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第四十二話 オウマのスイッチ

 俺が一足飛びに皆の所に戻ると、そこは既に徳さんで溢れていた。

 いや、自分でも何を言ってるのかってトコだが、事実である。

 確か俺が見た時、現場はゴブリンやレプラホーン等の魔物がアチコチから出現していた筈だった。

 それが今は、逆に小さ目の徳さん達に占拠され、パッと見た目何処にも居なかった。

 

 あ、出てきた。

 と、空間に湧き出た片っ端から、即刻小っちゃい徳さん達にボコられ、地面に足を付ける間も無く消滅していく。

 まるでモグラ叩きである。

 が本体(?)である徳さんは、相変わらずつまらなそうに欠伸をしている。

 その内飽きたのか、何やら力を込めると「フゥー」と、その口から息吹を吐き出していく。

 清々しい風が一吹きされると、途端に魔物の気配が無くなってしまった。

 

「これは……正しく『神の息吹(ゴッドブレス)』……」

「なんと!…この目で御業を拝見できるとは…」

「凄い…!」


 ミラやメイリーダ、リベイラまでもが目を輝かせ、震えているのが判る。

 確かに神気を揮ったのだろう。

 其れまでの日陰の様な遮蔽感が消え、辺りには突然雲間が晴れた様な、陽の温かさが感じられる。

 ミラ達の言葉に、ハ?!としたマルコは、唐突に掴みかからんばかりに徳さんへと問い掛ける。


「あ、アナタが……『神』なの、か?!」


 一瞬咎む様な眼差しをメイリーダが向けるが、少年は臆することなく徳さんへ再度訴える。


「ぼ、僕は!……いえ僕たちは!『神』…様に! アナタ様に、お、お聞きしたい事が!」

「やめよ、童よ。ワシは単なるドワーフである。」


 マルコへ振り向いた徳さんが、重く力強い言葉を発すると、視線の合った少年は、突然目を廻した様に倒れ掛けた。

 すぐ隣にいて呆然としていた少女が咄嗟に支えるも、恐る恐る徳さんと眼を合わせると、もつれるようにして二人共足元に崩れ落ちてしまった。

 傍から見ると、まるで強烈な眼力に射貫かれ、失神したかに見える。


「な?! なんや?! ジャリ共になんかしよったんか?! アンタ『神』さんなんやろ?! 子供に、なにしとんじゃ!」

『主殿、それは違います…』

「何がちゃうねん! この子ら、今確かにアンタの目ぇ見て、倒れたよなぁ?!」


 オウマが色めき立つもAIヨーコに諭されるが、完全に頭に血が上っている様子。

 其れを聞いた瞬間、ミラが血相を変えてオウマを御する。


【黙りたもう! これは『神の御業』! 彼らが生かされているのが解らん、愚か者か!】


 渾身の魔力を載せ、額の血管が切れそうな程の真剣な怒号に、空気を読まないオウマも流石に一瞬鼻白んだ。

 

『主様、ご安心ください。彼らは通常有得ない程の肉体的損傷を受け、況してや文字通り復元、蘇生されたばかりなのです。速やかに体力を回復させるのは、間違いではありません。ただ眠っているだけなのですよ。』


 珍しくマスターを立てるAIヨーコの気遣いに触れ、オウマは少しだけ落ち着いた様子で仲良く横になった二人を見やる。

 すぅーと、穏やかな寝息を立てるマルコとラナン。


「…おぅ、さよか…そらぁ、悪かったわ…」


 その様子を、固唾を飲んで見守っていたのは、ミラだけでは無かった。

 一旦はしおらしく折れた様子のオウマに、ホッとするメイリーダ、リベイラたち原住民も同様である。

 が、二の句を放ったオウマが、その安堵を根底からブチ壊す。


「けどな、ワイは子供に手をあげる奴ぁ、心、底、嫌いや。特に弱いモンに己の都合を押し付ける輩はなぁ!」


 女性達の息を飲む音が派手に聞こえた。


【ここ、こ、このバカモノぉぉぉおお!】

「しぃ、し、痴れ者か貴様ぁぁああ! この!罰当たりが!」

「アナタ! この人、何とかして!」


 最早悲鳴に等しい状態で喚き散らす女性達を尻目に、其れまで無言だった徳さんが、オウマでは無く俺に訊いてくる。


「と云うとるが、スタイよ?」


[どうぞ…お気の済むまま、お納めください]

 

 なんだか一方的に悪者になってるが、実際今のオウマの言葉は、あながち間違いではない。

 現に二人の子供達に眼力、というか何か強い気配を放ったのは確かだし。

 ソレに俺は知っていた。徳さんの――国津神の性格を。


「クフ……グフフフ! 気の済むまま、とな。……グハハハハ!」


 ホゥラ、お出でなすった。

 単に微細な退屈しのぎに飽きたんだろう?

 オウマが俺と同郷なら、それなりの力を持っていると踏んでいるのは解っている。

 何より、実に楽しそうである。

 全く……つくづく戦闘狂というか、脳筋な神様だ。

 徳さんの笑う先から言葉に力が宿り、本来の霊力を伴っていくのが分かる。


【善い、良いぞ、そうでなくては。お主も『星渡り』なら、存分に揮うのだ。フハハハ!】


 見る見る小さい徳さん達が本体(?)に集まり同化していく。

 あっという間に質量を増大させ、本来の巨人の姿に戻っていく国津神を尻目に、オウマが抜け抜けと言い放つ。


「スタやん、ホンマにええんやな? ワイ、なんやツボに入ってもうたわ…」


 台詞だけ聞くと逃げ腰っぽくも取られそうだが、実際はオウマが血を滾らせているのが俺にも判った。


 案外コイツも脳筋なのかな。

 ……いや、きっとこの神が、そういう神(・・・・・)なんだろう。

 国津神と初めて相対した時、異様な程闘争心を掻きたてられたのを思い出す。


[あぁ、俺も一度やり合ってるし、全然大丈夫なハズ。寧ろ胸借りるつもりでさ、全力でブツかった方が逆に喜ぶと思う。]


 要するにただ戦いたいだけの「荒神」か。ま、其れだけじゃないンだろうけどさ。


「そう、やな……スタやんなら…そういうと思とったわ。ヨーコ! いつも云うとる「超絶AI」の力ぁ、見せたりぃ! ワイは最初はなっから全開やで!」


『主殿がチョーシ扱いて、足元掬われないヨー、頑張りまーす』


『ヨーコ、主のサポートは我等AIの本懐。しっかりやってくるのですよ。』


『はい! お姉様! お任せください!』


「あんじょう頼むで! ホンマ!」


 そんな遣り取りの向こう側では、国津神が苦も無く空間に大穴を開け、此方を振り向いていた。

 どうやら向こう側は魔界の様だ。例の赤黒い空と無毛の大地が広がっている。

 オウマには酷な、トラウマなんじゃないのかと心配してみるが、当人は全く気にしていない様子。


「今更ビビるんは有り得へんて。ワイは、やる時はヤル! 奴やねん!」

【フハハハ、存分に力を揮え! 善い供物となろう。】


 国津神ティーターンのその言葉に少しドキっとしたが、何も完全に破壊されたりはしないだろう。

 相手を殲滅すると言うより、戦う事そのものが何より好きなタチの神なのだから。


「ほな、行ってくるで!」


[おぅ! 気張ってな!]


 神と機械人は勇んで大穴の向こうに消えていき、空間の欠損した窓口は直ぐ様閉じられた。


 さぁてと…俺は怒鳴られるのを覚悟しながら振り返ると、意外にも女性陣の反応は別の方向へ落ち着いていた。


「はぁぁあああ! 緊張したー!」


「全く、戦い好きの考える事って……」


 アレ? リベイラは兎も角、ミラとかメイリーダなんか、泡ふいて卒倒しかねないかと思ったんだけど…


[…意外だ…案外、怒ってないんだね?]


「『神』が決めた事だもの。アタシ達がどうこう出来る訳じゃないし」


 ミラのドライな反応に妻が同意する。


「納得して貰えるならそれが一番なのよ……。尤も…神様が納得しない状況なんて考えたくもないけど」


「…私は…種ごと滅ぼされるかと思いました…」


 全身で脱力した様子のメイリーダは、其れ処ではない。と言った表情。


 確かにその通りだろうな。

 ……ただ、俺にはそう複雑な問題でもなさそうな気がしたが、口にはしない。


 さて、オウマが還って来るまで待つか、子供達が起きるまで待って移動するか決めあぐねていると、見覚えのある固有パターンが接近してくるのを、俺の自立センサーが拾った。


 振り返った先には、土煙を挙げて此方に迫る暗黒騎士のシルエットが見えた。

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