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春空の下で  作者: ヒマワリ
二学期
23/26

第二十二話

今回は少なめです

 体験入部以来、マネージャーの人達とは連絡を取り合っている。他愛のない話ばかりだが、それが結構楽しい。

「文化祭楽しみだなぁ」

 茜さんから話を聞き、文化祭で水希くんに来てもらう約束を七海さん経由でとりつけたらしい。三人とも初めては生で見たいと言っており、どんなイメージを持っているか、互いに言い合っている。

「その前にテスト頑張らないとね」

 中間テストの一週間前なので、ほぼ全ての部活は活動停止されている。その為、図書室に八人で集まって勉強会だ。松山さんはイメージ通り勉強ができるみたいだけど、他の二人が見事に理系が苦手のようだ。

「雅紀くんは教えるの上手いね」

 その二人と雅紀くんの関係は良好なように見えるが、なぜか松山さんは亜貴くんのところに行っている。どちらも静かにしているので、これといった目立った行動はないが、一人だけ少し離れ、初対面の人の隣に座るのは不思議に感じる。

「ついでに私にも教えてよ」

 彼が仕方ないといった様子で茜さんのところへ向かう。自分の勉強に手をつけられていないような気がして、席から立ち上がろうとした。すると、大丈夫と言っているかのようなジェスチャーをしたので、両手に力を入れるのをやめる。

「どこが分からないんだ。全部か」

 バカにするような言い方をされても、それを全く意に介さずに勉強を教えてもらっていた。嫌味を言われることには互いに慣れていて、今は言い返すのが面倒なのだろう。

「太川くんってどんな人?」

 そんなこと言われても、最初のインパクトが大きすぎて、可愛い子好き以外の印象があまり残っていない。

「素直な人です」

 七海さんとは違って、人を欺く行為はできないように思う。裏表がないので、良いように使われ、損な役回りをしてしまいそうではある。

「へぇ」

 まじまじと亜貴くんがいる方を観察している。そのせいか、一人で淡々と集中している山中さんの真面目さが際立つ。対照的に見える二人の接点は何だったのだろうか。

「あの、阪口さん」

 そろそろ勉強に戻らないとと思いつつ、気持ちに負けて話しかける。そうすると彼女は視線を僕の方に移し、真剣な表情を崩す。

「二人とはいつから……」

 山中さんを見るなり、にやつく。

「凛とは幼稚園の頃からかな」

 少し上の方を見ながら、一つずつ思い出していくかのように話す。自分の事を話されているのに気づいていないのか、意に介していないのか、彼女は全く聞き耳を立てている様子はない。

「反応が淡白で何度イラついたことか」

 山中さん以外、勉強そっちのけで僕らの後ろに立つ。松山さんも二人の馴れ初めは聞いたことがないのだろう。

「年長の時は私にべったりだったけどね」

 話されたくないことだったのか、少し睨みつけるような仕草を見せ、ペンを置く。

「香澄の方が私に泣きついてるじゃない」

 言われっぱなしが気に食わないらしく、反撃の体勢に入る。

「何回私が起こしに行ってると思ってるの」

 不満を言っているが、心の底では頼られて嬉しいように見える。気に掛けている分、心配になってしまうから、離れた時に寂しく感じやすいのは山中さんだろう。面倒を見てる側の方が見られてる人より依存していたなんていうのは、よく聞く話だ。

「起きようとしてるところだったの」

 親から宿題をやるように言われた子供の言い訳みたいだ。男性より女性の方が精神的に成熟してると言われているが、この会話を聞く限り、根本的な所は男女に差などないように思う。

「枕抱いてるのに?」

 見た目からは想像しがたいので、ウケを狙っているのかと思ってしまう。恐らく安心感が欲しいから、自分の体温で人肌の温もりを感じようとしているのだろうが、何故かあざとさを感じる。

「それはアレだよ。ほらアレ」

 言葉を探しているように見えるが、目を泳がせていることから、曖昧な表現で切り抜けようとしているようにも見える。

「一人が怖かったんだよね」

「そうそう、って違う」

 揶揄うようにして笑っているのに対し、阪口さんが恥ずかしそうにしながら怒る。完全に形勢は逆転したが、このまま言われっぱなしということにはならず、しばらく暴露合戦が続いた。

「もうやめよっか」

 ようやく二人が冷静になり、終戦した。途中から勉強を再開したので、ずっと見届けていたわけではないが、恐らく口喧嘩に近い状態になっていただろう。

「そっちの話も聞かせてよ」

 雅紀くんに対する愚痴を混じえて、二人が昔話を始める。主に茜さんが小学生時代のことを話しているが、運動会や遠足などではなく、どの衣装が可愛かったかについてがメインだ。

「ほんとに女の子みたい」

 キャピキャピと話している五人と一緒に、亜貴くんが交ざっているのは違和感がある。

「これで私、思ったことがあるの」

 不穏な雰囲気を感じ、ペンを止める。茜さん達が集まっているところに視線を移すと、カバンからスケッチブックのようなものを取り出した。

「少しは面影が残ってるんじゃないかって」

 取り出したモノを広げ、他の五人が覗き込む。中に何が描いてあるかは予想できるが、どういう風になっているか気になる。

「意外と似合ってる」

「可愛いというより綺麗だね」

「隙が無い感じがいい」

 思い思いのことを口にする中、雅紀くんと一緒に近づいていく。

「絶対に着ないからな」

 隠してるところはあるものの、腕や脚の半分を出していたり、決して露出が少ないとは言い難い。衣装に合わせて、髪型もシンプルで肩甲骨辺りまでの長さがある。

「分かってる。だからこれだけでも」

 そう言いながらカツラを出した。僕はもう慣れてしまって抵抗感は薄いが、これを男の子が公共の場で着けるのは無理だろう。

「無理」

 きっぱりと断られ、意気消沈しているように見える。この結果を本当に想定できなかったのかと疑ってしまうし、彼女なら既に何かしらの手を打っているのではないかと勘繰ってしまう。

「昔なら着けてくれてたのに」

 不満を言いながらも、潔く引いているのが引っかかる。公共の場だからというのを信じたいが、不穏な感じが拭いきれない。

 その日の夜、心配になって雅紀くんに電話をかける。茜さんの反応が淡白すぎることと引き際を弁えてることに違和感があるという旨を伝えると、彼も同じことを感じていたらしい。

「探りを入れてもなぁ」

 あの人がボロを出すとは思えないし、他の五人も乗り気だろうから協力は無理だろう。

「とりあえず様子見だな」

 杞憂であることを祈るばかりだが、そんな都合のいいことは起こらないだろう。

 電話をし終えたので、眠りにつこうとしたが、気になって眠れない。余計に目が覚めてしまうかもしれないが、頭を切り替えるために勉強を始めようとしたところで、ノックの音が聞こえた。

「お邪魔していい?」

 いつもと違う断りの入れ方に驚きながら頷く。寝る前に来るのは珍しくないし、表情が真剣なわけでもないが、言葉が少し丁寧なのは気になる。

「他の新人に回せよ。なんで私と荒垣さんばっかなんだよ」

 話の内容は仕事の愚痴で、僕はずっと聞き手側になっている。といっても勉強しながらなので、真剣には聞いていないが、お姉ちゃんはそれでもいいらしい。これでストレスの捌け口となるのなら、別にどうってことはない。でも、そんな大変なことをするのが仕事なんだと思うと、僕に出来るのかと考えてしまう。

「私ばっかでごめんね。空も話していいよ」

「気にしなくていいよ」

 これといって話すことは無いので、そのまま勉強を続ける。すると知らぬ間に後ろに立たれ、両肩に手を勢いよく置かれた。

「何年一緒だと思ってるの?」

 右に振り向くと、顔が至近距離にあった。相談するほどのことではないが、話さないといけないような雰囲気が漂っているので、今日あったことを話す。

 帰ってから頭の中で考えていたこととはいえ、顔には出していないつもりだったのに、近しい人には分かってしまうものなんだろうか。

「茜ちゃんらしいね」

 話を聞き終えると、自分の中で納得したような顔をしている。もう少し感想が欲しいけど、それはワガママだろう。

「様子見か……」

 考え込んでくれているが、こちらが有利になる案など無いだろう。下手に動けば、助けるどころか追い討ちになりかねない。

「もう手遅れなんじゃない」

 その確率が一番高いけど、僅かな光がある限り、希望は持っておきたい。

「じゃあね。私に隠し事は通じないよ」

 僕に人差し指を差しながら言葉を言い残すと、部屋から出て行った。睡魔が襲ってきたので、そのまま眠りにつく。

 

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