもこんなに可愛いんですから、私も絶対に飼ってみたいです。そんな私の返事に、蜂蜜ちゃんはにっこりと笑顔を見せてくれました。
蜂蜜ちゃんの言う通りに片手に貰った餌を持って、そっと子猫に近付きます。最初は蜂蜜ちゃんも猫をペットにする方法を知らなかったそうです。その時に、実際に目の前で沢山の猫をペットにして見せて貰って、やり方を知ったそうです。
やっぱり素敵な世界には素敵な人がいっぱい居るのかも知れないですね。
私が餌を手に持って近付くと、子猫達はさっと一斉に逃げてしまいます。諦めずに何度もしていると、今度は一匹だけ。ウィズホワイト……ぶちの子だけが逃げずにその場に残ってくれました。
他の子は皆逃げてしまったけど、この子だけは私から逃げずにいてくれました。きっとこの子とならいい家族になれそうな気がします。
――お願い、ご飯を食べて――。
そうお祈りしながらそっと目の前に餌を差し出します。子猫はじっと私の手を見ると……やった、そのまま餌を食べ始めました。
教えて貰った通り、Cキーを押してみると『a Kitten』という名前の文字が子猫の上に現れてそれが白から薄っすらと青く変化していきます。
上キーを押して見ると『Stroke < a Kitten >』と言う文字が出ていました。それを選ぶと、蜂蜜ちゃんにした時の様に、私の手がぶちの子をそっと撫でます。撫でていると今度は名前が薄い緑色から薄い黄色へ変化していきます。
やがて、さっきのCharles Perraultみたいに子猫がお腹を上に向けて寝転がります。
ぱんぱかぱーん!!
そんなファンファーレと一緒に、画面の中央にいきなりウインドウが出てきて驚きました。そこには『Input to Your New Friends Name』(お友達の名前を入れてね)と書いてあるのが読めます。空欄で、文字入力の時に出る縦棒がちかちかと点滅しています。
やったあ!
私は画面の前で思わず両手を上げてしまいました。
そうだ、お名前。お名前を決めて、つけてあげないと。ここは大分前に拾ってきた子猫に付けたかった名前。あの時考えたお名前にしましょう。
どきどきしながらK,A,T,I,Eと間違わない様にいれて、OKスイッチを押します。
…Katie。
それが今日からあなたのお名前よ。
すると、子猫の名前が『a Kitten』から『Katie』に変わりました。こうして私は……生まれて初めて、自分のペットに手を触れる事が出来たのです。
「Congratulations, Maria」
(よかったわね、マリアちゃん)
それを見た蜂蜜ちゃんが、そう言って私に近付いてきます。私は嬉しくて、思わず金髪の彼女の事を『蜂蜜ちゃん』と呼んでしまいました。
「Well......Haney?」
(えっと……ハニー?)
きっと首を傾げているんでしょうね。私は慌てて言い訳をしました。
ごめんなさい。だけどとっても綺麗な蜂蜜色の髪だと思って。初めてみた時から、そう思ってたの。
恥ずかしく思いながら、私がそう言うと……ハニーちゃんは笑います。
「......If so you are "Berry".」
(なら……あなたはベリーちゃんね)
それを聞いて、私達は一緒になって笑いました。
そのままハニィちゃんはCharles Perraultを抱き上げました。
あっ、すごい……そんな風に抱く事も出来るんだ。だけど……うん、大丈夫です。多分私ももう分かるよ。
私はKatieに向かって上キーを押します。その中には今まで無かった『Embrance』と言う文字があるのを見つけました。それを選んでから左右のキーを一緒に押してみます。画面の中で私が、かがみ込んで両手でKatieを抱きかかえました。
まさか、こんな風に子猫に触れて、飼う事が出来るだなんて思わなかった……嬉しい……すごく、嬉しい……。
本当の私じゃないけれど、それでもとっても嬉しい。嬉しいのに……私の目からは何故か涙が出てきました。
もっとこの素敵な世界を見てみたいと、思いました。
*
次の日。私はスクールが終わると、急いで家に帰ってきました。おやつもほったらかしで、すぐにマイルームの机にあるPCを開きます。そうしてあの世界へ入りました。
もちろん、ハニーちゃんと会ったあの広場へ行く為です。
結局、昨日マミーはあの後、二時間も過ぎてから広場にやってきました。
マミーはいつもお出かけする時、その前のメイクにすごーく時間がかかります。ですからやっぱり、昨日もすごーく時間がかかりました。
昨日、あれからハニーちゃんとお話していると、マミーがドリンクを持ってきました。いつも飲んでいるビタミンのお薬も一緒にです。
「ごめんね、マリア。もうちょっとでメイキング終わるから。これを飲んで待ってて……って、マリア? どうして泣いているの!?」
マミーはあわてて私の頬を両手ではさみます。親指で、目元を優しく拭ってくれました。もしかしたら目が真っ赤になっていたのかも知れません。その時そう思いました。
私はマミーにゲームでお友達が出来た事。そのお友達が子猫をペットにするやり方を教えてくれた事。どうしてか分からないけど、嬉しい筈なのに涙が出てしまった事。その理由がよく分からない事。そして最後に、ゲームで子猫を飼ってもいいかを尋ねてみました。
……もし、駄目って言われたら、どうしよう。
そう思っているとマミーは何も言わず、あの時みたいに私をぎゅってしました。マミーの事を呼んでみても、何も答えてくれません。それからしばらくして、マミーは私をぎゅっとしたまま尋ねてきました。
「……マリア? 何ていう子猫ちゃんなの? お名前は?」
私はKatieの名前や、ウィズホワイトの可愛い姿を話しました。他にも撫でるとみゃう、と鳴いて甘える事や画面の中の私が抱いた事も話しました。
ええと、他には……ええと。
もっとKatieのいいところを言わないと駄目なのに、出てきません。私は駄目な子なので、それ以上何も言えなくなってしまいました。でも私が黙っているとマミーは私を離してにっこりとしました。
「ちゃんと可愛がって面倒を見るのよ? 餌も自分であげなきゃ駄目よ?」
そんなマミーの一言で、私はハッピーな気分になりました。
*
広場にやってきても、まだ時間が早いからでしょうか? 人が全然いません。
昨日、マミーが教えてくれたフレンドリストを出してみます。そこには私と同じお名前が一人だけ、表示されています。
名前のすぐ横にはメモをつける事が出来ます。そこには私が書いた『Honey』という文字が表示されています。お名前はOfflineとなっていて、グレーの色でした。どうやらハニーちゃんはまだ、来ていないみたいです。
それでもぜんぜん大丈夫。だって、今の私には家族になったKatieがいます。今までみたいに、スクールみたいにひとりぼっちじゃありません。
これからはずっとKatieと遊んだり、撫でたり、餌をやったり。色んな事を一緒にします。
このゲームは本当に凄いです。ゲームなのに、Katieは本当に生きているみたい。まるで本当の猫みたいに見えます。
立って名前を呼んだり。座って名前を呼んだり。歩きながら名前を呼んだり。画面の中の私が何かを手にもっていたりしても、いつも違う事をします。
機嫌がいい時や悪い時もあって、まるで本当に生きているみたい。それでも名前を呼ぶと私に付いて来てくれて、近寄ってきたりもします。
Xキーでしゃがんで、もう一度押して地面に座ると傍で一緒に座ります。座らなくても名前を呼べば近寄ってきて、一緒に座ってくれます。画面の私の膝の上にぴょんと乗ってきて、そのまま眠る事もあります。眠ってしまったら、私が抱っこして歩けば安心した様に眠ったままです。
お友達と言うより、まるでベイビーです。ちっちゃな妹が出来たみたい。
ここは本当にすてきなところです。この世界には朝から夜まであって、お天気も変わっていきます。花壇のお花も色々な種類があって、季節によって違うお花が咲くそうです。
ここ以外にも色んな街があるそうです。歩いたり、お船に乗ったりして行けるんだって。そう言えば、マミーがいつか家が欲しいって言ってました。と言う事はきっと、お家もあるんでしょうね。
こんなすてきなところに本当に住めたら、きっと楽しいだろうなあ。
*
Katieと二人で一緒に遊んでいる時でした。
チリンチリン♪
そんなベルの音が突然なりました。慌ててフレンドリストを見てみると、ハニーちゃんのお名前が白くなっています。
お名前の横には『Invite』というボタンが表示されています。これはお友達と一緒のチームになる事が出来るそうです。一緒にお話したり、遊んだり出来るんだって。あまり遠いところだと、ボタンが表示されないってマミーが言ってました。
と言うことは……すぐ近くですね。私はそのボタンを押してみました。すると、画面の脇にハニーちゃんの名前と赤、青、黄色のラインが表示されます。
『Hi Berry. Please wait a little, I will head immediately to there.』
(こんにちはベリー。ちょっと待っててね。すぐにそっちに行くから)
そんなメッセージがすぐに届きました。すぐにいくからちょっと待ってて、って何かしてるのかな? だけどこうしてすぐお話出来るのってとっても便利ですね。
Katieと一緒に広場で遊んで待っていると人の姿が増えてきます。走り回ったり、どこかへ出かけていたり、待ち合わせしたり。きっと皆、学校やお仕事がおわって、お家に帰ってきたんでしょうね。こんな素敵な世界なんですから、きっと皆も大好きなんでしょう。
中には鎧をきた勇ましそうな人達もいて、集まってお話をしているのが見えます。まるでシアターで見る様な、そんなファンタジックな格好です。腰や背中に剣をつけていたり、弓を背中に背負っていたり。
そしてそんな人達の間を小さな男の子が走り回って、話し掛けているのが見えます。時々相手を叩いて逃げたり。男の子はどこでも喧嘩とか、乱暴な事が大好きみたいですね。
――ハニーちゃんが来るまで、ここで座って待っていよう――。
そう思って、広場にある樹の影で座っていた時でした。
「hey, Duel?」
(なあ、勝負しようぜ?)
気が付くと、私のすぐ目の前にさっきの男の子が立っていました。
……え、勝負?
そんな事を言われても、私には訳が判りません。どうしようかと困っていると、ハニーちゃんからメッセージが届きました。
「Do you have to Yesterday`s Square now?」
(今、昨日の広場にいるの?)
そうです、私が今いるのは昨日の広場です。私は急いで『Yes』と答えようとしました。
私は文字を書こうとしていて、けれどキーを押す瞬間。一瞬だけウインドウが現れたのです。
ちょうど、私が最初の『Y』のキーを押したところで何か書いてあったみたいですけれど、それが読めない内に消えてしまいました。
……今のって、一体何だったんでしょうか?
訳が分からず私が迷っていると、突然私の周囲に光る輪が現れるのが見えました。首を左右に向けてみると、大体五ヤード(約4.5m)位離れた処に輪っかが見えます。
……綺麗だけど……何かなあ?
そう思って眺めていると、不意に隣で眠っていた筈のKatieの鳴き声が聞こえました。鳴き声……いいえ。『ぐうう』と言う、唸り声です。見てみると、まるで地面に伏せるみたいに低い姿勢です。尻尾が少しだけ膨らんでいる様にも見えます。
じっと目を開いてまばたきもせず、Katieは男の子の方を見ています。
『Well......Berry? What is up?』
(ええと……ベリー? どうしたの?)
これって……多分、ケイティは何か怒ってる、んだよね?
不安になって、ハニーちゃんに聞いてみようと思った時でした。男の子が突然、両手にナイフを出したのです。
後になってから、マミーが私に教えてくれました。
これは、相手の男の子が私に『勝負』の申し込みをしてきた所為でした。私は知らずにYesと、勝負する事に賛成してしまっていたのです。
慌てていた私は、チャットの文字を入れる時にエンターを押すのを忘れていたのです。ハニーちゃんへのお返事で『Yes』と書こうとして。丁度そのタイミングで、表示された申込みのウインドウにオッケーを出してしまっていたのでした。
この事があってからマミーが『勝負』を申し込まれない様にしてくれました。だけどその時、私はそんな事は全然分かっていません。
ただ、どうすればいいのか分からずに画面の前で……私の頭もフリーズしていました。