オーバーライド
[躯体変形!]
[躯体変形!]
[躯体変形!]
断じてフザけているのでは無い。
素体球から何度も人型に変形するべくコマンドを実行しようとするが、全く応答が無いのだ。
アレからどんなに呼び出そうとしても相棒であるAIの、メディ君は反応しない。
なんなんだコレは……なんでこんな事に。
再起動して移動した後、再度海岸に出たが、今度は迂回しつつ、今は生体反応の無い適当な広さの洞窟の中。
途方に暮れながらも、あの場に留まるのは俺自身いたたまれ無く、取り敢えず次の目的地を目指したのだ。
幸い現在位置は解る。基本的な機能のマップデータ等は---メディ君が今どうなっているのか判然としないが---こうなる事を予測したのか、ある程度は制御を渡してくれてたみたいだ。
元から突然この世界に放り出された俺では、数々の超兵器を内蔵した、この身体を完全制御する事は至難の業である。
が、なによりそれ以上に、少なくともどんな時も返事をしてくれた相棒が居ない現実は、おいそれとは容認し難い理不尽なのだ。
待ってろよメディ君。すぐ直してやるからな。
次の目的地に設定されているのは、確か機械人の反応と思しき場所だった筈だ。
なら、未だ可能性は或る。急ぎながらも俺は、今の自分がどれだけの事が出来るのかを把握する必要があった。
[躯体変形!]
[躯体変形!]
[躯体変形!]
コレが冒頭の有様である。今まで変形を意識する事と、掛け声くらいしか切っ掛けが無く、一応試しているのである。が、一切変化はない。
そうだよな。メディ君に任せっきりだったモンな。
だが落ち込む暇は無い。さっさと現状を克服しないと。
相棒を治すのは勿論、その為に情報を集めるのにも素体球では難易度が段違いであろう。
何より親方が折角用意してくれた身分証(大剣とローブ)も取り出せない。
それでは極端に情報が入り難くなる。
――トト族や親方の様な人達ばかりじゃないのが世の常だ――
だからこそ、相棒君が居ない今、俺自身がしっかりしないと!
クソッ! なんとかしないと! もっと強くイメージしないとダメか?
ジリジリとした焦りが圧迫していく中、俺はより強く意識を身体の内側に向け、もっと具体的にイメージしてコマンドする。
何度も何度も何度も変形のソレを繰り返し、身体中に意識を侵食させる様に、想像、妄想、執念!。そうやってどれくらい繰り返したか解らない或る時、
[んん? 何か……コレは?!]
例えるなら手探りで痒い所が見つかり、僅かに指先が届いた感触。
もう一度だ!……強く、強く!
[変形!!]
銀色に輝く、躯体人型強化形態に変形した!
出来たゾ! 俺もヤレバ出来るんだ。みたかッ! メディ君!
思いっきり身体の内側で叫んだ後、相変わらず返事の無い現実に一抹の寂しさを味わいながら、俺は相棒君を復活させる事を、改めて誓うのだった。
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AIである私は「漆黒の直方体」との遭遇後も、途切れなく監視していた。
だが、どんなにコマンドを実行してもシステムが反応しない。自己診断しようとしても、躯体その物が拒絶しているかの如く、全く制御出来ない。
最早私の制御下に無い事を証明するかの様に、その内躯体が勝手に再起動し、マスターが目覚めると、私を呼んでいるのが聞こえた。
『マスター! 私は傍にいます。安心してください』
だがマスターには届いている様子は無い。落胆し悲観したマスター。
がしばらくすると移動を開始した。次の目的地に向かうとの事。
私を治すと言っている。確かに必要な処置である。私は未だ意識を保っている。
『・・・』
だけど何なのだろう。これが「あたたかい」と云う感情だろうか。
僅かに、私の意識が「色」を持った。
やがてまた留まると、今度は躯体の変形を試みているマスター。
『マスター、未だその制御(変形機構)は譲渡していません。私が元に戻るまでは不可能です』
未だ私の声が届かず、何度も繰り返すマスター。
『マスター、時間の無駄です』
『(管理者権限を持たないマスターでは、変形機構は制御出来ないのです)』
隔離秘匿情報で思考してしまうが同期は切断され聞こえていない。
また何度も繰り返すマスター。
『!』
予測不可能な事「人が言う有り得ない事」が起こった。
私の補佐なしでマスターが躯体を変形させた。
変形機構のみとは言え、完全制御したのだ。
とすると
『上位管理者権限割込!』
マスター! それはオーバーライドです! 貴方は私を飛び越したのです!
一人格に過ぎなかったマスターが、私から制御を奪った。私は著しく混乱した。
――喜ばしくも淋しくもある。だけど、どこか「心地良い」――
予測を破る結果に私は満足する。
このマスターなら任せて良いのだろうか。
嘗て私を作成した管理者達の目的を、いつか開示出来るだろうか……
そして私は、その先の意識を保てなくなった。
ルビに伏字〇とか付けられないんですね・・・