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第五十二話 変調3

「なぜ検体サンプル意識活動を(・・・・・)?! い、一体……どういう事なんだ……」


「信じ……られない。なんで……」


 『デクスター=アッブルト』とネームプレートを付けた男は、同じセリフを何度も口にして、俺と目の前の、空間そのものがモニターの様なモノへと、同様に何度も視線を往復させた。


 如何にも、信じられない事が起こった!

 といった有り様である。


 デクスターは視線と歩みを右往左往させ、呆然と研究室(っぽい?)部屋中をうろつく。


 ……信じられないのはコッチなんだが……

 なんだアレ、モニターなのか?

 まるで空気中の何かをそのまま代用している様な感じだな。スタイリッシュか。

 というか、全てがのっぺりとして、えらく未来的なスタイル……

 一体何処なんだ?

 て、今のコイツじゃ、あまりマトモに話が出来そうにないな……


 だが、暢気のんきに構えてて良い訳はない。

 ココは何処で、俺はどうなってしまってるのか?

 何より、魔物達の襲来は、仲間たちはどうなっているのか?


 ジリっとした焦りが不安となり広がる。

 だが目の前の男は混乱していて、落ち着いて話すには十分な時間が必要な様だ。


 ……さっさと戦線に戻らないと……


 …いや……、ただ闇雲に慌てて事を荒立てるのはマズいかもしれない。

 何しろ拘束されている手前、暴れようにも手だてがない…

 今の俺は、前世で最後に覚えていたメタボなオヤジの肉体なのだ。


 俺はそう思い出し、もう少しだけ様子を見る事にした。


 するとけたたましかった警報が止み、出抜けに男の後ろの壁際にあるスライドドア状のスリットがほんの少し発光した。

 直後にスッと両脇へ壁の一部がスライドする。


「あぁ、主任! 見て下さいよコレ!」 


 振り返ったデクスターが、スライドドア(?)から入ってきた女性に興奮気味に話しかける。


「私も向こうで見ていたわ、Mrアッブルト。検体に意識が……宿ったとは……驚いた。それから……」


 主任と呼ばれた女性は、男と同様に胸にプレートを付けており、俺はそれを難なく読めた。

 男の物より、より上質の光沢を放つ金属板プレートの様だ。

 【パメラ=アミテイジ】と小洒落た感じで光が浮き出ている。


「少し落ち着いて。私もココが警報の発生源になったのは初めてだけど……。取り敢えず切らせて貰ったわ。……五月蠅うるさいだけだから」


 彼女はその細長い指を口に当てる。

 暗に「騒がしいのは嫌い」なのだと、示している様にもとれる仕草。

 デクスターの上司であり、実際歳も上なのであろう。


 痩せっぽちではだけた白衣姿の彼女は、(実際はデクスターより身長は低いのだが)八頭身で且つ手足の長さもあって、ただでさえ背の高い印象を与えている。

 逆にデクスターの方は、褐色の肌色を持つ中東系アフリカンといった容姿で、バイザー状の極薄のゴーグル(?)を掛けており、且つドレッドヘアが存分に野性味を感じさせる。

 コーカソイド系に連なると思える女性パメラの反応がかなり淡泊に感じる。

 というのも、デクスターとは如何にも対称的であり、デクスターのリアクションが少々大袈裟に見えるのは仕方ないといったところか。


 一方、女性パメラの方はというと。

 その頬のこけ方と、普段眉間に皺をよせる癖でもあるのか、縦に幾本も筋が見える。

 その為疲れている……と言うか不機嫌、又は厭世的(?)にも見えるのだが、この時は天然のチークが入ったかの如く、顔色も少し上気し幾分高揚しているのが判る面持ちだった。


「は、ぁ……警報自体はAUTOですから……。ですがそれこそ、ただならぬ事態じゃないですか!」


「ええ、貴方の言う通りね。実に正しい。ココに在る検体が意識活動……を得たなんて……私も初めて見たもの。……最悪の場合(・・・・・)の可能性は?」


「それが不思議なんです…! ログには、あらゆる超空間量子のほつれ等の逆流は一切無く、寧ろこれ以上ない程の正常許容内数値のままなんです! それは古典的ですがID化したEPR対称(ペア)レコードでも確認されています。…こんな事今まで一度も無かったのに……結果的にこの量子データの解析内容では、覚醒というよりまるで今、ここで発生した、という解釈が一番しっくりくるんですよ。……じゃぁ一体どの時代の何者か? 目的は? そもそも原因は? という……」


「デク……Mrアッブルト、さっきから言っているでしょう。先ずは落ち着きなさい。……何も慌てる必要は無い。ココでなら、時間だけはタップリあるでしょう?」


 最早俺には訳の分からない単語を連発する、興奮冷めやらぬデクスターを、何やら含みのある言い方で牽制すると彼女は言った。


「さて、意識があるのなら、検体……彼は話せるのかしら?」


「さっき、凄い形相で睨まれましたよ…そう言えば確かに何か口走ってました…」


 デクスターがパメラの前にモニターを飛ばすと映像が映し出される。

 俺はそれを裏から見ている感じだ。


「思った程……混乱している様子では無さそうね……見て、最初は慌ててるけど、その後すぐ状況を理解して落ち着いている、そうしようと努力しているわね……知性、か知識かしら……少なくとも思考LVは凄く安定している……極めて高い知性と判断して良いと思う。……ねぇ、貴方。此方の言葉は判るでしょう?」


 痩せぎすの女性は、デクスターとの会話の途中で、唐突にコチラに顔を向けた。


 ようやく話が出来そうな雰囲気になってきたな……。


 肺をも満たすこの液体の中では息苦しさはなく、凡そ普通に呼吸(?)が出来ている。

 恐らくそのまま話す事も可能だろう。

 俺はおもむろに、言葉が伝わるか確かめながら口を開く。


――――――――――――――――――――


 自身をスタイと名乗った検体の話は、実際とても興味深かった。


 生前(?)――生身の肉体を持っていたという時代――の母星、地球での暮らしぶり。

 そこから原因は不明だが、(スタイ曰く超兵器内蔵の)機械人と成って未知の惑星に降り立ち、原住民と結婚し、子を設け家族を得た事。

 「魔力」や『神々』に【地獄】「魔物」、そして漆黒の直方体(モノリス)……


 時に懐かしみ、時にほのぼのと語りだすかと思えば、緩急をつけて次々に繰り出される波乱に富んだ日々。

 つぶさに表情を変える彼の話は、とても面白く楽しかった。

 Mrアッブルトですら、身を乗り出して聞き入る時があった。

 彼の話ぶりや内容に、誇張や著しい嘘が無い。

 というのも、思考波LVで読み取る徹底的なシステムの分析が、信用に足る人物と判断する決定打となったのである。

 少なくとも私はスタイに、人間的な素直さを感じ好ましく思えた。


 ココでも『神』と【魔】か……。

 有体に言えば、様々な種族との文化交流でしばしばお目に掛かる現象である。

 強力な生命個体をそう呼ぶ風習は、ある一定の民族観LVでは、ほぼ共通項として湧現する。


 ただ、私は科学を信奉する者である。

 作用の工程が目に見ない似た様な特徴を持つ、超感覚的知覚(ESP)やサイコキネシス等の精神感応力は、既に膨大な他種族との交流の中で解き明かされた技術体系であるが、魔力や魔素、と彼が放った単語について、その実質的な効力と特性を知りたい。

 という細やかな欲求が生まれた。

 他にも気に成る単語は出ていたのだが、この時パメラはそれを聞き流したことに何故か気づかなかった。


 ……それにしても、やはりあの特殊端末、ね。

 専属の超高機密AIとコンタクトが取れれば、よりデータ解析が克明になるのに……


 スタイの話にAIの存在が一切出てこないのは、特殊端末に内包されている超高機密AIの独立性が所以しているのは明白。

 ただ、それにしても不可解なのは、メタデータリンクしている筈の超AIの、最低でも現座標すら、未だ一切トレース出来ない点であった。




 ――じっくり彼の話を聞いた後、先ずパメラは、スタイに彼が知りたがった事(ココが何処で、外の状況がどうなっているのか)を端的に伝えた。――


[そんな馬鹿な! 有り得ない!……到底…信じ……られん!]

 

 スタイには混乱を与えただけの様だった。

 それも当然か。


 話を聞くに、彼の住んでいたという世界は、気も遠くなる様な時と距離を隔てているのは事実。

 尤も、事実だけを述べるなら私ではなくても良かったのだが。

 部下であるデク……Mrアッブルトは、検体スタイの思考データを食い入る様にモニターしているのみだった。


 相変わらず、部下デクスターの対人スキルは役に立たない……


 私は軽く顔を振り、スタイを内包しているケージの透明板キャノピー越しに、彼と視線を併せた。

 




 検体についての話からしよう。

 そもそも我々の見識からすると、


「検体の意識が回復した。」


 というより寧ろ、


「検体に『意識が宿った。』」


 という感覚の方が近い。


 我々に取って、ココに在る検体は既に何百体も復元処理されたものだが、その全ては単なる人の形をしたオブジェクトでしか無かった。

 

 検体とは、剥製同然の廃品扱い――ココはそういう場所なのだ。


 ココでいう検体とは元々、特殊探査端末が内包した超高機密AIのしるべとなる人の意識を、安定して発露させる為に身体を再現コピーしたものである。


[脳組織まで完璧に再現した肉体があるなら、意識が目覚めるのはそんなに不思議では無いのでは?]


 かなり混乱していたが、落ち着きを取り戻そうとしているのか、努めて冷静になってスタイは私に聞いてきた。


 何故そんな事が判るかというと、レセプター反応やセロトニン、ドーパミン量など脳内神経伝達物質は勿論、脳神経細胞電位ニューロン、果ては思念波といった量子解析をも自動的にスキャンし、思考まで全てモニターしている為である。

 コレは現代に於ける、極めて初歩的な医療検診システムである。


「残念ながら、それはシステム上(・・・・・)有り得ない話になる。この研究室ブースは、深宇宙探査用に散布された、――超空洞ヴォイド間次元跳躍特殊探査端末――がリンクしている情報管理部門の下部組織である情報処理課端末の、更に末端一区画研究室でしかないの。」


 と私は説明した。


[何を、言っている?‥…]


 私はもう一度、今度は彼に判り易い様に映像を見せながら、更に噛み砕いて事実を述べた。


 先ずココは天の川銀河であって、超空洞ヴォイドを隔てた、実質億光年単位も離れている、名も無い超銀河団の一画ではない、という事。


「……貴方の証言から推測すると、極超古代の地球……西暦を年期とする時代ね。更に21世紀と……そこからすると……判り易い様に例えるなら。……此れね、有った。『ダイソン球』と言えば判り易いかしら?……。私達が所属する銀河連邦は、母星である地球が在する『天の川銀河』から『アンドロメダ座Ⅱ』までを含んだ、それぞれの銀河核を覆う複数の『銀河核ダイソン球天体』から成り立っているの。」


 そう伝えると、彼は無言になった。

 絶句したと云うべきか。 


「大まかに言って……私達の居るこの区画は、貴方が住んでいたという母星――地球から、そう遠くない恒星系……天の川銀河核へ一万光年…といった所にある、銀河連邦所属、銀河間航行艦隊航宙旗艦の中、よ。」



――――――――――――――――――――



 目の前の年増…白衣姿の女性パメラが言っている事が、俺には到底理解出来なかった。


[……ウソだ! そんな無茶苦茶な!?……いくら何でも……大体、言ってることが判らない……]


「信じられないでしょうけど、私は事実を伝えているのに過ぎないわ」


[一体、俺は……何万…何億年未来に飛ばされてきたんだ……]


 絶望から漏れた独り言に、デクスターが口を挟む。


「それが、億年は経っていない……。有体に言うなら、そちらの地球時代から通常周期で凡そ10万年後の未来、といった所だね」


 ……アリエナイ!


 どう見ても※似た様な体型の、ほぼ一目で俺達の時代の現代人と殆ど違和感がない……とすると進化は……肉体的に、だけでは無く、言葉はどうして通じるんだ??


 ※厭く迄『灰色の宇宙人(グレイ)』と云った、所謂科学技術の発展(便利用品の進化)によって生活様式が変わり、細長い手足や退化した咀嚼口に巨大な目など、凡そ一般的な地球人とは思えない姿ではない、という意味で。


 俺の居た時代だって、高々数十年でニュアンスが違ってきていた。

 確か専門家(?)が言っていたし、俺もその意見に納得したものだ。

 個々人の情報拡散化が進むに随って、逆にジェネレーションギャップは加速する、的な事を…。

 俺がそこに突っ込むと、


「それはただ、歴史の一部分を抜き取って型に嵌めただけの揶揄ね……。いつの時代にも批評するだけの輩って居たのね。嘆かわしい……一つ貴方に教えましょう。今の技術LVは、意図的に時を閉じ込める事に成功した結果で成り立ってるの。その原因はメタデータと制定した究極のDB(データベース)を発見、アクセスに成功したから、なの。無限とも呼べる信じられない程の知識を元にして、我々銀河連邦は、驚異的な速度で発展を加速させてきた。……試算だと、それ以前の技術経験則から換算して、千年で凡そ実質5百万メガ年にも昇る……ね」


「そう、寧ろその為の『ダイソン銀河』連邦……誰も置いてけぼりには為りたくないからな。一つ技術的特異点シンギュラリティ突破ブレイクスルーすると挙って我先に追いつこうとする。」


 事も無げに大それた話をしてくるパメラとデクスターに、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 さっきから、意味が解らない……


「……効率を極限まで高めていく時代、況してや行動可能範囲は比べ物に成らない位広大に、更に異文明との交流コミュニケーションが盛んになるにつれ、もっともっと、先へ進んで行く……そこから限界突破リミットブレイクは繰り返され……」


「全てはスケールの問題なんだ。一つの惑星では起こりえない事象を宇宙の彼方此方で経験し、必ずそれを糧とする。……高次メタデータであり、内包する深淵メタデータなのだよ。付帯情報(データの為のデータ)では無いって事さ」


「……尤も、そうするしか無かった、原因があるのだけれど……」





 ……全く以て、ワ カ ラ ン !

 いい加減にしてくれ!

 なんかイライラしてきた。




 ……いいや、今はそんな事は……どうでもいい!

 俺は元に……妻や子供達の居る、あの世界に戻れるのか?!


―――――――――――――――――― 


 かなりのショックを受けているのだろう、押し黙ったままスタイは微動だにしない。


 私は歴史上、技術的特異点シンギュラリティを何度も突破してきた銀河連邦の民皆が知っている、ある事実を教えた。

 

 解析され既に一世紀以上経つが、『魂』の解明は成されている。

 という事を。


 そして意識活動とは、今世に於ける『魂』を内包した外殻であり、決してそれのみでは存在しないのだ。

 人の『魂』は一人につき一個である。

 多重人格などの症例も星の数ほどあるが、実際は二人分の魂がある訳では無い。

 その総量は、量子単位でほぼ個体差が無いのである。


「と言うのも……、」


 そこまで説明した時、スタイは噛みつく様に唸った。


[……仮にそれが本当だとして、記憶を持っているのはどう説明するんだ? 何故俺はこんな事に……いや、そんな話は今はどうでもいい、俺を…元に戻せ…無いのか?]

  

 彼は勘違いをしている。

 ここは正しておいた方が良いだろう。

 私はゆっくりと、言い聞かせる様に務めた。


「先ず、この事態は私達が意図的に起こした物ではない事は理解して欲しい。事故……としか言い様がないのだけれど……だとしても、凡そ因果関係が理証出来ないのが正直な所ね……申し訳ないけど。……検証する材料に事欠いているのが一つとして」


[…………]


 たまらず黙った、という所だろう。

 そのまま私は自分の見解を訴えてみる。


「貴方の記憶……意識体と呼ぶべきかしら、の件については私なりの仮説を立てる事は出来る」


[……聴こう]


「今の貴方の話だと、さっきまで居た、というその機械の身体は、我々の製造した特殊探査端末で間違いないでしょう。実際IDも思考ログも確認されているし。だとすると……恐らく、貴方の居た未知の惑星から超空間次元跳躍データ通信を介して、こちらにテレポートした。というのが私の見解ね」


[……よく判らない。少なくとも、俺の意志じゃない事は確かだ。]


「其れは此方も同じ。本来データのみ次元跳躍を認める(・・・・)システムなのよ。深宇宙探査用にデータベースとリンクする様、設計構築されているとは言っても、意識体その物を飛ばす様には許可されていない(・・・・・・・・)のだから。」


[……それこそシステムエラーじゃないのか?]


「…システム、エラー? ですって?…それは生憎とソフトウェアだけではなく、機構的にもまかり通らない単語なのよ。私に取っては寧ろ酷く理不尽な言葉に聞こえる……既に数世紀以上もの間、銀河間航行が確立している社会では特にね。」


[どういう意味だ? 元々人が作ったモノだろう? 間違いが全く無いなんて、それこそ分不相応……烏滸がましいと感じるが?]


 そうか、彼は……


「主任、僕らの時代の技術LVを、超々古代人の彼が理解するのは不可能だと思いますよ。」


 やっと顔を向けたと思ったら、相手の感情を考えない野次をMr……デクスターが臆面もなく吐く。

 こういう所が閑職に回される所だと気づかないのが、デクの悪癖である。

 警告されるまでも無く、スタイがムッとした表情をするのが見えた。


「デク、今の貴方の立場では、その物言いは要カウンセリングと判断されておかしくない案件よ。」


「……すまない、配慮のない言い方だった。……個人的に色々立て込んでて……どうか気を悪くしないでいただきたい。」


 バツの悪そうな表情になったデクスターは、あからさまに狼狽して見せるとスタイに手短に詫びた。

 スタイは無言であったが、システムが『彼は怒っている訳ではない』と思考ログをメンタルデータに反映した。


「……何があったか知らないけど、個人的メンタルリソースはクリアにしておくのが当然でしょうに。……話が逸れたわ。ごめんなさい、あらゆるデータは漏れなくアーカイブされているのよ。メタデータリンクされて常に最適化されていくから、もうここ五世紀ほど、特に内的要因に因る予想外な「事故」は、殆ど皆無なのよ。……例え超空洞ヴォイド越しに先の空間であってもね。」


 スタイは殆ど耳に入っていない様子で、さっきからジっと思案している。


「……だからこそ、今の状況は私達に執っても、とても奇妙で突発的な事態だったの……Mrアッブルトの狼狽ぶりも致し方ない、とは言えないけど、……申し訳ないわね、うまく説明出来なくて」


「……いや、それが「事故」と謂うモノだろう、別にそこを責めたりしない。ただあまりにも突然過ぎて、事態の納得が難しいだけだから…」 


 それから暫く押し黙ったままであったが、スタイは唐突に口を開いた。


[……頼みがある。]


「何かしら?」


[俺をここから出してくれ。……少なくとも俺が、アンタ達に取って危険な存在で無い事は、其方も判っているのだろう? ]


 私は熟考を重ね、ゆっくりと応えた。

 尤も、ココでは時間は余り意味を持たないのだが。


「判ったわ。許可します」


 思考すら読み取られて、危険性は無いとシステムにも証明予測、認可されたうえでの判断である。


「……まぁ当然そう思うよな。」


 珍しくデクスターが相手を配慮した物言いをした。

 思わずそちらを見て、私はその時のスタイの表情を見逃した。

 どの道常にモニターされているのだ、何かあればシステムが放っておく訳が無い。

 と高を括っていたのが大きかったのだが。


[ありがとう。心から感謝する。]


 その彼の表情の意味を、私同様システムは深く追求しなかった。

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