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春空の下で  作者: ヒマワリ
一学期
9/26

第八話

 結局、どこに行くかは決まることなく日曜日を迎えた。集合する時間と場所は決まったが、無計画というのは怖い。太川くん曰く行き当たりばったりもいい経験ということなのだが、直前になっても予定を考えられなかった言い訳にしか聞こえない。

 集合する場所には、色んな店や施設が並んでいた。おそらくここで遊ぶことになると思うが、どういう店に入るのかが未定なのが不安要素だ。

「早いね、空」

「中村くんも早いね。まだ時間あるのに」

「部活やってると自然にそうなっちゃうんだよ」

 まだ集まるには早い時間なのに、もう中村くんは集合場所で待っていた。何も話すことがないので、嫌でも周りの声や音が聞こえてくる。何か話さなくちゃいけないと思いつつも、話題が何も思いつかない。こんなとき茜さんだったら、いくつも話題を提供できるんだろうな。

「そういえば七海の家に行ったんだよな。水希には会った?」

「会ったよ」

 七海さんの家の話題になった。中村くんは何回か行ったことあるんだろうけど、その度にあの状況を目の当たりにしてたんだろうか。

「兄弟とか姉妹とか居るの羨ましい」

 中村くんが独り言のように呟いた。結構責任感が強そうな感じがするから、てっきり弟か妹がいるものだと思っていた。

「まぁ、茜みたいなやつが家族だったら、騒がしいから相手にするの疲れそうだけどな」

「私みたいなのがなんだって?」

 中村くんの背後から険しい表情をした茜さんが話に割り込んできた。そういうことをするのは心臓に悪いからやめてほしい。

「水希くんとかそーちゃんみたいな可愛い子だったら大歓迎だけど、あんたみたいなやつなんか、いくらお金もらってもお断りよ」

「お前みたいなのが姉だったら、着せ替え人形みたいにさせられる弟や妹が可哀想だ」

「何言ってんの。可愛い子には可愛い服を着させるのが義務ってものでしょ」

「いつそんな義務が決められたんだよ」

「私の中で決めた義務よ」

「はあ?」

「私の考えが理解できないなんて可哀想な人」

「お前の考えなんて理解できない方が普通だし、理解したいとも思わない」

「これだから凡人は面倒なのよね」

「それなら、お前は凡人以下だな」

「今、学力の話してないから。論点ずらさないくれる」

「その自覚はあるんだな」

「言っとくけど、総合的にはあんたよりはマシだから」

 互いに指を差し合ったり、前のめりになりながら子供みたいな口喧嘩が始まった。よくこんな人通りの多いところで出来るなと思いつつ、どうやって喧嘩を止めようか考えていたところで、七海さんが来た。

「なんでこんなことになってるの」

 僕は今まで起こったことを話すと、七海さんは茜さんたちの様子を見ながら、僕に話しかけてきた。

「多分止めようとしても無駄だから、このまま見守っておこうか」

 そんな無責任なと一瞬思ったが、変に間に入るよりはいいかもしれない。事態がややこしくなることは一番避けたいから、何もしないのが得策と考えた結果だろう。

「喧嘩するほど仲が良いってね。もしかして二人で付き合ってるの?」

「「付き合ってない!」」

 一番最後にやってきた太川くんの冷やかしのおかげで口喧嘩は終わった。それにしても息ぴったりで返事したあたり、相性は悪くないと僕は思う。

 最初は二人のクールダウンも兼ねて、昼食をとることとなった。でも、店を探してる最中に二人はさっきまで言い争いしていたとは思えないほど、普通に会話をしていた。こんなに早く仲直りできるんだったら、最初から口喧嘩なんてしなければいいのに。

「ここでお昼ご飯食べよっか」

 太川くんがファミレスの中に入っていき、それに続くように僕たちも店の中へ入っていった。

 中には若い人たちや家族連ればかりだ。こんな人の多いところで食事をするなんて久しぶりなので、少し緊張してしまう。

 メニューを見て、ハンバーグやピザなど美味しそうなものが、たくさん載っていて目移りしてしまうが、自分のお腹の中に入る量を考えると、一番少なそうなフライドポテトにした方がいいだろう。

「みんな注文決まったら、僕に言って」

 各々が自分の注文を太川くんに言っていく中で、僕だけ聞き返された。

「これだけでいいの?」

「うん。私少食だから」

 人前ではいつも通り私と言うようにしてるが、この人たちは僕の一人称が僕ということは知っている。だけど、癖になって知らない人の前で変に思われないように、なるべく人前では出さないようにしている。

 調理が簡単なのか、僕が注文したものが一番最初にテーブルの上へ置かれた。冷めてしまう前に食べてしまいたいが、僕だけ先に食べるのは気が引ける。それに、僕が一番食べ終えるのが早くなってしまうだろうから、必然的に待ってしまう形になる。逆に僕が待っていたら、せっかくのポテトが冷めてしまうし、なにより周りに気を遣わせてしまう。どちらにしろ気を遣わせてしまうので、おそるおそるポテトに手を伸ばして、一本取って食べた。できるだけ自然にゆっくりと食べて、待つ時間をなるべく減らす作戦でいこう。

「そんな私たちに気を遣わなくていいよ」

 ゆっくり食べることに気をとられすぎて、不自然なくらいポテトを噛むスピードが遅くなってしまい、七海さんに気を遣わせてしまった。僕はいつも通りのスピードで食べ始めると、料理が次々と出てきて、半分くらい食べ終わったころに、注文したものは全部出てきた。

 僕が全部食べ終わる頃には、中村くんと茜さんはすでに食べ終わっていた。僕ってどんだけ食べるの遅いんだろうと思ったが、先に食べ終えてしまうのではないかという心配は杞憂だったみたいだ。

「そういえば、ゴールデンウィークに陸上大会があって、その応援に一緒にくる?」

 皆が行くなら、僕も一緒に行きたい。スポーツの大会はテレビの中でしか見たことないので、プロではないにしろ、一回生で会場の雰囲気を体感してみたい。

「それって女子も出るの?」

「男子も女子も同じ会場だよ」

「それなら応援に行こうかな」

 やっぱり可愛い子目当てで行くのか。楽しみ方は人それぞれだとしても、そんな不純な動機でスポーツを観戦していいものなのか。賑やかな人がいるほうが盛り上がりそうだから別にいいけど。

「じゃあ、僕も行くよ」

「私も行こうかな」

 満場一致で大会の応援に行くことに賛成だった。自分の学校から、どういう人が出るのか楽しみだが、会場の雰囲気がどんなものかはもっと楽しみだ。

 この話題が終わると、各々が食べた分の支払いを済まして店から出た。

「次どうしよっか」

 買い物をするという大まかな予定は決まっているものの、どこでどうするかは明確には決まっていないので、施設の中を歩き回ってしまうはめになってしまった。だんだん脚が疲れてきたのか、歩く速さが遅くなってきた。

「そろそろ休憩にしない?」

 一番最初に音をあげたのは七海さんだった。僕もそろそろ休憩したいと思っていたところなので、この提案は、とてもありがたい。でも周りを見てみると、三人は全然疲れている様子はなかった。中村くんは部活をしているから、体力があるのは納得できるけど、あとの二人は何もしていないのに、なぜそこまで体力が有り余っているのか不思議だ。やはり買い物だから、楽しみで疲れなんか吹き飛ばしているんだろうか。

「二人はそこのベンチで休憩しよっか。その間に私たちは買い物してくるから、後でここで合流ね」

「俺も買うもの無いから休んでていい?」

「あんたは荷物番だからきて」

 中村くんが強制的に連れていかれ、僕たち二人だけ残されてしまった。これだと、何の為に五人で出掛けているのか分からない。買うものは無いけど、せっかくだったら一緒に行動したかった。

「変なこと聞くけど、空って私達と一緒に遊んでて楽しい?」

 なぜそんなことを聞くのだろう。もしかして、また気を遣わせるようなことをやってしまったのだろうか。それとも本当に僕が楽しんでいるように見えなかったということなのか。どちらにしても、僕は悪いことをしてしまっている。

「楽しいよ」

 こんな心配をされるのも、僕が無愛想なせいだろう。もっと表情豊かにできていれば、こんなことは絶対に聞かれなかったはずだ。

「それなら良かった。私達に気を遣ってばかりで楽しめてないんじゃないかとか思って」

「私は気を遣ってるつもりは無いわけじゃないけど、もうこれは癖になって抜けないんだよ」

 考えてからしか行動できないのは昔から全然変わらない。慎重だと言えば聞こえはいいが、これは臆病で行動できないだけだ。だから自分のやりたいことが出来ていそうな茜さんや意思を持っている中村くんとかは羨ましい。

「私が言ったことは忘れていいよ。いらないこと聞いて、ごめんね」

「こっちこそ、いらない心配させたから謝らなくてもいいよ」

 気持ちを切り替えようとさせてくれたのか、手を叩いて話題をかえてくれた。僕は話を聞いているだけみたいになってしまったけど、楽しく明るい話題だったから、時間が過ぎるのが早く、気がつけば茜さん達が帰ってきていた。もう少し話を聞いていたかったので、まだ帰ってこなくてもよかったのにと思いつつ、また五人で買い物を再開した。

「今度は服買いに行こっか。いいとこ見つけたんだ」

 ウキウキしながら歩いている。よっぽど買い物が楽しいのだろう。僕は服には無頓着だから、何が流行ってるか全く知らない。今ある服だけで充分だと思うが、一応見て回っておくことにする。

「ここだよ」

 その店は、いかにもオシャレって感じでキラキラしていて、僕には眩しく感じた。今からここに入っていくのかと思うと、気持ちが全然落ち着かない。周りが店に入っていくので、気持ちが整理できないまま入店した。

「どれにしよっかな」

 僕以外の女の子と太川くんのテンションが上がっていた。なぜ太川くんまで、そんなことになっているのか分からないが、よろしくない考えでもしているに違いない。

「こんなとこ入ったことないからなぁ」

「私もこういうとこは苦手」

 中村くんも同じこと感じていると思うと、自分だけじゃないんだと、少し安心した。僕も女の子になったからには、服にも気をかけないといけないんだろうけど、どうも興味を持てない。だからからか、こんな雰囲気のところは入ってはいけないんじゃないかと、勝手に思ってしまう。

「空も同意見だったのか。その場にあってたら、服なんかどれでもいいと思うんだよな」

 その意見に首を大きく縦に振った。僕が思っていることをそのまま代弁してくれるんじゃないかってくらい考えが一緒だ。世の中にこんなことを思っている人は、どれだけいるのだろうか。

「空は何も買わないの?」

「こういうの分からなくって」

「じゃあ私が選びたい」

 いきなり話に割り込んできた。七海さんだったら大丈夫かなと思うが、茜さんだと何するか分からないから怖過ぎる。

「じゃあ、二人で空に似合う服、探そっか」

「やったー」

 勝手に話が進められてしまい、その話に介入する余裕すらなかった。どんな服を持ってくるのか緊張でいっぱいだ。

 少し時間が経ち、二人が僕に着させる服を数着ずつ持ってきた。試着室に行って服だけ受け取って着替えた。これはどうかなとか、こっちの方がいいんじゃないとか、僕が試着する度に真剣に話し合っている。

「これが一番かな」

 彼女達が試行錯誤して考えてくれた服を試着し、着るものが決まった。お会計を僕の服の分まで払ってくれていた。

「さっきまでと全然違うな」

「そーでしょ。でもそーちゃんは私のものだから手を出さないでよ」

 いつから僕は茜さんのものになったんだろう。でも今日は楽しかったし、僕たちが周りからチラチラと見られていなければ大満足だった。

 施設の外に出ると、別れる人に手を振って帰っていった。こうやって五人で出かけるのもいいものだな。

「ただいま」

「おかえりって、空が凄くオシャレになってる。どうしたのそれ」

 僕が帰ってきた途端、お姉ちゃんが凄く驚いていた。私達が選んだ服を来て帰ってと、二人がうるさかったので、そのままで着て帰ってきた。そうすると、この有様だ。

「空の友達に会ってみたい」

「それはちょっと……」

 あの人に会わせてしまうと、変に意気投合して、僕や七海さんに被害が出そうだから、できるなら絶対に会わせたくない。

 いつもの勉強場所へ着き、イスに座った瞬間に携帯が鳴った。どうしたんだろうと思い、携帯を開いて確認すると、皆で一緒に撮った写真が載った連絡がきていた。それに少し笑顔をこぼすと、明日の準備をした。

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