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第三十七話 徳さん、吠える

「アンタたち…なにコレ…一体どうなってるの?」

「ミラ……? どうしたんです?」

(見つけちゃったじゃん!? 多分…だけど…間違いないハズ!)

(え!? もう判ったんですか?!)


 ミラと女騎士は互いに小顔を寄せ、早小口で言い終わるや、クッと此方に顔を向けた。

 

「あら、ミラじゃない!…もう『御勤め』は終わったの?」

[やぁ! スッカリ元気そうじゃないか、ミラ…て、]


 リベイラと俺が気付いて声を掛けると、眉間に小じわを寄せたミラに、俺は手を引っ張られる。


「ちょ、ちょっとこっちに来なさいよ!」

[は、なに、なんだどうした?]

(…アンタなにしてくれちゃってんの?! アレ、一緒に居るの神様でしょ?! 其れか大霊様?!)

[あぁ……]


 『神様』をアレ呼ばわりするのもどうかと思うが。

 まぁなんだ、其れがミラの、ミラ足る所以か。

 どうやらミラは、巨人ではなくなった国津神(現ドワーフの徳さん)を一目見た瞬間、その正体を看破してしまった様である。

 尤もそれ自体は〔魔女〕だからというより、ミラ特有の直勘に由るものだと後で判明したのだが、当の本人は疎か、俺達はそんな事知る由もなく。

 オマケに看破された側の当人は、至って恍ける事にした様である。

 とっくに気付いてる様だが、明後日の方を向いてピープーと、素知らぬふりを決め込む様だ。


 なんかイラっとくるな……まぁ、後で教えてあげればいいだろう。


[まぁまぁ、ちょっと落ち着いて……]


 と、取り敢えず俺達は、ミラと一緒にいる綺麗な女騎士も交えて自己紹介と挨拶を交わす。


[初めまして。俺…私はマスターライト、スタイと申します。]

「同じく初めまして。スタイの妻、リベイラ=ライト=アーセナルです。」


 キョトンとしていた女騎士は、ハ!と我に返ると、身に纏う優雅な鎧に恥じない完璧な所作で軽く会釈し、略式の敬礼をする。

 些か杓子定規にも感じるが、実に似合っている。


「お初にお目に掛かる。アマゾネス所属、メイリーダ=ベルグシュタットと申します。ご夫妻の御噂はかねがね伺っております……と、こちらは…」

「ワシの事は「徳さん」と呼ぶが良い」

「徳さん?‥‥ハァ…」


 何故かチラッとミラの方を伺うメイリーダは、ミラの表情から只者ではないと察したらしく、其れ以上のリアクションはしなかった。


「ワイは「オウマ」いいまんねん、なんやー! ごっつう別嬪さんやな! よろしくでっせ!」

「? ど、どうも……」


 イマナンテイッタノダロウ? とばかりに頭の上に特大の疑問符を浮かべるメイリーダに、サラリと宙に浮かぶAI達が追い打ちを掛ける。 


『私はマスターの従者、レイ。』

『レイお姉様の妹、ヨーコ。人よ、見知りおけ』


 えぇ? ちょっと何言ってんのこのガキ…基、AI娘は?

 ナニ? 厨二病? なんで?

 ていうか君、オウマのAIだよね? 今一言も触れてないよね?

 んで、綺麗な女騎士とお子様魔女は、ポカンと口を開け、随分と驚いた顔をしている。


「おぉい、そんだけかい! ワイの扱いどんだけゾンザイやねん!」

「???」

[ハイ、ごめんなさいねー、ちょっとこの子アレで]

[(レイ、ヨーコの教育は頼むよ?)]

『畏まりましたマスター、お任せください。ヨーコ、貴女にも私が経験した「説教部屋」に招待してあげましょう』

『やったー、お姉様の追体験が出来るんですね!』

『(不憫な子……未だ「本当の地獄」がどういうものか、判ってないのね)』

[いや、俺そんな怖い事したか??……わ、悪かったよ、ごめんな?]

『良いんです、マスター……うぅ』


 話 が 進 ま ん !


 俺は、御付の彼女が気分を害して無いかと、如何にもハイソな女騎士メイリーダを見やると、


「せ、聖霊さまが……お労しい」


 と頭を抱えている。

 …えっと……こっちもよく判らん。ミラなんてとっくに呆れてるし。

 結局こんな所で何をしてるのか、気を取り直してミラに訊いてみた。


「(だから先に応えなさいよ! こっちは『調査』を理由に城から出てきたんだから! お伴の『聖霊』様ですら、はしっこい奴等が目を光らせるのに……ココじゃね、いきなり『神様』が降りられたら…)」

「……フゥ……」

「(とんでもない騒ぎになるの!)」

[えー、そうなのかぁ……めんどくさいなァ……んじゃとっととココ出て、帝都に帰るか]


 のほほんと聞いていたが、あんまりミラが五月蠅く言うので俺は皆にそう提案した、その時だった。


「ちょっと君達、私はこういう者だが、話を聞きたい」


 は? いきなりナニ? 職質か?


 街中の往来は結構な人混みだったのに、いつの間にか俺達を中心に半径10mくらいのスペースが誰も居なくなり、縁取る様に人垣が形成されていた。

 後ろから声を掛けて来たその人物は、身なりこそちゃんとしてそうだが、既に胡散臭い雰囲気。

 軍兵、又は騎士かと思ったが……服装はどう見ても魔法職が好むローブ姿。

 かなり装飾過多で嫌みに見える位しつこいけど。

 大体アプローチするなら、何で態々俺達の後ろへ回り込んだのかなァ?。


『微量の魔素変性体の流れを検知してます。魔法みたいですよ、マスター。それと』

[(うん、判ってる。けど、なんか芝居がかってる奴だなぁ)]


 にしても気分が乗らないので、一旦無視してみる。


「うん?…おい? こら! そこの機械人、お前達だ、聞こえないのか! 今コッチを見ただろう! ワザと無視するな! この小紋が見えるだろうが!」

[…俺達の事か? 何か?]


 確かによく見るまでも無く、ご大層な彫刻を施した胸のコラージュ(?)を手で抓んで見せびらかしていた。

 なんだコイツ、変な奴だな。

 無駄に太っちゃいないが、痩せ型でなんだかだらしない感じの、全然見覚えないオッサンだ。


「聞こえているのならちゃんと反応せんか! 私が折角声を掛けてやってるのに…」


 その言葉は横暴な苛立ちを孕んでいる。

 オイオイ、なんだその言いぐさは。いきなり面識もない奴が何言ってる? 神経質か?


[いや、そちらは何様で、俺達に一体どんな御用で?]

「だから、この小紋を…なんだ、もしかして辺境から出てきた田舎者か? 魔導ギルドの小紋を知らぬのか? これだから機械人は…」

「なんやこのオッサン、ケッタイなやっちゃな。脳ミソ、虫沸いとんちゃうか」

「ケッタイ…? 何処の田舎訛りだ? あぁもう何を言ってるか判らん。とにかく、オマエ達の連れの、その術士の方に用がある、話を…」


 ミラが小さく溜息をつき、ほんの少しだけ身構えた様に見えた。

 スッとミラの前に出た御付のメイリーダが其れを制し、どちらかと云うと…いや、アレは大いに相手を見下している表情だ。

 礼を欠いたギスギスオッサンの科白を遮りメイリーダが問う。


「単に魔導の学術ギルド証を提示だけして於いて、それがなんだと云うのかな? 此方はその方の名も聞いておらぬが」

「ホゥ、これは見目麗しい……失礼した騎士殿。私は学術魔導ギルド、『地の六塔』《アウリス》に所属しております一介の魔導士に過ぎません。そちらの術士に憑いておられる『精霊』様について、少々お話を致したく暫く様子を伺っておりましたが、よく観ればその術士は大変お若い様だ。古今その様な齢の術士など、魔導ギルドは疎か、流石に神職にすら憶えがありませんのでな。急遽こちらで保護しようとお声を掛けた次第なのです」


 いや、それは無理があるだろう。俺達はたった今、二人と会ったばかりだぞ?

 大方、俺達のAIを精霊(?)と勘違いして、どう因縁付けようか探ってたんだろ?

 そこに丁度お子ちゃまがあらわれて、如何にもなそのミラの風貌に噛ませようとでもしているんだろうが……。

 いや、そうか。そもそもミラは見た目こそお子ちゃまだが、彼の魔法大御所の有名人なんだろ?

 まぁ一般人には伏せてるのかは知らんが。

 ギスギスおっさんをよく見ると、成程如何にも屁理屈を捏ねそうな、高慢な表情と態度だ。


 大体このオッサン、よくもペラペラと舌が回るものだ。噛まんのか?

 なんて別の意味で関心していると、


「其れには及ばん。既にこの御方は私、メイリーダ=ベルグシュタットが保護している」


 メイリーダが明確に名乗った途端、周囲の人垣からヒソヒソとどよめきが起こり始め、次第に歓声へと変化していく。あと、一部怒声も。


 ……ヒソヒソ…ザワ…ザワザワ……

「やっぱり……メイリーダ様だ!」

「ホントだ! メイリーダ様ァ!」

「キャー! やっぱりすっごい綺麗! お顔が小っさい!」

「戦闘乙女で可憐な御容姿なんて…不公平過ぎる! 悔しいぃぃ!」

「アンタ五月蠅い! ちゃんと鏡を見なさいよ!」「なんですって!?」

「うぉおおお! 大好きだぁぁ! 俺の嫁にぃなってくれぇぇえ!」

「なんだと?! アノ娘は俺ンだ…おい!コイツぶちのめそうぜ!」

「オマエモナー!」


 ウーン、悪魔的熱狂! なんちゃって。こりゃ相当な知名度の騎士らしい。

 言われて初めて気が付いたのか、魔導士(自称)のオッサンは変な汗を掻き出した。


「あ、…うぅ…そ、其れは」


 この時俺は、自立センサーが捉えていた、他にも怪し気な動きをする複数の人影達を、最初から見逃してはいなかった。

 無意識に相手の行動パターンが解析され、ほぼ全方位を囲む陣形をとり、こちらに攻撃態勢を整えたと断定。その内の一人が口に細長い筒を充てる。

 次の瞬間、フッと狙いすました小さな欠片の様なモノが飛んできた。

 到達予測軌道はミラだ。俺は手で叩き落とそうと伸ばしかけて、すぐ戻した。


 キン! と、分厚い手甲で叩き落としたのはメイリーダである。

 ご丁寧に吹矢を隠す為同時に別方向から投擲された、細い丈夫な紐の付いた跳び苦無も、一緒に叩き落とされ、カラン、と音を立て地面に転がった。


「隠密か…。全く、街中で物騒なものだ」


 先刻までの戸惑いなど何処かへ消し飛び、女騎士メイリーダはその顔に不敵な笑みを浮かべた。

 一瞬の静寂の後、


「キャー!」


 と太めな野次馬(♂)から野太い悲鳴が上り、ハっ?!とした群衆から続いて一斉に甲高い声。

 ソレに追従する様に黄色い叫びがそこかしこで場を満たすと、今までいた人垣がさっと散っていく。

 人々は敏感に危険を察知、避難した様で、あまりの鮮やかさに一瞬仕込まれたんじゃないかと疑った程だった。


 すぐさま立て続けに飛んでくる欠片――小さな矢の先端、分析すると毒性の固形物が塗られている――やクナイの様なモノの横殴りの雨を、素早く抜いた剣で華麗に叩き落とし捲るメイリーダ。


[ほー、ヤルな。流石女騎士]

「アマゾネスよ、戦闘でも第一級。その中でも彼女、三本の指に入るわ」


 関心するとリベイラが教えてくれた。へー、そうだったのかー。

 演舞? いや演武か。踊るように、且つ正確無比な一撃で、時には複数の攻撃を一閃し薙ぎ払っている。

 直ぐ近くでオウマがキャイキャイ騒いでる。


「見える! ワイにも見えるで! 嬢ちゃん、手伝ったるわ!」

「ほぅ? なら私よりミラ様を頼む」

「任しとき!」


 オウマはミラの前面に立つと半可視のバリアーを展開。

 とうとう暗器攻撃に混じり、鋭い曲線を描いて殺到してくる魔導弾丸(マジックミサイル)を完全に跳ね返していく。

 正確に跳ね返されたマジックミサイルは、放った相手に逆流し確実に敵を仕留めていく。


[おー、オウマもあんな事出来るんだ。やるなぁ……ぬ!] 


 ピクリと、ドワーフの徳さんが反応しだすのを俺は見逃さない。

 ヤバい、このドワーフ(国津神)が暴れ出したら…洒落にならん!

 なんかウズウズしだした様だし……

 対称的にミラは、ウンザリした顔をしている。


「マズい、これはマズいぞ…」


 ギスギスおっさんが何か震えてるが、どうでもいい。

 せめて街の外に出ないと危ない。周りが。


[おーい、二人とも! ここじゃ危ないから…っと]


 こっちにも容赦のない魔法攻撃が炸裂し始めたので、直前で無効化していく。

 周りの被害を避けた為だ。それでもとうとう予備詠唱を唱え始めるのを感知した俺はレイに頼んだ。


『マスター、座標固定完了、この辺りが的確かと』

[うん、相変わらずいい手際だ。]

『恐縮です』

[皆、ミラを中心にかたまってくれ! ……あらよっと!]


 俺は局所的に重力井戸を限定展開して、この場にいる全ての敵味方を丁寧にマーキングし、纏めて空に放り投げた。


「な!? 何事が」

「やっぱりね…アハハハ!」

「っほー! そっちもヤルなスタやん、ええ感じにキとるで!」

『ハハハ!』

『それそれー!』

「フフ。賢者達がはしゃいでる」

「フフン、外に出るか。丁度良い、ワシもちとヤりたくなってきた所ぢゃ」

[いや、それはホドホドに……(ていうか「ぢゃ」て…)]


「アッーーー!★く!+、¥わ%せ$dふ#&じloこ?!」

「うわっぁぁあああ!!」

「な!なんだ ど、どうなってるんだぁぁあああ!」


 キーーンと、音速越えは敢てしなかったが、飛んでる間に味方と敵を分けて其々切り離す。

 ドパン! と派手な音をたて、着地した時の衝撃で抉られた大地に立つと、遠くに聖都アガデの城壁が覗いている。

 うーん、大体山一つ飛び越えた辺りかな?

 叩きつけたのは勿論敵方だけだけど、大した怪我してないだろ?

 一応防護フィールドで覆ってたんだから。

 と奴等の様子を見てみる。忍び装束を洋風にアレンジしたっぽい服を着た「曲者」たち、赤茶けたローブを着た魔導士の数十人が碌に身動きも出来ず転がっていた。


「ハァハァ……い、生きてる…のか?」

「ここは…俺もう死んだんじゃ…」

「あぁ、きっと煉獄あたりだろうぜ…」

「ど、どうなって…我等は…」

「うぅ……」

 

 どうやら未だ状況が飲み込めていない様だ。当り前か。

 一気に十キロ近くスっ飛ばされたんだし。


[あー、君達? 別にまだ死んでないから。]


 俺が声を掛けると、灰色で統一された非忍び装束と茶色の集団が、ゆっくりと一斉にこっちを見て


「「「「「「うわぁぁああああ!」」」」」」


 と腰を抜かして後退り始めた。

 ところでギスギスおっさんは……未だ白目を向いて気絶したままだ。

 使えないなー。

 まぁ敵は戦意を喪失してるみたいだし、良かった、無駄に血を流さなくて済む。

 気力が復活すれば勝手に帰るだろう。元々序でに巻き込んだだけだし。


 俺がここまで皆を飛ばしたのにはちゃんと訳がある。

 その訳を説明しようと皆の方へ振り向いた時


【つまらーーーーん!】


 と、ドワーフの徳さん(国津神)が雄叫びをあげ、付近の大気や大地を文字通り揺るがすのを、俺は何故か愉快な気持ちで溜らなくなり、笑い転げた。

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