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第三十八話 急報

 一しきり笑い転げた後、俺は付近の様子を改めてスキャンする。

 現在地は聖都アガデの城壁より南南東寄りに約11km程離れた、広い丘の上である。

 もう少し離れた奥の険しい山の麓へと、鬼芝の様な緑がずっとなだらかに繋がっている。

 皆をこの場所に飛ばした理由を説明しようと振り返ると、ミラ達がリベイラに説明されながら徳さんに話を聞いていた。


「…事情は飲み込めましたが、宜しいのですか本当に。国津神様」

「ワシは徳さんぢゃ、今はそれ以外の何者でもない。しかし童よ、中々良い資質を持つ様ぢゃの、この姿のワシを一目で見抜くとは」


 確かに今のドワーフの徳さんは、何の変哲もない単なるドワーフにしか見えない。

 因みに俺の自立センサーでも気合を入れてメタアクセス/リンクしないと、徳さん特有の「特別な何か」は検出されない様だ。通常の状態なら精々個体別の固有パターンくらいにしか感じ取れないだろう。

 なのにミラは今の徳さんを見て、相手がどういう存在か一発で判ってしまった。

 此れはもう『直感』が優れているというより、そういう『才能タレント』を持っていると診るべきだろう。

 

「…おそれ多くも、未だ年端も行かぬ身ではございますが、私も魔女の端くれ。「力の流れ」に関しては少しばかり…」

「童が無理をせんで良い、のぢゃ。我は為りきっておる。特にああいう面倒くさい所ではな。我…ワシの事はドワーフとして扱うのぢゃ。他の扱いをしても知らんぞ」

「は、はい。その御神名に……貴方様にお誓い奉ります」

 

 ミラとお付きのメイリーダが揃って、深々と地に額を擦らんばかりに両手をついている。

 傍から見ると何だか不思議な感じもするが、相手は「神様」なのだ、と改めて思い知らされる。


「なぁ、スタやん。アレどないすんの? ほっぽいとってええのん?」


 どことなく厳かな雰囲気さえ漂う空気を、オウマが見事に叩き割って俺に訊いて来た。

 俺がここまですっ飛ばした、「曲者」達と「怪しいローブ姿」の集団は、ボチボチ逃げ出す算段を取り出す位には回復した様だ。


[一応、あの『ギルドうんたら~』のオッサンだけ捕まえておこう。事情は聞かないとだし]

「おぅ、んならワイがヤルで。結構ムカついたからな。あのオッサン、人の喋りバカにしよって…」


 オウマが飛んでいき、ヨーコがその肩についていく。

 一方やっと目を覚ました例のギスギスおっさんは、直ぐ近くに着地したオウマを最初はポケっとした表情で見上げると、直後にヒェっと怯えた声を挙げ、逃げようとするも呆気なくオウマにとっ捕まえられた。 

 その様子を目で追うミラが何となく首を傾げ乍ら口を開き、続いてメイリーダが反応した。


「?……あのての輩は大体想像つくけど、他の奴等も捕まえなくていいの? アンタ…スタイなら出来るでしょ?」

「同感です。あの男は既に皆の前で偽れない身元を公言しましたが、恐らく実働部隊には別の雇い主が居るハズです。魔導士達だけなら未だしも、隠密は本来『影に徹する』プロフェッショナル。一人一人の技能レベルも決して低くはありません。……その集団にあの様な街中で、しかも日中、人目も憚らず作戦行動をさせるとなると少し……いえ、かなりの権限を持つ者ではないかと」


 まぁそう思うよね。

 実際たった今、目の前でひっ捕らえられたおっさんには見向きもせず、「曲者」達はあっという間に散り去り、「怪しいローブ姿」の奴等も一まとめに集まると何やら集団で詠唱し、飛んで行った。

 俺はそこで何故追わなかったかの種明かしをする。


[あぁ、逃げた奴等にはもう、全員もれなくナノマシンを仕込んでるから全然問題ない、ですよ。な、レイ?]

『はい、マスター。彼らが何処に行き、何をしても、こちらで全てを記録します。』


 サラリとホログラムなAIレイが俺の右肩辺りに浮遊する。

 メイリーダが首を傾げ、ミラが何かに気づいた様に問い掛ける。


「ナノマシン?…初めて耳にする言葉ですね…つまり、何らかの精神的拘束を施す為の呪具、もしくは魔法具とかそういったものですか?」


 ほぅ、中々デキる…頭の回転の速い騎士の様だ。


[惜しい。結果的には近いけど、説明した通りですよ]

「ちょっと待って…問題はソコじゃない。その聖霊様、徳様の御伴じゃないの?…もしかして」


 「徳様」と聴いて、俺はひっくり返りそうになったが、肝心の云われた本人は知らん顔。

 続くリベイラの応えで、メイリーダはともかく、ミラの疑問は明かされた。


「あぁ、やっと判った。襲ってきた連中が、なんで最初からミラに狙いを付けてたのか」

「レイ、この二人にちゃんと(・・・・)自己紹介をしてみて。出来るだけ噛み砕いて、ね?」

[ん?]


 リベイラは納得顔で、賢者であるAIレイに促す。

 その時俺は意識下で、自立通信プロトコルがフィルタリングを介して「ある信号パケット」を受信したのを感知した。 


『畏まりました奥様。改めまして、お二人とも。私はレイ、命令権利所有者コマンドライン・マスター、『スタイ』の主機AIです』

「コマンド?…主機AI?…は良く分からないけど……アタシが知ってる『聖霊』様とは違う存在って事?」

『はい、その通りです。この惑星とは異なる技術体系に基づいて造られた人工物です。私の事はマスターの躯体を司る、従者としてお考えください』


 AIの自己紹介に取り合えずミラは頷いてみるも、向こうで派手な衣装のおっさんを締め上げるオウマを指す。


「あっちの機械人に付添う聖霊みたいなのも?」

『はい。私が再構築し、あの躯体の現使用者『オウマ』にsudoしたAIです。ヨーコと呼称しています』

「sudo?…要するにアレ…ごめん、あの機械人も『星渡り』てことか…大概よね」


 ふぅ、と溜息をつくミラに、リベイラが同情している。


「私達は予め事情を知ってるからだけど、普通は…確かに機械人が精霊を使役するのって滅多に居ないしね。そうね、私もそんな人…直接には知らないもの。この人たち以外に」

「う~ん、それもあるんだけど……アタシ、自分で言うのもなんだけど『力の流れ』…もっと言うと『力の存在』の目利きには結構自信あるの。少なくとも今の貴女達AIは、アタシにはかなり『濃い』の、存在そのものがね」

「貴方もそうなの?」


 リベイラがメイリーダへ聞くと、首を横にふってみせた。


「いえ、私は……単にそう見えただけです。聖都ですし術者も山程います、私自身も少しは嗜みますので。…ただ、純粋にとても透明度が高い上に、且つ輪郭がハッキリしてましたので……ひとかどの『精霊』ではなく、より格の高い『聖霊』様と見受けました」


 どうやら悪戯にきめの細かい描画が仇になったようである。


「そうなの? 私には単なる映像くらいにしか感じないけど…何か特別な事してるのレイ?」

『奥様、あくまで推論ですが…少しだけ魔素を取り込んで再編成しているからかも知れません。将来的にデータ領域で物理干渉をしたい懸案がありますので、検証しているのです』

「……何言ってるのかさっぱり解らない……」

「……」

「そうね。私も同感だわ。まぁ私達の間では伝承に出てくる『賢者』ですもの。…そうか。じゃぁミラ、貴女の事は誰も知らないのね?」

「? あぁ!…流石に三百年前の人間だってのは伏せて貰ってる。…自分が物凄いお婆ちゃんなんだって一々説明するの、考えただけでもイヤだもん。誰がやりたいと思う? 知ってるのはホントに一握りの高位管理責任者くらい…のハズ」

「私は勿論存じております。任務上。ですが騎士として、一人の人間として、他人の秘密を口外するくらいなら自決します!」


 リベイラは暫くメイリーダをじっと見つめると、確かめる様な口調で結論を出した。 


「判った、信用するわ……彼女ミラ、見た目通りまだ幼いから、しっかり守ってあげてね。」

「身命を賭して」

「あ、ありがとう…二人とも、その……よろしくね」


 俺にはこの時妻が、女騎士をバイタルスキャニングした事は判っていた。

 が、彼女メイリーダには黙っておこう、と誓う。

 愛妻リベイラに引っ叩かれるのは嫌だもんね。

 見た目は機械、中身はオッサン、俺のナイーヴな心が折れちゃうもん!

 

 …にしても照れた様子のミラは本当にまだ幼さの垣間見えるその辺の子供だな。

 そんな女性三人の会話の合間に、オウマはとっくにギスギスおっさんを締め上げていた。


「覚悟せぇよ。ワイの事、さっき散々見下しよってからに!」

「ヒィィィイイイ……お、お助けを。わ、私は命令されただけなんです!」

「先ず謝らんかい! ホンマ、ドツくど!」

「ご! ごめ……うわぁぁああ!」


 大き目の岩に固定され、仰向けに捉えたおっさんの頭の真横をオウマが拳で突く。

 ボン! と粉々に砕ける岩塊が空白になり、下からの支えを失った上半身が逆さになってエビ反りになったおっさん。

 最早顔面蒼白は必死、その破壊力を目の当たりにして口から泡を吹いたおっさんは、また気絶してしまった。


「ゴラァ! て、なんつーメンタル弱いやっちゃ。…アホくさ」


 オウマはもう興味を失くした、とばかりにオッサンをポイ捨てした。

 俺はたった今届いた信号を、下位の自立システムに解析させ、その裏付けを試みるも、結果は芳しく無かった。

 いかん…これは急いだ方が良いな。


[すまないが皆。ちょっと……俺は急ぎで行かなきゃならん所が出来た。]

「どうしたの? アナタ」


 妻が怪訝な表情で聞いてくる。

 すぐさま妻とリンクして訳を伝える。リベイラは即理解してくれた。

 俺は座標を特定し、そのまま空間転移シークエンスに入る。

 何もコマンドしなくてもAIレイが読み取ってくれたのだ。

 ピクリと、徳さんが反応するのを見掛けたが、今は構わない。

 ひょっとすると向こうはかなり死地に近い状態かもしれないのだ。

 

「スタやん、ワイどうしたらええん? ここおらなアカンの?」

「ちょっと…どっかに行くの?!」

[皆ごめん、ホントに急がないと]

『空間転移シフト、シークエンス最終カウント開始します』

「ワシは一緒に行くのでな。」


 徳さんがグイィと俺に抱き着いて来た。

 そう来るだろうね、アンタは!

 これは予測していた。が、それに付随する手が次々と俺に添えられる。


[ちょ、待て!]


 もうカウント入ってるって!


「ならアタシ達が行くのは当然ね! 調査なんだから!」

「勿論私には護衛任務がありますから!」


 おま!


「待ってーや! ワイも行くで!」

『マスター、初期入力値から誤差許容外の質量増大、空間湾曲率修正、位相欠陥トポロジカルソリトンエネルギー相転移試算…このままでは惑星上で重大な異常エラーが発生します』

『お姉様、お手伝いします! 補正開始、数値分散化再入力(オーバーロード)…成功。上書き更新(オーバーライド)…成功。』

『補正値承認。動的ダイナミクス主機構メインシステム数値改変再アップリンク設定完了エンドロック。再試算産出ノンエラー、アラート解除。』


 えら!


「私はアナタの妻なの。こうなったら…私だけ残る訳ないでしょう?」


 仕方ないなぁ、もう。


『亜空間フィールド固定。コンディショングリーン。カウント5、4、3、2、1。 空間転移跳躍テレポートジャンプスタート』


 あ、結局この場所に来た用事、忘れてた!

 俺達は半可視の膜に覆われ、空中に出現した大穴に飛び込み、その場所から消えた。

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