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―幕間インタルード―

 俺達は帝都南門でアルペンストへの帰還報告をし、ドワーフの徳さんやミラとメイリーダの聖都組、オウマ、少年少女達の在所登録を終えると、子供達を預けて久しい託児所に寄り、我が子達との再会を喜んだ。


「まぁ、カーシュエったら、こんなにやんちゃさんだったかしら? さぁ抱っこしましょうね。……フフフ。」

「お父さんお母さん、おかえりなさい! カーシュエ、さっきまでスゴイ暴れてたんだよ。」

[ただいまメディ。良い子にしてたか?]

「うん! 僕達イイ子たちだっていつも言われてたよ!」

[あぁ知ってる。俺達……父さんと母さんの子だからな!]


 毎晩精神世界で同期していた事もあり、我が子達から「誰?」なんて顔をされなかったのは良いが、世話役の保母さん達(?)には子供達がウチに戻るのを大層残念がられた。


 仕方ない、この一か月間ずっと交代で毎晩付添って貰っていたのだ。

 ただそれ自体は、預けられた他の子ども達も同じ様な境遇だったのだが。

 因みにグスマン&レジーナ=マコーウェル夫妻とグラバイド&アビゲイル=ヘイワッド夫妻の子ども達は既に両親が帰還しているので、お迎えに来た彼等が自宅に戻したそうだ。


[(そういやダスティン達の方はもうすぐだっけ。ま、明日にでも連絡してみるかな、久しぶりに。)]


 其れから俺は、あとから託児所の人達に充分な謝礼を送る事にした。

 無論国から手厚い報酬を貰っているのは重々承知していたが、これは気持ちの問題なのだ。


「うっわー! 小っちゃくてコロコロしてカワイイ! ワタシ機械人の赤ちゃんって初めて見た! ホラ真ん丸ちゃん、ラナンお姉ちゃんだよ、初めまして!」

「僕も。機械人はフリード様しか知らない…かったから、初めて見た。」


 少年少女マルコとラナンも気に入ってくれた様だ。

 ミラとメイリーダは流石にはしゃぎはしないが、微笑ましいのだろう。

 そういう表情で見ている。 

 ドワーフの徳さんは、何故か息子のメディを随分熱心に見守っていた。


 皆でテクテク歩いて行くとやっと我が家が見えて来た。

 ゲートの衛兵が気を利かせて獣車を用意する旨伝えてきたが、結構な人数になるのもあり、今回は俺が断ったのだ。

 帝都よりあてがわれた我が家は、「館」という程では無かったが、一応客間も多めの間取りである。

 数少ないSランク保持の協力者には、貴族御用達のかなり高価な物件が多種用意されたが、余りに豪奢な屋敷は俺に取っても気が引けて、上の下位のコンドミニアムにしたのである。


 尤も、手入れの行き届いた御洒落な中庭を有する、計20室は下らない三建て位の高さのアパートメントハウス丸ごと一棟の建物を、そう呼称するのが相応しいかは知らないが。

 それでもリベイラの実家と比べると「こじんまりしている」、とは言えるだろう。


 久しぶりの我が家へ戻ると、まるでさっきまで使っていたかの様に手入れされていた。

 留守にしていた間雇った執事連の人達の仕事だろう。流石に王侯貴族が多数存在する世界だ。

 こういうのは実に手際が良い。

 この地方の季節柄、未だ高めの気温を室内の空調が程好く調節している。

 妻が手早くお茶などを用意し、皆が人心地着くと、道中珍しく殊勝に黙っていたオウマが口を開いた。


「エエとこの物件やな……それにしても、大小の球っコロが二つ……スタやん、君も相当変わっとる思とったけど……こうしてみると、やっぱ君の子どもなんやな。カワイイもんやなぁ。」

『主殿、流石にそれは失礼かと……』

「デリカシー無さすぎ……」

「いや、ワイは素直に言うただけやで? 実際この子等、ホンマにスタやんと奥さんの子やいうの、判るもんな。」

[ん? いや、ヨーコもミラもそう邪険にするもんでもないでしょ。今のオウマの言い方は嫌じゃない。寧ろ嬉しいさ。な? リベイラ]

「もちろんよ。あら……この子達も人見知りする方じゃないけど……結構貴方達の事気にしてるみたいよ?」


 コロコロと末っ子の方がオウマの方へ寄っていき、見上げると何か光通信を発しだした。


「おぅ? なんや嬢ちゃん、ワイに興味津々か? ホラお揃いや、おいで~」


 ポン! と人型から素球体に戻るオウマ。

 途端にピョンと小さく跳ねてリベイラの方へ転がる末娘カーシュエ


「あちゃ~、フラれてもうたか。」


 いう程ガッカリしてる訳でも無さそうだ。というか楽しそう。

 へー、オウマってやっぱ子供好きなんだな。


「初めまして。僕はメディックと申します。」


 メディックが変形し人型になってオウマに挨拶する。


[メディ……お前いつの間に]

「だって、お父さんが何時もやってるからもう覚えたよ!」

「元気のイイやっちゃ。男の子はそんくらいやないとアカン、気に入ったで! ワイはオウマ、お父はんのマブダチや、シクヨロやで!」

「シクヨロ……よろしく、という意味。……それに父の親友なんですね。此方こそよろしくお願いします!」

「おー、中々利発なボンやなぁ。」

[オイオイ……ホントにいつの間にそんな台詞覚えたんだ? 父さんそんな言葉教えたっけ?]


 ビックリだ。前世(?)の言葉なんて……


「えっと、DBデータベースを参照したの。色んな事を教えてくれるんだ。」

「(私知ってたわ。リンクした時、賢者レイがレクチャーしてるのよ。)」


 あぁ、AIレイか……通りで。

 フッと、徳さんの表情が砕けて俺に向かって言った。


「そろそろワシは街へ繰り出すぞ。明日の朝には戻って来るから案内は要らん。流石に水を差す訳にもいかんだろうからな。」

[おや、ソレは申し訳ない。買って来ても良いんですけど……]


 まぁ、確かに飲む量その物が違うか。

 ドワーフの徳さんは背を向けると、手をヒラヒラさせてさっさと玄関ホールの方へ消えていった。


「あ! ワイも行ってくる! ほな、また明日なスタやん!」

「あら泊って行けば良いのに……もう行っちゃった……宿なんて帝都側にしかないのに。大丈夫かしら?」

[まぁ、アレでイイ大人だし、大丈夫だろ?]


 妻が止める間もなく、風の様に去ったオウマを気遣うが、AIヨーコも居るし心配ないだろう。

 ミラ達に部屋はあるから今夜はウチに泊る様声を掛けようとすると、自立センサーが見慣れない固有生体認証反応バイオメトリクスパターンを複数検知し、俺はグリッド越しにエントランスを見やる。


 割と大き目の獣車が停車し、中から複数の人影達が外のエントランスに侵入、そのまま玄関ブザーを押した。


 フム、……別に不審者の類ではない様だ。


 妻に促され、少年少女やメイリーダにミラ、我が子達も既にダイニングの方へ移動していたので俺は素直に直接応対する。


「失礼、マスターライト様でございますね。私共は「トライスティアード」の者です。」

[……はぁ、確か近衛の…その方々がウチにどんなご用件で?]

「はい。先ずは前以てお知らせもせず、この様な物々しい所帯でお邪魔致しました事、大変申し訳ございません。……実は、「お連れ様」の件でお話がございまして参上仕りました。」

[連れ…私の連れが何か不都合でも?…]


 ミラ達の事かな? 流石にオウマ達の件じゃなきゃいいけど……もしそうだったら……メンドクサイ。

 かと言ってマルコ達の拘束とかなら断固断るけど。

 あの子たちは俺が預かる言ったんだし。

 まぁ一々素性は明かしてないんだし、ソレは無いかな。

 

「いえ、不都合など決してその様な申し出ではございません。ただ……」


 任官のクープレと名乗った近衛騎士の話を聞くと成程、此れはミラ達を呼ばなきゃならない様だ。

 ご丁寧に手にした情報端末から俺に、直属機関からの親書に目を通す様促すと、なんら怪しい所はない事を提示してみせた。


 要するに、聖都の名家ベルグシュタット公の姫君が態々単独で警護する要人とは一体何者か? を調べた結果、其れが長年タイクーン王家が失効無期限重要依頼アンリミテッドミッションしていた、至宝とまで言われた歴史上の人物と知り、大慌てで情報部が近衛騎士まで要請派遣してきた。

 と云う訳である。何せ近日皇帝への謁見をも所望、とまで書いてあったのだ。


 こりゃかなりメンドクサイ……どーすっかなー、でもなー。

 ショウガナイ、恍ける訳にもイカンだろうし。


 了承した俺は彼らに玄関ホールで待って貰い、ミラとメイリーダを呼びに行き、事情を話す。


 てか早過ぎね? 帝都の情報部メチャクチャ優秀ジャン?!

 俺が内心の心情を吐露するとミラが即答する。


「いや、アタシの居所は護衛のメイリーダからも報告自体はされてる筈……そうでなきゃ外出なんてさせてくれなかったし。」

「はい、それは滞りなく。我が任務の一環として承っております。」


 ミラの憶測を、女騎士メイリーダがさも当然とばかりに裏付ける。


[あ! そっか、なる程ねぇ。確かにそりゃそうだ。……でも、皇帝が謁見を所望って随分身軽…てか凄すぎね?]


 小首を傾げながらミラが情報端末をプラプラさせる。


「多分……それ、今の教皇長スパリチューダーが皇帝へ向けて親書でも送ったんじゃないかなぁ……昔と違って今はこういう便利な物あるし。」


[ほぅ、そういう事もあるのか……それでさ、なんか今、丁度聖都の要人が迎賓館に滞在中らしいんだけど、警護してるのはゾラ=インテグレイス団長率いるアマゾネス部隊の少人数編成なんだって。それでミラは勿論、メイリーダ嬢にも是非そっちに来てはどうか、だって。]


 その瞬間、血相が変わったのは意外にも女騎士メイリーダの方だった。

 逆にミラが驚いて従者であるメイリーダを心配したくらいだ。


「え?! そうなのですか!…だ、団長が……今、帝都ココに居る?……」

「ど、どうしたの? 顔色良くないよ?」

「いえ……(さっきの悪寒はこれか…)」

[大丈夫かい? 都合が悪いなら帰って貰うけど? まぁミラ次第だけど……]

「アタシ? メイリーダが嫌なら行かなくてイイよ? 絶対こっちの方が居心地良さそうだし。」

「み、ミラ様! お気遣いありがとうございます! スタイ殿リベイラ殿、……どうか申し訳ないですが、今晩は……いえ良ければ滞在中、こちらに居候させていただくのは……いや、端下ないモノ言いなのは重々承知しておりますが……」


 珍しくピンチ顔の女騎士へリベイラが助け船を出す。


「……事情ワケがありそうね。こっちは構わないわよ。好きなだけ居て頂戴。ね、アナタ?」

[もちろんさ。事情は後でいい。ただ、近衛の人達に説明はしなきゃ為らないから、一緒に来てくれるね?]

「かたじけない……恩に着ます。」




 玄関ホールにミラ達を連れていくと、クープレのみ為らず居合わせた近衛騎士全員が揃って踵を併せ、儀礼式の様な礼を行う。

 うお、ちょっと……軽く引いてしまった。


「おぉ、タイクーンの至宝、アルタミラ=タイクーン=アドステラ様でございますね。……失礼、お初にお目に掛かります、私は人類軍情報特務機関上役、皇家直属近衛三騎士団トライスティアードに所属しております一介の騎士。名をクープレ=ラドスミス=ダリと申します。……そちらは《第一級戦闘女性騎士団ナイツ・オブ・アマゾネス》序列三の位、メイリーダ=ベルグシュタット=フィオレンティア殿とお見受けします……どうぞお見知りおきを。」


 なんて堅っ苦しい挨拶! てか、ナニその名前?

 ミラは王家出身だって知ってたけど、メイリーダてそんなサードネーム(?)だったの?


「……えっと…ありがとう、態々フルネームでご挨拶とは。隠しても無駄ね。アタシもそっちの調子に合わせるべきかしら? 悪いけどメンドクサイやり取りは勘弁して頂戴。」


 手の甲を口にあて、ミラが俺に呟く。 


「(情報局って奴でしょ? アタシは兎も角、流石に彼女のラストネームまでは知らなかったわ……こりゃやっぱりアンタのトコに厄介になった方が良さそう…)」

 

 それは別に良いけど。

 クープレはミラの要望に素直に応えて見せる。


「此れは失礼を。職務上御調べしたまでの事でして。存じているのは無論我々だけでございます。どうぞお気の召される様、御振舞ください。」


「それはどうもご丁寧に。じゃ、悪いけどアタシ達は今、極秘の調査を遂行中なの。帝都コチラに滞在中は、調査対象に一番近い此のお宅に寝泊まりさせていただくので、よろしくね。」


 見た目全然動じないミラの態度が頼もしい。

 落胆したのか、些か居心地の悪そうな表情を直ぐに消すとクープレは言った。


「作用で、ございますか……貴公、ベルグシュタット公の御息女はそれでよろしいので? そちらの団長殿も迎賓館にて待機しておられますが……」

「私はミラ様の警護任務中ですので、どうかお構いなく!」


 光の速さで即答するメイリーダに、近衛騎士が其れ以上声を掛ける事は無かった。

 一応、ミラ含む客人たちの身柄は俺が預かる事で了承して帰って貰った。

 

 その夜は皆で夕食を取り、俺は少々興奮気味の少年少女を別室の寝床へ案内すると、直ぐに寝息を発しだしたのを見届け客間へ戻った。

 其れから我が子達を寝かせつけ、戻って来たリベイラを交えてメイリーダの事情を聴く羽目になった。

 彼女が語る、団長にまつわる如何にも悲惨(?)な身の上話には、流石に俺達も同情を禁じ得なかった。


――――――――――――


 ――帝都側夜の繁華街、同区域内某所――


「アカン、アカンで、こんなん……詐欺や!」

『主殿……』

「黙っといてくれ、頼むから今は……あー、もうどないしたらエエねん……自信なくすわ……」


 夜の色街にオウマのボヤキが炸裂するのだった。


 ――一方、同区域内酒場――


「カーッ! この俺がぁ…ついていけねぇ、とは……何モンだアンタ、観た事ねぇ…! スゲェ、飲みっぷりだぜ! ぅあ、天晴だ! 一体……どこの…モン……」


 デイフェロはそこまで怒鳴る様喚くと、バタン! と頑丈なテーブルに突っ伏してしまった。

 ちなみに引き連れた呑み仲間はとっくに撃沈している。


「フン、ドワーフたる者、酒は浴び、浸る物よ! どれ亭主、出せる分は全て出すが良い。足らんゾ!」

「とっくに切れちまったよ! もう勘弁してくれぇ……」


 最早正体不明同然のデイフェロ率いるドワーフ一行、ドワーフの徳さんの豪放磊落な怒声と、矢継ぎ早な終わりのない酒のオーダーに根を挙げる店主の嘆きが、夜明けまで酒場から消える事は無かったのだった。


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