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第二章――ゲームブログの執筆者


 最近、私がやっているブログのアクセス数が異様に増えている。今までは一日に五〇アクセスあるかどうかと言う位だったのにそれが二週間程前からいきなり増え始めた。

 そして今日、とうとう一日でのアクセス数が二五〇〇を突破してしまった。

 カウンターを付けて数字の増え方に喜々とする毎日。流石にそれが本当かどうか気になって三日前からアクセス解析サービスと言うのに登録している。それで今日見てみるとなんと、海外からのアクセスだけで一日に一五〇〇もアクセスがあって驚く事になった。


 ブログの内容はいわゆるネットゲーム日記と言われる物で、特に大した事は何も書いていない。ゲーム内でのファッションとか衣装の組み合わせなんかを書いているだけの何処にでもよくある感じの内容だ。

 今日は誰とこういう場所に行きました、とか。こういう衣装が手に入って嬉しい、とか。その程度で本当に何も変わった事は書いていない。正直に言うと書いている私自身が面白いと思っていないのにどうしてこんなにアクセスが増えているのか全然分からなかった。


 勿論誰かを責めるみたいな事も書いていない。というかそれは絶対に書かない事にしている。実際思う事があったとしても書かない。そんなイメージダウンを招く様な事を自分から書くなんて絶対にしないし言葉にもしなかった。

 多少お色気ネタで書く事もあるけれど際どい事は一切やっていない。清純過ぎて手堅いのも駄目だし、逆にエロエロに成りすぎると変な人に絡まれ始めるからご法度だ。

 程良く適当に、程良く軽く――それがネットで出来るゲームでちやほやされる秘訣だと気付いたのは始めてからすぐの事だった。



「Mariaちゃん、凄いねー。Blog見たけどアクセスが半端無い感じだねw」

 ある日ゲームにログインしたら、クランメンバーから真っ先にそんな風に言われた。

 クランというのは他のゲームで言うギルド、みたいな集団組織の事だ。確かメンバーの誰かが『ギルドは職能組合でクランは血族や部族の事』とか言っていた気がする。

 私が所属しているのは『白猫†騎士団』と言う名前のクランだ。プレイを始めてから知り合った六人で始めた。

 今はアクティブユーザーだけで二〇人以上が所属している中規模なクランで、最初結成した時は私がリーダーに、と言う話もあった。だけどそれは断ってサブリーダーと言う事になっている。

 だっていわゆる『華』はトップに立って人をまとめるなんて絶対にしないもの。


 私がネットゲームを始めたきっかけはネットゲームが題材のアニメを見たからだ。ネットゲームのヒロインは大抵組織に所属してもリーダーにはならない。古臭い気もするけどきっと、一歩下がっている方が女の子らしくて可愛いと映るからだろう。本当に男って馬鹿だと思う。

 それにトップになると逆に他所との関係とか絡みがある所為で責任だけでなく厄介な役目も背負う事になる。そんなのはまっぴらだし何より私は管理者みたいな事はしたくなかった。権限はあるけど責任は背負わない。例えるなら生徒会副会長みたいな感じだ。会長の傍で相槌を打つだけが私のお仕事。それはすこぶる気分の良い事だった。


 丁度そんなクランが出来る少し前から私はブログを始めた。白とピンクを基調にしたレース柄のペーパーコースターっぽいワンポイント柄のついた如何にも可愛らしいデザインの物だ。

 本当ならツイッターみたいなサービスを利用した方が良いんだろうけど炎上し易いと聞いているし、下手な事を書いてしまうとやっぱりイメージダウンになるからしない。

 がっつり本気でやるんじゃなくてのんびり適当にやっているからリアルタイムでやる必要は無い。何より呟いたりすると手慣れている感じもするし、初々しい印象も出せるからこれくらいの方が良い気もする。


 そしてキャラの名前も流石にアニメとか漫画のキャラの名前は特徴的過ぎるから駄目。それに余りにも直接的過ぎて痛々しいから敢えて避けた。かと言って自分の本名に近い物にするのも嫌だったから如何にもファンタジーに出てきそうな西洋風の名前が良いと思って『まりあ』にした。

 だけどまだ、ひらがなとかちょっと小聡明(あざと)い感じがするから意識してローマ字、英語名にしてみた。

 今にして思えば学校の花壇にあるマリア像とか、そういう清純っぽいイメージもあるから良かった――そんな事を考えながら小柄なキャラに名付けた事を憶えている。


 最近急にブログのカウンターが回り始めた事や、ちょっと怖いから何処から見に来てるのかを調べたいからとリーダーに相談してつけたと言うとメンバーはうんうんと相槌を打ってくる。

「――まあ、何処から見に来てるかとか分からないのってかなり怖いもんなー」

「いやいや、けどマリアちゃんの魅力に気付いた奴らが今になって殺到しただけじゃないの?」

 私が笑いながら軽く否定すると、しばらく黙って聞いていたリーダーが口を開いた。

「取り敢えず……どのページにアクセスが多いかチェックしてみた方がいいね」

 それで私は素直に頷いてみせた。


 このリーダーはメンバーの中でも特に色々詳しい人で、分からない事はしっかり教えてくれる頼れる人だ。元々ゲーム初心者だった私にも丁寧に教えてくれてあちこちに冒険に連れて行ってくれたりもする。私の相談役で他の人も知らない専門的な事も知っていて、ブログでのアクセス解析だって実はリーダーが教えてくれた物を使っている。

 そして早速私はリーダーにどうすればどのページが一番注目されているのか調べる方法を教わった。



 ブログの登録にはメールアドレスが要る。携帯電話のメールアドレスを使うのは流石に嫌だったからフリーのメールサービスに登録した。ブログもアクセス解析も同じメールを使っているし勿論ゲーム登録も全部同じメールだ。


 リーダーが教えてくれた通り、設定の変更をしてからふとメールのチェックをする。ゲームの登録に使っているアドレスだから当然ゲーム会社からのイベント通知とかメンテナンス情報、特典なんかも送られてくる事がある。

 だけどそのメール画面を開いて私は驚いた。五〇件以上もメールが届いている。今までだと考えられない量のメールだ。もしかして広告やダイレクトメールが届いたんじゃないかと思って最初はげっそりとした。

 だけど良く見てみるとアクセス解析なんかのサービス関係は四件くらいしか無い。それで不審に思いながら確認してみるとそのどれもが『相互リンク依頼』と言うタイトルがびっしりと並んでいた。

 届いたメールの殆どが相互リンク依頼のメールだったのだ。中には今までに何度か見た憶えのある有名なブログの名前まで並んでいる。流石に私も舞い上がってしまった。


――これはもしかして、私も有名ブロガーの仲間入り?

 そう考えるともう何もかもがバラ色に見えてくる。アフィリエイトとかの広告をつければそれだけでお金だってかなり稼げるに違いない。だって相互リンクの依頼を出してきたブログやホームページの殆どがやっている事だ。


 思わずクッションを抱きかかえてベッドの上に飛び込んだ。そのまま身悶えしながら笑いが止まらない。

「――姉ちゃん、うるせえ!」

 そんな弟の怒鳴り声と一緒に壁を叩く音が聞こえてきて一瞬黙り込む。受験前で弟はちょっと過剰反応気味で、いつもなら大喧嘩になる処だ。

 だけど今なら私は誰に対しても優しくなれそうだ。

 機嫌良く紅茶とケーキを準備して持っていってやったら弟は不気味な物を見る様な目で私を見た。だけど私は怒らない。いつもなら絶対に言わないのに受験を頑張る様に励ましてから自分の部屋に戻ると私は再びパソコンの画面を見た。


 誰もが今、私に注目している。ブログのアクセスだって一日に四〇〇〇を越える様になってきた。毎日がもう楽しくて堪らない。ネットゲームなんて興味もなかったけれどやってみて良かった――そんな風にこの時考えていた。


 これが最初の幸せだった。



『――Mariaちゃんはもう知ってるかな?』

 いつもの様にログインすると、リーダーが話し掛けて来た。珍しくクランチャットじゃなくてウィスパー……一対一のチャットでだ。

 どうやらリーダーは私がログインするのを待っていたみたいだ。何の事か分からず尋ねる私にリーダーが答えた。


「前に教えて貰ったページのリファラ……ああ、どこから来たのかって調べる奴ね。教えて貰った処を調べたら海外のネットゲームのフォーラム、掲示板からだったんだ。調べてみるとやっぱり、防御に付いて書いた記事のアクセスが一番多いみたいだ。多分、これで確定だと思う。海外の掲示板にね。『Maria』って言うキャラの事が書いてあったんだよ。勿論全部英語なんだけどね」


 海外の掲示場で……私の名前(●●●●)が!?

 私は海外のゲームなんてしていないし……まさか海外で私の事が噂になってる!?

 そんな少し驚いた私の言葉にリーダーは苦笑した。

「その掲示板で『アイアンメイデンのマリア』ってキャラがちょっとした噂になってるみたいなんだよ。日本語にすると『鋼鉄の乙女マリア』って感じかな? ただ、それが何処の誰かと言うのが全く分かってないらしい。それで調べてみるとどうやら日本人らしいって事だった。『これがそうじゃないか』ってMariaちゃんのブログのURL、ページのアドレスが書き込まれていたんだよ」


 詳しく話を聞いてみると、どう聞いても私の事じゃなかった。

 鋼鉄の乙女、と言うのは『防御特化で、絶対に倒れない少女』と言う意味が付いている様だ。猫をペットに連れているというのは私も同じだ。戦闘で使えない白猫のマスコットペットを普段から連れまわしている。

 これは私の所属するクラン名がそうなった由来でもある。使っているアバターが少女と言うのも一致している。

 ただ、私は召喚術で動物を呼び出して戦うサモナーと言うクラスだ。シールドは一応装備はしているけれど使う事なんて殆どない。自分自身が戦う事自体余りないからだ。

 それでもブログに乗せているスクリーンショットではクラスなんて分かりにくい。小さな少女アバターでシールドを装備していて子猫を連れている。それも名前がMaria、と一致する条件が多すぎて勘違いされたのだ。


 リーダーは『違う事を記事に書いた方がいい』と言ったけれど、私はそうしなかった。

 ここまで注目されて、自分から違うだなんて流石に言う事なんて出来ない。相互リンクの依頼だって既に受けてしまっていて掲載までもう終わっている。今更『実は違いました』だなんて自分から書ける筈が無いじゃない。

 それに……噂になっている『Maria』はその正体が誰だか分かっていない。なら私が『本物のMaria』になれば、嘘を付いている事にはならない筈だ。

 こうやって話題になっても本人が出てこないと言う事は単なる噂かも知れない。私が自分から言い出した訳でも無い。なら私がその本物になったって誰も困らない筈だ。


 私はリーダーに盾を使う防御について習う事になった。

 リーダーは今の構成からの変更について難色を示したけれど、それでも私の考えが変わらない事が分かると諦めて教えてくれると言う事になった。

 今のサモナーのままだと盾を持っている意味が単なる防御アップと言う意味しか無い。だから、本気でやるならクラス変更をする必要がある事を告げられた。

 だけどそれでも構わない。私が本物の『Maria』になれるのならなんだってやる。私が『本物』になる為なら私はその為に努力を惜しむつもりは無かった。



 クラス変更をして、私はいわゆる『タンク』と呼ばれる職業になった。それまでのペット召喚で闘うのとは全然違って凄く難しかった。こんな事を皆やっていたのかと気軽に考えていた事を思い知らされた。


 とにかく実際やってみるとものすごく難しくて大変な事だった。やることが本当に多くて、それだけで頭がついていってくれない。

 防御役、『タンク』と言うのは誰よりも最前線に立つ必要があった。今までみたいに皆が私を守ってくれるだなんて事は全く無い。逆に私が皆を守る立場になった。

 それに状況判断をして指示を出す役目もその一つだ。唯一回復役――ヒーラーの回復を最優先で受けられると言うだけだ。難しくはあるけれど、だけど今までみたいに戦闘で退屈だと思う暇なんて無かった。


 戦闘で最前線に立つと言う事は誰よりも道に詳しくなくちゃならない。先頭に立って後ろに続くメンバーを引っ張っていかなきゃ駄目だからだ。

 今までみたいに誰かに付いて行けばいい、だなんて全く通用しない。道を覚えるだけじゃあ足りないからモンスターの配置も憶えないと駄目だ。

 先頭で誘導すると言う事は、失敗するとパーティが全滅する事だってある。その責任は誰よりも重大で、それこそパーティの要だと言ってもいい。


 元々は『本物のMaria』になると言う事が目的だった筈がタンクをするのが楽しく感じる様になっていった。

 今までみたいに守って貰うだけの遊び方じゃ分からなかった事を知る事が出来た。こうしてみて私は本当に遊んで居なかったんだと言う事を思い知った。

 メンバーも私をちやほやする感じから次第に頼られる様に変わっていった。『可愛いから』と言う理由だけで呼ばれるみたいな、そんな事が一切無くなった。

 代わりに本当に必要だから来て欲しいと名指しで呼ばれる事も増えて行った。

 これが私にとっての『二つ目の幸せ』だった。


 もしかすると、本物の『鋼鉄の乙女マリア』もそんな事を感じていたのかも知れない。飾りじゃなくて誰かに本当に必要とされる事の嬉しさや楽しさ。それは女だからと言って持て囃される飾りとは明らかに違う。性別を超えて、自分と言う人間が必要とされている事を実感出来る。


 だからいつしか私は『本物の鋼鉄の乙女マリア』に感謝していた。こんな楽しさがあるだなんて『本物』を目指さなければ気付く事が出来なかった。

 私が欲しかった『本物のMaria』って一体何だったんだろう? それでもこうやって楽しい時間を送る事が出来て私は満足だった。


 そう、あの時までは。



 ある時を境に、私は余り冒険に誘われなくなった。

 それでも私は一人でも冒険を続ける。

 もしかしたら呼ばれた時に、先頭を走らなきゃいけないかも知れない。防御役はそんな知識の積み重ねが大事だ、と言う事を身をもって味わっていたからだ。

 そんな行き先のダンジョンで、私は見知らぬ人達に声を掛けられた。

「もしかして、あの(●●)、噂のMariaさんですか?」


 だけど『噂』と言うのが私には何の事を言っているのか分からない。そう言えば……私は最初、『鋼鉄の乙女』になりたくてやっていたんだっけ。そんな事この頃はとっくに忘れてしまっていた。

 流石にそんな当初の目的を人に言うのは恥ずかしくて仕方ない。だから噂が何の事を指して言ってるのか全然分からないと答える事にした。

 その旨を伝えると、相手の聖騎士のアバターは一緒にいるメンバーと笑いあう。

「まあ、噂なんて気にせず頑張ってくださいね、それじゃあ」

 そう言うと彼らは立ち去っていった。


 その態度が気になった私はクランチャットで声を掛けてみた。私についての噂がどうとか、知らない人に言われたけれど誰か知らないかどうか、とか。

 それでそれまで普通に会話していたクランチャットが一斉に静かに変わる。

 違和感を感じ始めた時、古株の一人がURLのアドレスをチャットに貼り付けた。

「……マリアさん、気を悪くしないで下さいね。ただ、こういう暴言を言う人もいるっていうだけで。有名になってしまうと絶対に出ちゃう話題なので……」

 私はそのまま別ウインドウを開いてURLを開いてみた。そこは匿名掲示板らしい処だった。


『白猫†騎士団のMariaはアイアン・メイデンの偽物だよ。なんせ、本物の噂を聞いてからわざわざクラス変更してまで本物を騙ろうとした奴だからな』

 ……そんな書き込みを見て私の頭は真っ白になった。


 その後の書き込みも本当に酷い物が並んでいた。

『白猫†騎士団』の名前は私がゴリ押しして付けられたクラン名だとか。実質影のボスは姫プレイヤーのMariaだとか。そしてそんな書き込みには必ず、

『どうせ偽物だと思った』

『偽物乙』

 ……そんな酷い返事で溢れかえっている。


 中でも『偽マリアの正体』と書かれたリンク先には私自身の写真があった。確かブログで当初挨拶記事で掲載した目元を隠した写真だ。それを見た時、今度は目の前が真っ暗になった。


 そう言えば……最近リーダーは殆どログインしてきていない。元々のメンバーも六人中、あと二人程しかログインしなくなった。

 考えてみれば……あの写真を消した方がいいと私に忠告したのはリーダーだ。それに噂を聞いてクラス変更をしたと言う下りを知っているのもリーダーだけの筈だ。それ以外の他の誰にも話していない。


 ……ううん、違う。

 私がクラスを変えて防御役になったのは同じクランのメンバーなら誰でも知っている。写真だって最初に閲覧した人なら誰が持っていてもおかしくない。


 駄目だ、何を考えていいのか……もうわかんない……。


 私はゲームのウインドウをメインにした。クランチャットの中ではメンバーが再び雑談をしている。そんな中で、私についての話題が上がったのが見えた。

「そう言えばMariaさんってどんな人なんですか?」

 それに対して古株の一人が答えるのが続く。

「元々は初心者でこのゲームがネットゲーム初の子だよ。最初はウブな感じで可愛らしい感じだったんだけど、途中でタンクに目覚めちゃってね。それからはうちのクランの中でも、いや多分このゲームの中でも結構な上級プレイヤーだね。もう俺らはとっくに追い抜かれちゃって、今じゃかなりの凄腕でうちの顔だね(笑)」

 そんな言葉に『へえ、それは凄いですね』と言う生返事が返って来る。


 ……ああ、もう駄目……もう耐えられない!!


 そう思った私はサブリーダーの権限を全てその古株の一人に譲渡するコマンドを入力した。クランチャットで『今まで有難う』とだけ伝えてそのままクランを抜けた。

 ゲームを終了させて、力無く机から離れると私はベッドに倒れ込んだ。



――私は、『鋼鉄の乙女』が大嫌いだ。

 ……ううん、違う。本物に成り代わろうとして変な色気を出したのは私だ。本物の『鋼鉄の乙女』は誰かすら分からないし何もしていない。

 それに……私が楽しい思いをする事が出来たのは『鋼鉄の乙女』のお陰だった。でもそんな楽しさを砕いたのも、結局は『鋼鉄の乙女』だ。幸せも不幸も何もかも切っ掛けは彼女かも知れない。

 でも……それをしたのは、選んだのは全部『私自身』、だった。


 ブログのアクセス数も最近は二千辺りまで下がってきている。相互リンクも黙って解除されていたりリンク終了の連絡が届いている。そして私の写真はあんな風にネットで流れてしまっている。

 きっとプレイする限り、私は私自身としてプレイしても『偽物』と言われ続ける。そんなのは絶対にまっぴらだ。

 もう何もかも辞めた方がいい――そんな風に思った。


 ネットゲームの本当の楽しさを私はやっと知る事が出来たけれど……私自身のバカさ加減の所為でそれも自分から台無しにしてしまった。

 自業自得だ……本当のバカだ、私……。


 そしてそれから、私は高校生活の内でネットゲームをする事は無かった。ブログも登録を解除してそのまま消してしまった。登録に使ったメールアドレスも全部削除した。

 それ以来、ネットも殆どやらなくなった。そのまま高校を卒業するまで、私は普通の女子高生に戻った。

 その後、大学生になってから楽しさを忘れられず再び参加する事になる。けれどもう誰かの真似をしようとは思う事は無かった。だけどそれはまた……別の話だ。


 元々、私はネットゲームに興味があった訳じゃない。アニメのヒロインみたいにちやほやされたり注目して貰えるのが楽しかった。それでも可愛さやそう言う物は実は全く意味が無いと言う事を思い知った。

 本当に必要とされるから楽しいのであって飾りとして求められても全然楽しくない。それを私は知ってしまった。

 もう……そんな形でチヤホヤされるのが我慢できなくなってしまった。


 本物の『鋼鉄の乙女』は、『Maria』はどういうプレイヤーだったんだろう――最近になってそんな事を考える事がある。あれだけ噂になって、それでも姿を現さなかった人。本物はそういう人だ。

 きっと、本当にゲームが好きで、普通に遊んでいただけの人に違いない。自分の事を言われているだなんてきっと気付いてすら居ないに違いない。もしかしたらそう言う人だからこそ『本物』だったのかも知れない。


 私もいつかは……『本物』に、なりたいな。


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